優生思想と植松聖
《優生思想》という言葉をご存知だろうか。
《優れた個体のみを残そう》という思想だ。
ヒトラーが支持した思想だ。
この思想はホロコーストやT4作戦に繋がっていく。
厳密に言うと2種類ある。
優れた個体を作ろうとするのは《積極的優生学》。
問題になるのは、「劣った個体を排除しよう」となる《消極的優生学》だ。
出生前診断やパートナー選びなど、個人でやる分には法律的に認められている側面がある。しかし国家ぐるみかつ、生まれてきた後の人間に対してやると国はめちゃくちゃになる。
生物学的に考えたとして、長い目で見ると優生思想は種を進化させるどころか種を滅ぼす。
「無駄なことを無くしていこう」
「生産性のみで価値を測ろう」
という理屈が成立するなら、愛玩動物は全部殺処分することになるし、芸能人や娯楽は一切不要になる。文化が消え去って、まるで調味料のない料理のように、味気がなくなる。
この思想を支持し、かつ生まれてきた人間に向ける計画を実行に移した男が日本にいた。
名前は植松聖。
かつて障害者施設で働いていた経験のある男だ。
彼は知的障害者を《心失者》と呼び、この世にいてはならない存在だと説いた。
そして働いていた障害者施設で大量虐殺事件を起こす。
小さな頃から作文にも「障害者は不要」という障害者に対するヘイトを書いていたというくらい、障害者に対する嫌悪感情は強かったらしい。なのになぜ障害者施設で働こうと思ったのか…。実行のシュミレーションのためかな?
彼の思想は紛うことなき優生思想だ。
そしてこれは誰しも持っている。資本主義社会とは相性がいいため、日本においては余計に強い。建前としては語られないが、本音としては強い。
それゆえ植松氏が掲げる思想は正しいようにも思えた。
しかし大前提として植松聖という人間は狂人だ。
刺青や薬物、整形をしていた。特に薬物をやっているのはかなり一般的な感覚からズレている。
そして彼の思想は優生思想だけではない。
「日本は大麻を合法化すべき」
「暴力団を軍隊にすべき」
といったよく分からない血迷った事を言っていた。《障害者の排除》というのは、それらの妄言計画の1つでしかなかった。
彼は虐殺事件を起こすまでナチスやヒトラー、優生思想の概念を知らなかったとのこと。
刑務所に服役している最中も、《救世主》《ヒーロー》《正しい思想を持った人》としてファンレターがよく届くらしい。
血迷っているし、間違った計画、思想であるのだが「知的障害者が事件を犯すと責任能力が無いとしているが、それは障害者を人と見ていない証拠」などと一見筋が通っている事を述べているからだろう。
しかし《責任能力なし》と判断されるのはなにも知的障害だけではない。
脳腫瘍による人格変化や認知症、統合失調症もそうだし、てんかん発作とかでも責任能力が問われる。
《人》と《病気》で分けているだけである。《病気》が《障害》に置き換わっただけだ。人として見ていない訳ではない。
「この先化学が発達して、障害者が生まれてこなくなったら、この男のやったことは後世で正当化されてしまう」
という時事系VTuberもいたが、仮にこの先障害者が生まれなくなっても、《生まれてきてから殺している》ので正当化されることはない。