
夜勤の告白 - カウンセリングで解決した看護師モラハラ問題の一事例
大学病院の救急病棟で働く村山久美子さん(仮名・30代)は、ある出来事をきっかけに私のカウンセリングを受けることにしました。
「実は職場のことで悩んでいるんです」と、村山さんは初回のセッションで切り出しました。
最初の相談 - 夜勤室での出来事
村山さんが相談に来たきっかけは、午前3時の夜勤室での出来事でした。患者さんの容態が落ち着いた休憩時間、ベテラン看護師が新人看護師について言った言葉が引き金になったと言います。
「新人の佐藤さんってさ、本当に使えないよね。あんな子、看護師に向いてないわ」
この言葉を聞いて、村山さんは15年前の自分の姿を思い出したそうです。
「入職3年目の時、急変患者への対応で判断が遅れた私に、当時の主任が夜勤室で皆の前でこう言ったんです。『村山さんのような人がいると、患者さんの命が危ないわ。看護師に向いてないんじゃない?』って」
その言葉は村山さんの自信を根底から奪い、何か月もの間、夜勤前になると吐き気に襲われ、病棟の入口で足が震える日々が続いたといいます。
「今、私は管理職の立場にいるのに、同じことが繰り返されているのを止められない自分が許せなくて…」
カウンセリングでの気づき - 看護現場特有のモラハラ
複数回のセッションを通じて、村山さんと私は看護の世界特有のモラハラの特徴を整理していきました。
村山さん:「看護の世界には独特の要因があると思います。まず閉鎖的な環境。病棟という限られた空間で、同じメンバーと長時間過ごします。夜勤は特に少人数で逃げ場がありません」
「そして命に関わる緊張感。患者さんの命を預かる責任の重さが、スタッフ間の過度な緊張関係を生み出すんです」
「あとは厳格な階層構造。『先輩の言うことは絶対』という暗黙のルールが、理不尽な指示や過剰な叱責を正当化してしまう…」
村山さんとの対話を通じて、病棟でのモラハラには以下のようなパターンがあることが見えてきました:
選別的な攻撃 - 特定の人だけを標的にする
公開処刑的な叱責 - 皆の前での意図的な恥辱
実績の過小評価 - どんなに頑張っても認めない
噂の拡散 - ネガティブな噂を意図的に広める
業務上の妨害 - 必要な情報を与えない、難しい患者ばかり担当させる
共に見出した解決策
「では、どうすれば良いのでしょうか」という村山さんの問いかけから、私たちは一緒に具体的な対策を考えていきました。
1. 記録を取る習慣
「モラハラは『言った・言わない』の水掛け論になりがちですね」と私が指摘すると、村山さんは頷きました。
「確かに。でも具体的にどう記録すればいいんでしょう?」
私たちは記録の取り方について話し合い、具体的な日時、状況、言葉をそのまま書き留めることの重要性を確認しました。村山さんは小さなノートを用意し、「5/15 夜勤 3:20頃、夜勤室にて、A主任から『使えない』と言われた。B看護師も同席」というように記録することにしました。
2. 支持者を増やす戦略
「病棟内での孤立は危険ですね」という私の言葉に、村山さんは深く頷きました。
「確かに、ターゲットになる人って、一人ぼっちの人が多いんです」
私たちは支持者を増やす具体的な方法について話し合いました。
様々な年代の同僚と交流を持つ
他部署の看護師との関係も大切にする
弱音は吐いて良いという点に共感し合う
困ったときに助け合える関係作りを心がける
3. 「技術」という盾
「看護師として、自分の専門性を高めることは防御になりますね」と私が提案すると、村山さんの目が輝きました。
「そうなんです!私も実は、創傷ケアの研修を積極的に受けて、それが自信になりました」
私たちは技術を高める具体的な方法を話し合い、資格取得や専門分野の確立が精神的な支えになることを確認しました。
4. 毅然とした対応の練習
不当な発言にその場で対応するためのロールプレイも行いました。
「それは業務上の指導でしょうか、それとも個人的な意見でしょうか?」
「具体的に何が問題で、どうすれば改善できるのか教えていただけますか?」
こうした表現を実際に練習することで、村山さんは少しずつ自信を取り戻していきました。
5. 相談のタイミングとスキル
誰に、いつ、どのように相談するかについても具体的に話し合いました。村山さんの立場を活かした効果的な相談方法を見出していきました。
カウンセリングの成果
数か月後、村山さんは大きな変化を報告してくれました。
「あの夜勤室の雰囲気が変わってきたんです。私が『具体的に何が問題なのか、どうすれば良くなるのか』と冷静に聞くようになったら、他のスタッフも『そうだよね、ただ批判するだけじゃダメだよね』と言ってくれるようになって…」
村山さんは若手看護師への指導方法も見直し、定期的な個別面談や匿名でのフィードバックシステムを提案して、導入が認められたそうです。
村山さんは、
「かつての私が経験した苦しみを、次の世代に繰り返させたくないんです。カウンセリングで気づいたことを、病棟全体の改善に活かしていきたいと思います」と力強く語りました。
看護師として、人として
最終セッションで、村山さんはこう語りました。
「『厳しさ』と『モラハラ』の境界線は時に曖昧です。でも、相手の成長を願う指導と、単なる感情のはけ口や支配欲求は根本的に違うんですよね」
「夜勤室での何気ない一言が、誰かの心に深い傷を残すこともあれば、大きな支えになることもある。看護師として患者さんを癒やす私たちだからこそ、同僚の心も大切にできる職場を作っていきたいんです」
村山さんのような勇気ある一歩が、医療現場を少しずつ変えていくのだと思います。カウンセラーとして、こうした変化に寄り添えることを嬉しく思います。専門職であり、日々命と向き合う彼女たちも、誰もが傷つきやすく、時に他者を傷つけてしまう人間です。でも、その自覚があれば、より良い医療環境を作ることができるはずです。
村山さんも、私も、そう信じています☺️☘️