心象スケッチ‐不可解弐Q3、豊洲にて‐
“毎日がすごくつまらなかったとしても
生きる意味が分からなくても
例え魔法が無くても
魔法の無い世界に
魔法のような出来事を届けたい
魔法はみんなの心の中にあります
みんなが作る魔法、それが不可解”
これは、三十一箇月の過去と感じる方角からここまで保ちつづけられた、影と光のひとくさりずつ、その通りの心象スケッチです。
(※筆者注:ライブレポートではないシロモノになりました。これとは別にQ1:RE及びQ2:REのレポを上げる予定です)
2021年6月12日、「原点回帰」をテーマに花譜ちゃんひとりで全ての演目を完遂した『不可解弐Q3』。
花譜の活動をずっと観測してきた私ですが、このライブがはじめての現地参戦となりました。
青雀黑、金鶏という新衣装や、中盤のダンスナンバーで登場したELEVENPLAYのダンサー、そして新曲の「未観測」など、特筆すべきところは沢山あります。
しかし何よりも、ステージの上に、私の目の前に、ずっと会いたかった彼女がいて、眩しい光の中で歌を歌っていたこと。ライブそのものに不慣れで、最初はクラップのタイミングに気を使っていた私が、会場の一体感に身を任せてからは楽しくて、あっという間に時間が過ぎ去ったこと。
あるいはライブ前に、照りつける日差しの中で立ち寄った「アンサー」の聖地、晴海大橋で感じる風が心地よかったこと。
殆どこんなことしか覚えていないほど、現地での観測は一瞬の出来事に感じられましたが、丁度よくウェブメディアによるライブレポートが複数上がっているので、詳細な流れについてはそちらで補完をして頂いて、私は私の感じた心象を率直に書き留めることにします。
記憶に強く残っているのは制服姿での「帰り路」と「そして花になる」。2日間に渡ったライブの締め括りに、彼女自身の等身大の想いの詰まったこの2曲を届けてくれたことが、この上なく嬉しく感じられました。
また、彼女が語ってくれた言葉の一つひとつがとても嬉しくて、翻ってそれが記憶から失われてしまうのがあまりに惜しくて、アーカイブを聴きながらひたすら文字起こしをしたのが新幹線での帰りみちです。
近くて遠いところにいる彼女が、決して触れることのできない彼女が、”歌を標識に待ち合わせができたら”、なんて素敵なことを言っていたのがずっと心の中にあたたかく残っています。
”花譜というのはアーティストであり、ごく普通の田舎に住んでる一人の女子でもあって、それがごちゃ混ぜになって、不思議な自分になってて。それが花譜。花譜というアーティストを通じたわたし。物語を演じる森先化歩のわたし。花譜じゃない時の高校生のわたし。あなたの中のわたし。全部が花譜。”
これは、彼女自身がこれまで歩んできた自らのすべてを「花譜」として肯定すると同時に、私たちのこれまでの「観測」すべてが肯定された瞬間でした。
そして、魔法の無いこの世界で、彼女のうたう「うた」から私たちの心の中に生じた現象すべてが「魔法」であり、その魔法によって創造される行為すべてが「不可解」であり、私たちの観測するすべての彼女が「花譜」であると、彼女自身によって紡がれた言葉で語ってくれました。
何より、ライブの最後に、私たちに届けられたポエトリーリーディング、「魔法の無い世界」。これこそが、「花譜」を待っていた多くの観測者の心に強烈に響いたのではないでしょうか。
”魔法の無い世界で
ぼくらは手を繋いでる
これからどこにいこうかな
たとえどんな世界でも
この世界を愛してる
この街の夕焼けが、わたしは好きだ”
これまで彼女が紡いできた、「君とわたし」の物語がひとつの結末を迎えたと受け取った観測者が少なくないように見受けられます。
何だか遠くへ行ってしまったと思っていた彼女は、本当はずっと「ぼく」の側に寄り添ってくれていたんだという事実を伝えたい方がたくさんいます。
あるいは「海に化ける」の歌詞のように、大人になること、変化することに臆病にならず、前を向いたその先で、彼女は待っていてくれるのかもしれません。
”ウグイスが鳴いても
さよならなんかしてやるかよ
海になってあなたを待っている”
花譜ちゃん、物語をありがとう。
うたをすきでいてくれてありがとう。
ぼくらはずっと、うたをうたうあなたがすきだ。
『不可解弐REBUILDING』は、神椿が、花譜が、そして観測者がずっと抱えていた荷物を降ろして、前へ進むためのライブでした。
“わたしたちは、本当は、自由だよ”。
来年開催されるという『不可解参』を新たな“標識”に、形を失ったこの魔法の無い世界で、私達はそれぞれの日常を生きて、生きて、生きて、また逢いましょう。
”我らは不可解、されどむざむざに死にはせぬ。”
“А царица вдруг пропала,
Будто вовсе не бывало.
Сказка ложь, да в ней намек!”
Александр Пушкин
《СКАЗКА О ЗОЛОТОМ ПЕТУШКЕ》