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いろんなものがつまってる!百草蒔絵薬箪笥

2024年11月某日
重要文化財指定記念特別展 百草蒔絵薬箪笥と飯塚桃葉
根津美術館


展覧会のタイトル通り、飯塚桃葉が作った「百草蒔絵薬箪笥」が重要文化財に指定された。
これだけだと「ふ~んよかったね~」なのだけど、
博物大名たちのネットワークから生まれた美術の世界をフィーチャーする、ってことにピンと来た。

今年観た永青文庫の「殿さまのスケッチブック」がおもしろくて。
熊本藩細川重賢と博物趣味でつながる殿さまたちの入れ込みっぷりに感心しきり。
未知のものへの好奇心でガンガン動いてどんどんつながる、ってところにグッときたのだった。

今回の展覧会も「百草蒔絵薬箪笥」を主役に据えつつ、いろんなコネクションやコレクションが楽しめそう~
ということで、ひさしぶりに根津美術館へ行ってきた。


●第1章 飯塚桃葉とは何者か

まずは飯塚桃葉の作品に触れる。
阿波徳島藩の第10代藩主・蜂須賀重喜(しげよし)に仕えた蒔絵師。
聞いたことあるようなないような~という印象だけど、所蔵者が結構バラけているのでどこかで彼の作品を観ていたかもしれない。

・兎蒔絵印籠 ・千鳥蒔絵印籠
まるっともりっとした銀のうさぎや金の千鳥
繊細な散らし蒔絵とのメリハリ

・五岳蒔絵印籠
細川重賢の三徳(小物入れ) さすが殿さまにしつらえたものって感じ

・蘆雁蒔絵印籠
金地に墨絵風が繊細 根付けの存在感がすごい


波涛蒔絵鞍
阿波の鳴門の渦。蜂須賀重喜の命により桃葉が蒔絵を施したとのこと


・蓮池雲龍蒔絵厨子
中に小さな観音さまがいらっしゃる

・箏 銘 九江 
こと爪にまで蜂須賀家家紋をガッツリ入れているのがなんかさすがだ

・草花蒔絵組盃・盃台
杯セット。酒器。赤漆に金でいろんな花が描かれている
金のバリエーションで豊かな表現に


● 第2章 「百草蒔絵薬箪笥」のすべて


百草蒔絵薬箪笥と飯塚桃葉 メインビジュアル

この密度。でもスッキリしてて品があるというか。
ホントに100種類の草と虫たちが描かれているそう。
なんとこれ、薬箱の蓋の裏に施されたもの。開けてビックリ!
裏にこそ気合いを入れる日本人気質。
裏も表も全体的に技とデザインがみっちり。スキが無い。
ず~っと観てられる~

いろんな種類の草花が折り重なって。
金粉の細かさで濃淡が表現されていて。
ほんのちょっぴりの赤が効いてるぅ。


百草蒔絵薬箪笥 一式

もちろん外側もすごい。
箪笥の各パーツに異なる意匠が施されている。
幾何学模様と自然モチーフが混在。
自由なパッチワークって感じが楽しい。寄裂(よせぎれ風)文様というらしい。
引き出しの中のめっちゃちっさい箱も抜かりなく蒔絵。
とにかく飯塚桃葉の技とセンスが炸裂。


美しい銀細工の小箱と緑のガラス瓶

銀の箱の細工が素敵。四角もすごいけど九曜紋の丸と外側もすべて蓋つきになってるのがすごい!

内容品目録もばっちり残っている。
葛根麻黄芍薬大黄桔梗甘草牡蠣?澤瀉アンドモア

効能書、さじ、かき混ぜ棒も模様入り
緑のガラス瓶は水銀なを入れていた。ん?まだなんか中に入ってない?気のせい?

