A player says a prayer-幸祜『PLAYER』ライブレポ-
去る2021年12月29日、「バーチャルロックシンガー」幸祜ちゃんの1stワンマンライブ『PLAYER』が有楽町のヒューリックホール東京にて有観客で開催されました。
このライブは配信プラットフォーム「Z-aN」で有料配信されており、またより多数に届ける為の「実験」と称して、Youtubeにおいても、アングルが正面の引きで固定ではあるものの、リアルタイムでの配信が行われました。
第一部
ライブ冒頭、電光掲示板のような画面上に“READY?”と表示された後、流れだした文字列は、ライブ開催にあたりTwitter上で予め募集されていた「幸祜」を表象する言葉の数々でした。
「最後の魔女」、「夜を裂く彗星」、「稲妻」、「鋭い弾丸」、「幸福」、「前世がピカソ」、等々。
続けて画面に映し出されたのは、エレベータに乗り込み、ビルの高層から張り出した足場に佇むと摩天楼を見下ろす彼女の姿。
詠唱される口上の最後のフレーズ、“世界の中心で愛を加える”は例によって神椿スタジオお得意のSF作品からのオマージュ。ハーラン・エリスンの『世界の中心で愛を叫んだけもの』は「エヴァ」と「セカチュー」の元ネタで有名なクリシェですね。
ライブが始まると、“今夜限りのかっこいいアレンジ”の生バンド演奏に乗って歌が届けられます。はじめに披露されたのは「harmony」、「この世界に口づけを」の2曲。
まず印象的だったのは、幸祜ちゃんのフィジカルなパフォーマンスでした。身体全体を思い切り使った、まさしくロックな身のこなしがとてもクールでした。歌いながら小刻みに足で刻むビートはドラマーのサガでしょうか。いつかの生放送で“自然と足が動いちゃうんですよね”、と語っていたのを記憶しています。
“会場の皆さん、配信を見ている皆さん、盛り上がってますかぁ!”と
観客への煽りが堂に入っている理由もライブ後半に明らかになります。
そんなクールで洗練されたパフォーマンスと芯の通った伸びやかな歌声とは裏腹に、MCコーナーになると“こんばんはー、幸祜でーす!いぇいいぇい”と一気にユルく空気がチルアウト。“ものすごく緊張しています”と語り、トークが噛み椿カミカミになっている幸祜ちゃんの姿も可愛い光景でした。
以下続く「Ash」、「強欲」、「Dear」は学園RPGゲーム「モナーク」の挿入歌。“夢の、夢の、夢の、さらに夢だったので本当に嬉しかった”とゲームで自分の楽曲が流れることの喜びを語ります。こちらは神椿のトラックメイカーによる作曲、V.W.Pメンバー歌唱の楽曲がコラボレーションアルバム『Awake』に収録されています。
「強欲」では、そのリズミカルな拍打ちに合わせて会場のファンによるクラップが自然に発生していった光景がとても素敵でした。
音楽ジャンルというよりは精神的な面で「バーチャルロックシンガー」として歌っていると、以前語っていた彼女。そんな「魂としてのロック」の在り方に相応しいこの会場の一体感は神椿のこれまでのライブの中でも随一であったと感じます。
「レイヴン・フリージア」は新曲。幸祜ちゃんの歌声とピアノはとても相性が良いと感じていますが、新曲のこちらもまさにそんなピアノロックでした。
続いて「瞑目」。以前参加型MV企画のうち手書きの歌詞を募った「#幸祜_player3」の際、「あなたの辛いと感じたことは?」というお題も合わせて集められていました。幸祜ちゃん自身も、「周りが音楽から離れていったこと」と書いたのだと語られました。こちらは「瞑目」のMVに組み込まれています。
このMV企画を通して、“吐き出すことへの勇気をたくさんもらいました”と、幸祜ちゃん。
次に披露されたのは低音の重厚な迫力のあるダンスチューン「LIT」、そして新曲「花と蜜」、はいずれも大沼パセリさんの手による楽曲。“デビュー前に作られていた”という楽曲が今回のライブに合わせてお披露目された形になります。
さらなる新曲「錘」は詩も音楽もとても好みで、今回披露された新曲の中では個人的に1番好きです。
邦ロック、幸せの定義を求めがち?というのはさておき、この後に語られた彼女のバックグラウンドを鑑みると、「幸も不幸も」その身に等しく受け止めつつ「調和」を望む彼女の精神がよく歌詞に現れている一曲だと感じます。
