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随筆: 定年退職者は時間を持て余しているのか?ー私の場合ー

定年退職後、よく分かったこと


1 お金の価値がよく分かる


定年退職前、退職予定者の研修会で次のように言われた。
「お金の価値が本当によく分かりますよ。」つまり、今まで
何気なく使っていた千円が、三千円、時には五千円ぐらいの
感じになるとのことだった。これはすぐに実感することとなった。
何気なく使っていた千円ぐらいの買い物も、本当に自分にとって必要かどうか考えるようになった。

定年退職してもすぐには年金はもらえなかった。退職金を切り崩して生活するしかない。幸いなことに、しばらくするとアルバイトが見つかり、合計5年近く勤務することができた。この収入は本当にありがたかった。

2 定年退職後は暇を持て余すのか?


 先に述べた研修会である川柳が披露された。その内容は、「朝起きて、新聞2回読んでも、まだ10時」(正確には覚えていないが、こんな内容の川柳だった。)

「定年退職をして、家にいるとそんなに暇を持て余すのだろうか?
それなら、何かすることを今から決めておかなくては。」と思った。
しかし、定年退職して時間が経つが、「時間はあっという間に過ぎたな。」
そんな感じである。

 先に紹介した川柳にしても、定年後もアルバイトをしていたためもあるが、新聞を2回読むことなんて、とてもできなかった。それどころか日々新聞をゆっくり読むことが出来ず、新聞が積みあがっていった。

 時間がたっぷりあるので、本はしっかり読めるだろうと思っていた。しかし、元々読書のスピードが遅いこともあるのだが、現役中と読む量はほとんど変わりがなかった。それどころか、体力の衰えを次第に感じるようになり、時間があっても1時間以上連続して本を読むことはできなくなってきた。

 先に述べた研修会を参考に、暇で困らないようにと、定年退職前には、他にも園芸や勉強などいろいろと計画を立てた。園芸は元々好きなので、今も続けているが、最近は花を植え替えたりすると、それだけで結構疲れてしまい、本を読んだり他のことができなくなってきた。

 現役で毎日仕事に励んでいる人には申し訳ないが、忙しい毎日の生活の中でも、なんとか時間を見つけて本を読んだり、土日には家でゆっくりせずに、映画を観に行ったりしていた時の方が、日々仕事上のことで悩みながらも、懸命に生きて充実していたように思えてくる。
(過ぎた過去のことは、懐かしくそして良く思えて来るとはこのことだろうが。)

3 新たな経験より、自分の人生について新たな解釈を

 結局、もちろん人にもよるのだろうが、私の場合、歳を取るにしたがい、体力と気力などが衰えていくことを考えずに、定年前の体力と気力がそのまま続くことを前提としていたことを痛感し反省している。

 これからは現役時代よりも、同じことをするにしても、2倍も時にはそれ以上時間がかかり、また2倍以上も疲れることを考えなくてはとつくづく思う。

 したがって、これからはすること、出来ることを厳選してこれからの日々を過ごさなくてはと思っている。

 また、新しい本、映画、音楽を若者のように追い求めなくても、既に読んだ本、既にみた映画、何度も聞いた音楽でも、それなりに新たな味わいを感じながら、楽しむことができることが多々あることが分かって来た。

  昔読んだ本を開いてみると、ところどころに赤線が引いてある。自分はどうしてこんなことに感動したり、感銘を受けたのかと思うことがある。また同時に、昔読んだ時には何とも思わなかったところに、強い印象を受けることがある。

   身近な例を挙げれば、もう随分昔のことなのに、高校生の頃国語の時間に習っ方丈記の有名な一節「よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。」をふと思い出すことがある。これは「諸行無常」を分かり易く述べたものとして有名である。これを自然現象を記述したものとして理解することは、高校生であれば簡単に理解できるであろう。
 
  しかし、「うたかた」の存在を自分の人生と重ね合わせ、このことを「諸行無常」を述べたものとして、自分のこととして実感を伴ってその意味を考えることは難しいであるだろう。ところが、歳を取るにつれて、ますますこの言葉が切実な意味を持ち、否応なく私の胸に突き刺さってくる

 新しいことはあまりできなくても、今まで経験してきたことを振り返り、自分自身の事柄として実感を伴いながら新たな解釈をすることで、自分にとって新たな深い意味を見出すことはできるのである。

4 競争することから解放されて

 定年退職すれば、企業などで会長などにならない限り、みんなただの人である。現役時代、否応なく職場で同僚を意識し、気が付くといつの間にか競争させられていた。今はもう誰とも競争する必要がない。(但し、一つ長生きする競争はしてみたいかな。)「有難い時間を与えてもらったものだ。しかし、この時間はいつの日か突然終わるのだ。」と感謝と同時に自戒をしながら、これから毎日を過ごしていきたい。

※お断り: 一度投稿した文章を加筆しました。


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