『AEDの読み物なんて誰も読まないと思ってた僕が、AEDのエッセイを書き始めた話』
挑戦。それは誰にとっても簡単なものではない。
特に、挑戦の先に待っている結果が不透明だったり、誰からも期待されていなかったりする場合はなおさらだ。
僕にとって、AEDに関する読み物を書くことがまさにそれだった。
ある出来事をきっかけにAEDに興味を持ち、その後、AEDの普及活動に携わるようになった。
けれど、どうしても一歩踏み出せなかったことがある。それが、「AEDに関するエッセイを書くこと」だ。
AEDを題材にしたエッセイなんて、今まで一度も見たことがなかったし、仮に書いたとしても、誰が読むんだ?ずっとそう思っていた。
しかし、そんな僕がAEDのエッセイを書き始めたきっかけがある。
それは、作家の岸田奈美さんとの出会いだった。
毎日、AEDが登場するドラマやシーンをX(旧Twitter)に投稿するのが僕の日課だった。
ある日、岸田奈美さんのエッセイを原作にしたドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』に登場するAEDのシーンを投稿したところ、なんと岸田さん本人がリポストしてくれたのだ。
その時の驚きと嬉しさは、まさに挑戦を前にした時の心の揺れそのものだった。僕は思わず岸田さんにDMを送り、感想を伝えた。
すると、「視点のおもしろさに驚きました。フォローさせてもらいました」と返信が返ってきた。
さらに何度かやり取りを続けていると、岸田さんがこんな提案をしてくれた。
「そっちの話もすごすぎるから、noteとかに書いて創作大賞に応募してください」と。
AEDについて書くことなんて考えてもみなかった。
しかし、彼女の言葉を受けて、ふと「挑戦してみてもいいかも」と思ったのだ。
締め切りは5日後。普段なら「無理だ」と諦めるところだが、その時は不思議と「やってみよう」と思えた。
なぜその時だけは、挑戦する気持ちが湧いてきたのか?
その答えは今でもはっきりしていない。
ただ、岸田さんに報告したかった、彼女の期待に応えたかったという単純な気持ちがあったのかもしれない。
でも、その時は何よりも「挑戦しよう」という意志が自分の中に強くあった。
AEDについて書くこと、命を守るための機械をもっと身近に感じてもらうこと、それができるエッセイを作りたいという気持ちが強くなっていた。
5日後、僕は初めて書いたエッセイ『AEDあたためますか?』を創作大賞に応募した。
https://note.com/happy_ferret214/n/n1473f16736f0
結果は落選だったが、その挑戦自体に価値があったと今では思っている。
なぜなら、岸田さんの文章を読んで、「どんなテーマであっても、面白ければ読んでくれる人はいる」と気づかされたからだ。
「AEDの読み物なんて誰も読まない」と思い込んでいたのは、僕自身だった。
挑戦することで、その壁を越えることができたのだ。
もし僕のエッセイが、誰かにAEDの存在を意識させ、いざという時に命を救うきっかけになるなら、それはこの挑戦に大きな意味があったことになる。だから、これからもAEDについて書き続けるつもりだ。
そしてもう一つ、この挑戦が僕にとって特別だった理由がある。
岸田さんの言葉に背中を押され、挑戦を始めた僕は、ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』に登場する七実に自分を重ねていた。
七実が母に「発表したら」と言われたシーンと、岸田さんから「書いて応募してください」と言われた瞬間が重なっていたからだ。
岸田さんが僕を応援してくれている――そう、勝手に思っている。知らんけど。
挑戦することで、何かが変わる。そのことを僕は、このエッセイを書く挑戦を通じて学んだのだ。