夏の暑さとお水とさくら味-花譜『不可解参(狂)』@武道館
次の舞台は日本武道館───
2022年5月16日、深夜に花譜ちゃんのチャンネルで突如始まった渋谷の「聖地巡礼」配信(#100「前触」)、そのおしまいにスクランブル交差点に掲示された巨大な縦書きの広告看板が目に飛び込んだ時から、正直私の心には期待と不安が同時に渦巻いていました。
音楽にあまり詳しくない人でも、「日本武道館」という場所が日本の音楽シーンにおいて目指すべき大きな到達点のひとつであり、そのステージで歌うことが多くのアーティストたちの憧れであるというのは承知の通りかと思います。
2019年夏の恵比寿LIQUID ROOMからはじまった花譜ちゃんのライブシリーズ「不可解」。加速度的に高まる人気とファン(=観測者)層の拡大。コロナ禍の影響による三度の配信ライブを挟みつつ、ようやく有人で開催された昨年の「不可解弐REBUILDING」では2日間で延べ2000人ほどが豊洲PITに集結したということでした。
武道館のキャパシティは最大約14000人。スクリーンを使うバーチャルライブの構造上、反対側に観客は入れないためその半分の7000人ほどが実際の上限だろうことは、後に発表されたチケット販売のための会場見取り図でも分かりましたが、花譜ちゃんほどの人気でも果たしてそんなにたくさんの席を埋めることが出来るのか?と運営でもないのに妙に勝手に不安になったりもしました。
───杞憂でした。すみませんでした。
チケットが取れない。取らせてください。助けて。2度も抽選に落選しました。3回目でようやく取れた席は「見切れ席」。当日は2階の東側から会場を横から俯瞰するような形で、花譜ちゃんのもはや押しも押されもせぬ人気の高さをしみじみと感じていました。花譜、大きくなったな……
ということで2022年8月24日、日本武道館にて花譜3rdワンマンライブ「不可解参(狂)」が開催されました。
3rdだけど「不可解」シリーズとしては「不可解」、「不可解(再)」、「不可解弐Q1」、「Q2」、「Q1:RE」、「Q2:RE」、「Q3」に続く、実に8回目のライブになります。毎度のことながら、3rdとは。
八角形の箱で8度目のライブって縁起が良くていいですね。八卦良し。
18:00、「魔女」からはじまりを告げたMADな夜。
階段状のステージには複数の立方体のオブジェクト。正面にはリリック演出を表示するひときわ大きなスクリーン、そして左右上方の2つのスクリーンには花譜ちゃんの姿が大写しに。東側と西側それぞれから見やすいよう角度がついていました。
曲の演出によって二段のステージの上と下、そして左右端の角度のついた立方体のスクリーンの間を自在に行き来する等身大の花譜ちゃん。
私は東側から見ていたので、花譜ちゃんが西側に行ったときには姿が見えなくなって、彼女を上から照らすスポットライトだけが見えているのがなんかエモいなと感じていました。(※上部のスクリーンには大写しになっていました。)
ちなみに、私の席からは正面のリリック演出のスクリーンはスピーカーと右のスクリーンに遮られていて、左半分くらいしか見えていませんでした。配信で完全なものをじっくり確認したいと思います。
花譜ちゃんの両翼には計10名のバンドメンバー。ギター、ベース、ドラム、シンセサイザー、ピアノ、ストリングスはバイオリン×2、ビオラ、チェロのカルテット。そしてターンテーブル(DJ)。生み出される音の圧力は圧倒的で、私の左腕に触れている金属の手すりからずっとビリビリと振動を感じていました。
初めて見る白い「燕」姿は夏服でしょうか、涼しげでいいな。その姿であっという間に「糸」まで9曲を駆け抜けた花譜ちゃんの歌声。
一斉に、またはランダムに自動で切り替わる無線ペンライト、私もその光の海の一部として一生懸命に光を揺らしていました。音楽に合わせて計算された色の切り替わりは見事で、またペンライト初心者にとっては頭のリソースを割かれずに歌に集中できてありがたい。
続いて可不ちゃんとのデュエットで「化孵化」、「流線形メーデー」。「今日もとっても白いですね!」と元気に可不ちゃんに話しかける花譜ちゃん。
第三形態、「燕(壊)」。今回のライブキービジュアルさながらの変身はかっこよくて痺れました。ディティールは白燕の色違いのような感じ。黒さを増した衣装はまさに「魔女」感溢れています。
「花譜3周年10大プロジェクト」より、コラボレーション企画「組曲」からは×たなか「飛翔するmeme」、×大森靖子で「イマジナリーフレンド」。
花譜ちゃんの横で、主に立方体の枠の中でクールにパフォーマンスするたなかさんと、会場を縦横無尽に暴れまわる大森靖子さんの対比が強烈でした。
さすが不可解参(狂)の「狂」担当は伊達じゃない。1st「不可解」での「死神」coverからの縁が実った特別なRemixでの共演は感無量でした。
ダンサーの後藤栞奈さんの鬼気迫るような表現も圧巻。ぜひアリーナ席で見たかった。
「裏表ガール」は3月の高校卒業記念ライブで初披露された、花譜としての3年間の活動を総括した、彼女の想いのたくさん詰まった特別な歌。“フラッシュしてる日常は全部大切な裏表”。ゆったりとしたアレンジが涙腺を刺激しました。
ライブでの新たな試み、「KAF DISCOTHEQUE」。演者休憩のDJパート、会場が巨大なクラブへと変貌し、会場の一体感を高めていました。可不の楽曲のみならずネクライトーキーやP丸様。の曲が組み込まれていたのも面白かったですね。
「ダンスが僕の恋人」では東京ゲゲゲイMIKEYさん登場。1st「不可解」では「神様」をカバーした、花譜ちゃんが好きなアーティストとの念願の共演でした。
姉妹レーベル深脊界スタジオからはORESAMAをゲストに迎えての新曲「CAN-VERSE」、続いて「オリジン」姿のVALISとの共演「神聖革命バーチャルリアリティー」。二階から俯瞰で見ていたのでフォーメーションの切り替わりの美しさ、動きの機敏さがよく分かりました。今度は是非近くで迫力を感じたい。
「神椿市建設中。」謎の少年エルの手引きで空飛ぶ車で武道館へ到着した魔女ズの3名。今回はアメリカ留学中の理芽ちは不在なのかな……と思わせてからのサプライズ登場は見事でした。5人そろってV.W.P!
