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随筆:「ありがとう」に対して、「どういたしまして」となぜ言わないのか?

 もう何年も前から気になることがあります。それは「ありがとう」と言われた人が、「ありがとう。」と相手に返している場面をよく目にすることです。普段、私は「ありがとう」と言われたら、「いやいや、大したことではありません。」とか「どういたしまして」と応えます。

 英語であれば、「ありがとう」にあたるThank you.に対しては、「どういたしまして」にあたるYou are welcome.と表現するのが正式な言い方でしょう。しかし、実際の会話では、「大したことありません」にあたるNo problem.やDon't mention itの表現や「よろこんで」にあたるMy pleasure.とかいったいろんな表現をよく使うそうです。 

 今更、言うまでもないことですが、「ありがとう」という言葉は、相手に対して感謝の気持ちを表す言葉であります。それでは、お礼を言われた人がその返答として相手に「ありがとう」と言うのはなぜでしょうか?お礼を言われた人は、逆に相手に対して何を感謝しているのでしょうか。そんなことを考えてからは、「ありがとう」とお礼を言った人に返す場面を注意して、この言葉の使われ方に気をつけるようになりました。

 私なりに分かったことは、そのような場面はテレビやラジオのインタビューで特に多いことに気がつきました。インタビューをする人は、インタビューをしてくれた人に感謝の意を伝えるために、「ありがとう」と言い、インタビューを受けた人は、自分の話を聞いてくれたことに対して、「ありがとう」と謝意を表現しているのではないだろうかと考えました。

 人にもよりますが、普通の会話の場面では、「ありがとう」よりも「すいません」という言葉を感謝の言葉としてよく聞きます。例えば、私が乗ったエレベーターのドアが閉まりかけていた時、だれか他の人が急いで走って来るのを見ると、「開く」のボタンを押します。するとエレベーターに乗ってきた人は「ありがとう」よりも「すいません」と言う人の方が多いように思います。この場合は「すいません」は感謝の言葉です。

 お店で、何か買い物をした時に、店員さんが「ありがとう」と言うのは、品物を買ってくれたお客に感謝の気持ちを述べる言葉です。それでは買った人は、店員さんに「ありがとう」と普段言うのはなぜだろうかなと考えました。

 コンビニに買い物に行った時、気をつけて観察していて気がついたのは、インタビューの時ほどは言わないのではないだろうかということです。でもお客さんの中には、店員さんに「ありがとう」という人もいます。コンビニで買い物をした人の中には、店員さんが「ありがとうございます。」と言っても、ただ黙って品物を受け取って急いで店から出ていく人もよく見かけます。

 それでは、買い物をしたお客さんで店員さんに「ありがとう」と言う人は、店員さんに対して、何に対して謝意を述べるのでしょうか。お客さんと店員さんという関係から判断すると、それは「品物を売ってくれてありがとう」ということになります。値段を大幅に安くしてくれたのであればともかく、定価のお金を出して買ったのであれば、お客さんがわざわざお礼まで言うことはないと思います。でも、それが本当に欲しいもので、買うことができたのであれば、私も「これがあって良かった。」と思い、さらに「ありがたいことだ」と思い、「ありがとう」と言います。また、たとえそうでなくても素敵な笑顔で店員さんに「ありがとうございます。」と言われると、私も「ありがとう。」とつい言いたくなります。

 このように、考えてみれば、「ありがとう」と言われた人が、相手に対して「ありがとう」と言葉を返すのは次のような理由でしょうか。「私はあなたの存在をちゃんと認めていますよ」という印であるとされる「こんにちは」というような挨拶以上に、「ありがとう」という言葉はその使い方として、相手を思いやる丁寧な言葉であると思います。ですから、「ありがとう」とお礼を言われた人が、さらに「ありがとう」と返す言葉の意味は、「私とあなたの出会いは「一期一会」であるかもしれないし、私はお客、あなたは店員という関係ではありますが、それでもこれも何かの縁であるという大切な出会いであるかも知れませんということを、言外に暗示しているのではないか。」というのが、私の結論としての解釈です。

この私の拙文を読んでいる皆さん、「私の文章を読んでいただき、ありがとうございます。」

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