薬箱っていうのを忘れそうになる。
博物大名ならではの凝りようと金の使い方が気持ちいい。


● 第3章 「百草蒔絵薬箪笥」の制作背景

そして「百草蒔絵薬箪笥」と高松藩の「衆芳画譜」との関連性も興味深い。
いろんなことに興味津々な博物学の時代。


衆芳画譜 薬草第二

from高松松平家。高松藩5代藩主・松平頼恭(よりたか)の銘により作られた博物図譜。
13帖まである。平賀源内が制作に絡んでいたらしい。
そんなエピソードがさらにワクワク感を盛り上げるわ~
四角い紙からはみ出しちゃうのがあったり、
切り抜いたのを貼ったりしていながらも、基本的に真面目に写すって姿勢を感じる。
きちんと写してきちんと後世に伝えようとしたのね。
当然ながら絵が綺麗だし、いや~勉強になるわ~

衆芳画譜 薬草第三


・薬箪笥(服部宗賢所持)
雰囲気が百草薬箱に似てる。カジュアル版て感じ。
ちょい派手かも。センスのスパイスって、バランスが大事よね。

・薬箱(緒方洪庵所持、壮年期&晩年期)
こちらも結構装飾が施されているけど、より実用的な感じ。
ガラス瓶とか綺麗に残ってるな~


● 第4章 博物図譜の広がり

・写生画帖 菜蔬
唐辛子いろいろ。わさびも。
江戸の人たち、結構刺激が好きだったのかしら?
永青文庫でも唐辛子のバリエーションがいっぱいだった。

・貝尽蒔絵料紙箱・硯箱 小川破笠作
サントリー美術館で観たことがある。
貝がもりもりに象嵌されている。たまにヒトデやウニも。
真っ黒な背景にカラフルな貝たちが映える。
貝ってかなりメジャーなモチーフだよねえ。


● 第5章 自然を写す蒔絵

雪華図説 土井利位著

古河藩11代藩主・土井利位(どいとしつら)。
雪の結晶を観察し、86種を「雪華図説」に残した雪の殿さま。
仕事はきっちりしながら、20年に渡って観察したのだとか。
こういうエピソード、好きだなあ。

雪華蒔絵印籠 原羊遊斎作

雪花の印籠。めっちゃモダンで、フツーにかわいい。
雪花模様って普遍的なのね。

・土井利位書状 土井利位筆
殿さま、自分用の紙に雪花模様を刷っちゃった。
白抜き青ベタエンボスで、雪花をいい感じに散らして。
そしてフツーにかわいい。
もらった人が「おっ、土井の殿さまからの書状だ」ってすぐわかるね。

・雪華図大小鐔 後藤一乗作
刀の鐔にもさりげなく雪花。


木村蒹葭堂貝類標本

木村蒹葭堂の貝コレクショーン。箱も中身も貝だらけ!
細かく仕切って綿をしいて、それぞれに貝が入ってる。
お重みたいな箱にも横もびっちり貝が貼られている。
つーかお重何重やねん。な七重。で持ち手つき。
小川破笠と違って(たぶん)リアルな貝をまんま貼りつける豪快さ、好きだわ。

ちなみに谷文晁が書いた木村蒹葭堂の肖像画がめっちゃ印象に残ってる。
とにかくおもろいオッサンだったんだなあって面構えなの。


壁面に掲示されていた博物大名ネットワーク相関図とか、
蜂須賀家と他家のつながりとか、周辺情報がおもしろい。

おもしろいんだけど、その場で読破して頭に入れるには多すぎる情報量。
その辺の情報をサイトに載っけてもらえると、より理解が深まっていいんだけどな~

お家が途絶えそうになると、どっかから養子を連れてきて、
そうすると名前が変わったりしてややこしいじゃん大名家って。
徳島、高松、熊本、秋田、仙台などなど広がるネットワークの情報も、今後の美術鑑賞のために知っておきたいし。

てな感じで私も博物大名に負けず劣らず、コチョコチョと好奇心をくすぐられたのだった。

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