花譜ちゃんの「理芽ちゃんと離れたくない」発言の尊さに目を焼かれたりしつつ、
「深淵」with ジョチョ氏、「魔的 」with 理芽ち、「残火」 with はるぱす、そして新たな組み合わせ「歯車」with 幸祜ス。5人横並びでそれぞれ花譜ちゃんとのデュエットが入れ替わり方式で歌われました。
締めは5人での「共鳴」。最高にノれるV.W.Pきってのキラーチューンで会場のボルテージは最高潮に。早くライブで声がだせるようになって一緒に「せーの!」とか「ぱやぱや!」とか言って盛り上がれる日が来てほしいものですね。
舞台は再び花譜ちゃん一人のステージへ。
新たな歌唱用特殊形態「軍鶏」のお披露目。ダークなかっこよさがある中に、とさかとフサフサした尻尾、横からのシルエットはニワトリ感あふれていて、左右にちょこちょこと動き回る姿がとってもキュートでした。
「過去を喰らう」、「海に化ける」、そして「三部作の完結編」として歌われたのは新曲「人を気取る」。大人になることへの葛藤と拒絶感から海になった「僕」は再び人としての生を取り戻すのでしょうか。これも配信でじっくり歌詞を噛みしめたい。
「不可解」はスマホ撮影可能ということで、タグ付きでTwitterにたくさんの現地からの映像が投稿されています。ぜひチェックしてみましょう。それぞれ距離や角度の違う映像は見比べても楽しいですね。
「未観測」は昨年の不可解弐Q3で初披露された「不可解」から連なる歌。「食わず嫌いの社会はいつも苦みの僕らを僕らを切り裂こうとする こんな時代だからこそ 黙っているわけにはいかないだろう」という歌詞がとても好きです。セオリー通りに生きられない、半端者で未完成で不可解な「我ら」への賛歌に勇気をもらえる気がします。
そして「狂感覚」。こちらは「不可解」「未観測」に続く三部作の完結編。「お金とかビジネスとか効率とかそんなの全然美しくない」「でも僕らそれがないと生きられないから」「建前で愛を歌ったり 偽善で人を救ったり」という歌詞が強烈な印象でした。すごく正直。
「自分だけが狂っていると思うなよ」「だってそんなの寂しいじゃないか」という歌詞もとても好きです。ともすれば「正気でない」人々が排除される社会の中で、疎外された存在に寄り添うような歌詞に愛を感じます。
ライブの感想からすこし離れるのですが、以前読んだある本の一節を連想したので引用しておきます。
「狂」というライブのテーマについて、やさしいことばで言えば、「夢中になること」だという花譜ちゃん。誰かや何かに夢中になる、それが生きる力になる。狂気を肯定的に捉えなおすその優しさが嬉しいですね。
彼女の目を通し、言葉で紡がれる「世界」はとても美しい。
3時間に渡った武道館でのライブ。
フィナーレを飾ったのは、「バーチャルシンガーソングライター」としての花譜ちゃんの記念すべき一曲目、「マイディア」。#108「不可解参狂-予感壱-」で出てきた「VSS」とはこのことだったのか。そして真新しい洋服姿。これまでの不可解シリーズでは、最後は「制服」姿で歌うのが恒例でしたが、高校を卒業した彼女のいまの「等身大」はあのお洋服という事になるのですね。
やさしい歌声、青空と陽光、そしてオレンジ色のペンライトの光の海。すべてが一体となって、言葉にできないほど美しい光景でした。
作詞、作曲、そして歌唱。すべてを自分自身で行えるようになった花譜ちゃん。大人になった彼女の、アーティストとしての成長の一つの到達点を、同じく大きな到達点である武道館という場所で、この目で見届けられたことが嬉しくてなりません。
親愛なる花譜ちゃんへ。
こちらこそ、ここまで私たちを連れてきてくれて、ありがとう。
最後のMCで涙ながらに語ったこと、あなたのその想いが本当に、本当に嬉しかったです。
あなたの歌を、その姿を、その想いを受け取りに、これからも観測し続けます。
Crazy for you.
またね。