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随筆: 歳を取ったので「出来ること」や「分かったこと」


 



1.  出来なくなったこと


当然ながら、歳を取ると、何年か前までは出来たのに、出来なくなったことが数々あります。以前は何時間も続けて本を読むことができたのに、映画を2本連続して観ることができたのに、2時間ぐらい休まずに車の運転ができたのに、もうできなくなった事などなどです。このように考えると、歳を取ることに対して、どうしてもマイナスイメージだけが膨らんでしまいます。
 
しかし、逆に歳を取ったので「出来ること」や「分かったこと」もあるのです。
 

2.出来るようになったこと


しかし、歳を取って出来るようになったことがあります。それは時間をかけてじっくりと何度も楽しむことです。例えば、ある映画を観たり、小説を読んだ後で、感動したり気になった場面をくり返し思い出して、考えたり、味わったりすることです。こんな事は現役で働いている頃、ほとんどしたことがありませんでした。なぜなら働いていると、そんな暇な時間はなかったからです。しかし、定年退職をした後、映画を観たり、小説を読んだ後、いろんなことを想像したり、時には妄想を楽しんだりするようになりました。
 
あの映画や小説は、少し違ったストーリーにしたらもっと面白くならないかとか、あの主人公のセリフを少し変えたら、その後どんなふうな展開になるだろうか、などなどです。こんな楽しみ方をすると作品の鑑賞がもっと楽しくなります。
 

3.もう一つ出来るようになったこと


高校生の頃だったでしょうか、石川啄木の「朝寝して新聞読む間なかりしを負債のごとく今日も感じる」という短歌を、国語の授業で習ったことをふと思い出します。しかし、定年退職するとこんな心配はありません。朝寝しても、ゆっくり新聞を読むことができるからです。我が家では、早起きの妻が寝床まで運んでくれた新聞を、目が覚めるとゆっくりと新聞を寝床で読んでいます。空腹が感じられた頃になると、朝食を食べるため食卓に向かいます。朝早くから通勤のために出かける人には申し訳ありませんが、ささやかな贅沢をしていると思います。
 
但し、多くの人は、特に新聞なんか読まなくても、通勤電車の中でスマホを開けば、最新のニュースがほぼ無料で読めるので、石川啄木の短歌を読んでも、「なんと大げさなことを言う人だろう」ぐらいにしか思わないだろうとも推察します。

4. 歳を取ってやっと分かったこと


かつて、歳を取った人の中でボケてもいないのに、どうして同じことを何度も何度も繰り返して尋ねるだろうかと長い間疑問に思っていました。最近になって、この理由が自分なりにやっとわかってきました。
 
その理由は「不安症(恐怖症)」が原因であると思います。私は昔から外出の際、戸締りをする時、不安のために何度も繰り返して、鍵がきちんとかかっているかどうか確かめる癖があります。年寄りが何度も同じことを質問するのは、これと同じようなことではないかと思うのです。つまり、何度も確認しないと、自分がうっかり約束の時間を忘れていたりするのではないか、自分が言ったことを相手は本当に覚えてくれているのだろうかと不安でしかたないのです。
 
もしも、読者の皆さんが、そのような場面に遭遇したら、「大丈夫ですよ。そのことはちゃんと覚えていますよ。心配ないですよ。」と声をかけてあげてください。歳よりは安心して喜ぶと思います。
 

5 .まとめとして


歳を取ると、それまでできたことでも、いろいろと出来なくことがあります。しかし、逆に「出来ること」もあったり、時にはそれまで分からなかったことが「なんだ、そんなことだったのか」と分かることもあるのです。
 
一人で公園のベンチに座っている年寄りを見たら、どのように思いますか。「寂しそうな人だな」と思う人がいるでしょう。そんな思いをしながら座っている人もいるでしょう。しかし、ひょっとしたら、今まで自分が経験した様々なことがらを振り返り、懐かしんで楽しんでいるかもしれません。私はそのような人は、今までの人生を何度も解釈し直しているのではないかとも思います。(そんな趣旨が書いてある文章を、どこかで読んだことがあります。)

過去の事実は変えることはできませんが、解釈をし直すことで、新たな経験をすることに相当する別な何かを得ることができるかもしれません。そのことは自分にとって、あらたな発見となることもあると思うのです。
 
歳を取った者にしかできない「ささやかな楽しみ方」を、これからも見つけていきたいです。

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