“最後の曲です!”と宣言され歌われたのは「Last Bullet」。もはや誰も最後とは思っていないお約束の儀式となり果てているのでは。
“皆さん、手を挙げてください!拳を大きく上に高く!Let's go!”と会場を煽る幸祜ちゃん。最高潮となった会場の熱量が配信で見ていた私にも伝わって来るようでした。
第二部
舞台が暗転。会場のアンコールの後、「GUEST LOGIN」と表示されると、V.W.Pメンバーとのコラボレーションによる第二部の開始です。
“闘争本能マシマシ”の「刻印 」をヰ世界情緒ちゃん、“突き進みグルーヴ感”溢れる「輪廻」をヰ世界情緒ちゃんに加えて春猿火ちゃん、そして新曲「古傷」 が春猿火ちゃんとの“ココサルヒ”で歌われました。
それぞれの魔女単独でも強い個性がライブ空間でぶつかり合いながらも調和するV.W.Pという「現象」は毎回痺れるほどカッコイイ。
第三部
第三部、普段の戦闘モードな感じの衣装「ベラトリックス」とはガラリと印象を変えカジュアルな雰囲気のジャケットにミニスカート姿な新衣装、「アルナイル」に変身。長い髪をポニーテールにしているのでステージ上での動きが映えますね。女の子らしい可愛いさに撃ち抜かれました。
“幸祜が幸祜として活動できること”は当り前じゃない、と語り始める幸祜ちゃん。かつてドラマーとして携わっていたバンドに於いて、メンバーがどんどん離れていってしまった、という過去をカムアウトしました。
出会えた仲間、応援してくれる皆の声によって音楽を続ける「PLAYER」として、もう一度立ち上がったという彼女。私達から見える彼女の陽気なキャラクターの裏に秘めた想い。他の神椿アーティストにも言えることですが、一人ひとりが過去を抱え、様々な孤独や葛藤を通り越してこの場に立っていることが改めて実感されます。
Feryquitousさんによる楽曲「夜光を呼ぶ」「閃光の彼方」が歌われるとライブはいよいよクライマックスに。“祈りを込めて歌います”、と宣言され歌われたのは新曲「此処へ」。
大沼パセリさんが彼女から聞き取りをして作られた、彼女自身の心の内が歌われた一曲です。
これまでの彼女の不幸も、新たな出会いにより掴んだ幸福も等しく彼女を構成する、ひとりの等身大の物語として歌われていると感じます。
そしてラストソング。12月29日、2021年の年の瀬は、輪廻するかの如く同じ年の始まりの1月1日に公開された「白昼夢」で締め括られました。
さて、MV企画や今回のライブ、普段のツイートなどを省みると、幸祜ちゃんの活動は常に周りを巻き込んだものが多いことに気づきます。
活動に双方向のコミュニケーションを求めるスタイルはまさに彼女の「皆と時間を共有したい」という強い想いの現れであり、ここまで彼女を導いてきた信念といえるのでしょう。
https://twitter.com/KOKO__virtual/status/1426543198139125760?t=1-_axcwdpxmmQSxvki5SqA&s=19
アヴァンギャルドなイラストと独特のテンポ感のトークで神椿の中では比較的エキセントリックな印象を持たれがち?な彼女ですが、その実は、V.W.Pの皆が集まるライブのMCや生放送をよく観察すると、集団の中では自分が一歩引いて周りを盛り立てる役割に徹していると理解できます。
過去の人間関係での苦労を知ってからだと、調和、即ち「harmony」は彼女が最も重要視するところだと合点がいきます。
ところで、ライブそのものとは離れたところで、PIEDPIPERさんの明かした所によると彼女のデビューにあたり、現在のSWAVさんの手によるビジュアルになる以前にデザインにもう2名のイラストレーターの方が関わっていたことが分かりました。
1人目の方は定かではありませんが、2人目の方、「幽霊東京」のイラストで有名な焦茶さんはVTuberファンならAZKiちゃんの「2nd衣装」、樋口楓ちゃんの「ランティス衣装」のデザイナーといえばご存じの方が多いのでしょう。かつて花譜ちゃんのライブに「公式ファンアート」も提供されていました。
ライブ後半に演出として取り入れられた、ARで3人に「分身」した姿に勝手に意味を汲んでしまいますが、どうなんでしょう。
むすびに
“To be continued”。コンティニューという選択肢を選んでくれた彼女という「PLAYER1」の物語が、2022年も幸多からんことを祈念しています。