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「あの人が?まさか...」- 看護現場に潜む二面性を持つ看護師によるモラハラの実態

「素晴らしい指導者です」

「患者さんからの評判も最高です」

「病棟の雰囲気を明るくしてくれる存在です」

こんな評判の持ち主が、あなたを追い詰めるモラルハラスメントの加害者だとしたら?さらに、その苦しみを誰にも理解してもらえないとしたら?

看護現場において、この「見えないモラハラ」は想像以上に深刻な問題となっています。

 


笑顔の仮面の下で

総合病院の救急病棟で働く佐藤さん(仮名・20代)は、入職2年目から先輩看護師の木村さん(仮名・40代)からのモラハラに悩まされていました。

木村さんは、病棟でも指折りの人気者でした。患者さんからの信頼も厚く、医師からも一目置かれる存在。明るく前向きで、新人指導にも熱心だと評判でした。

しかし、その笑顔の裏側で、木村さんは特定のターゲットに対して別の顔を見せていたのです。

佐藤さん:「最初は些細なことでした。他のスタッフがいない時だけ、私のケアを細かく指摘してくる。でも次第に、『あなたのせいで患者さんが苦しんでいる』『こんなこともできないの?』という言葉が増えていきました」

病棟全体の前では「佐藤さんはこれからの看護師ね!」と褒めながら、二人きりになると激しい叱責。この落差に佐藤さんは混乱し、自分を疑うようになっていきました。

理解されない苦しみ

事態が深刻化し、佐藤さんが師長に相談した時、予想外の反応が返ってきました。

佐藤さん:「師長さんは『木村さんが?まさか...』という顔をされました。『彼女は皆のお手本になる看護師なのに、何か誤解があるのでは?』と。私自身も自信がなくなり、『私の受け取り方が間違っているのかも』と思うようになりました」

同僚に打ち明けても同じでした。

佐藤さん:「どの同僚も『木村さんはすごく優しいよ?私にはいつも良くしてくれる』と言うんです。中には『佐藤さんが何か気に障ることをしたんじゃない?』と言う人も...」

こうして佐藤さんは徐々に孤立していきました。自分の感覚を疑い、「自分がおかしいのかも」と思い始め、次第に体調も崩していったのです。

自己愛性モラハラ者の特徴と戦略

このような「二面性を持つモラハラ」の背景には、しばしば自己愛性パーソナリティ障害の特徴があります。自己愛性モラハラ者には、以下のような特徴が見られます:

 1. 徹底した外面の管理

同僚や上司、患者など多くの人に対しては「理想的な姿」を見せることに長けています。看護現場では特に、

- 患者さんへの丁寧な対応(特に他のスタッフが見ている時)

- 上司への適切な報告と協力的な姿勢

- 会議での建設的な意見と前向きな態度

こうした「公での姿」は徹底して管理され、多くの人から信頼を得るよう計算されています。

2. ターゲットの慎重な選定

無差別に攻撃するのではなく、特定の条件を満たす「安全なターゲット」を選びます:

- 自己主張が少なめの人

- 経験が浅い、または立場が弱い人

- 人間関係のネットワークが限られている人

- 真面目で責任感の強い人(自分を責める傾向がある)

特に看護師の世界では、「患者のために頑張る」という価値観を持つ真面目な人ほど、自分の辛さを訴えることに抵抗を感じ、格好の標的になりがちです。

 3. 保身のための周到な準備

自己愛性モラハラ者は自分の評判を守ることに余念がありません。

- 「念のため」と言って他者の失敗を記録している

- 自分の行動に対する言い訳や正当化を常に用意している

- 上司や影響力のある同僚との関係構築に力を入れる

- ターゲットの評判を少しずつ下げる根回しをしている

見えない孤立化

外科病棟で働く田中さん(仮名・30代)は、チームリーダーの斎藤さん(仮名・40代)から受けた巧妙なモラハラについて語ります。

「斎藤さんは病院全体でも評価の高い看護師でした。院内研修の講師も務め、患者さんからの感謝の手紙も多く届く方です。でも...」

田中さんが体験したのは、直接的な暴言ではなく、巧妙な孤立化でした。

田中さん:「私が休みの日に『田中さんの担当患者さんがトラブルになった』と周囲に話す。でも実際はそんなことはなく、戻ると患者さんは安定していました。でも何度もそういう話をされるうちに、『田中さんの患者はトラブルが多い』という印象が広まっていったんです」

さらに、少しずつ情報から遮断されるようになりました。

「重要な申し送りが私だけに伝わらない、カンファレンスの時間変更を教えてもらえないなど、少しずつ『うっかり忘れ』が増えていきました。そのため私は『報告が遅い』『情報共有ができていない』と批判されるようになったんです」

どうして誰も気づかないのか

このような二面性を持つモラハラが見過ごされる理由はいくつかあります。

 1. 人間の認知バイアス

「あの優しい人がそんなことするはずがない」という固定観念が、被害者の訴えを疑わしくさせます。

特に看護界では「思いやりのある」イメージと「モラハラ加害者」のイメージの乖離が大きすぎて、多くの人が認知的不協和を解消するために被害者の訴えを否定してしまうのです。

2. 被害の不可視性
モラハラの多くは「二人きり」の状況で行われ、物的証拠も残りにくいものです。特に看護業務の忙しさの中では、細かな言動の変化に周囲が気づくことは難しくなります。

 3. 被害者の変化が「問題行動」と誤認される
モラハラの結果として被害者が見せる症状(緊張、ミスの増加、体調不良など)が、「その人自身の問題」と誤解されやすいのです。

身を守るための具体策

このような状況に直面した場合、どのように身を守れるでしょうか。

1. 記録を残す習慣

日時、場所、内容、証人の有無を含めた詳細な記録をつける

- 可能であれば、直後にメモを取る習慣をつける

- 電子メールやメッセージなどの証拠となるものを保存する

 2. 複数の信頼できる味方を作る

看護界は人間関係のネットワークが重要です。

- 病棟内だけでなく、他部署にも人間関係を広げる

- 定期的に複数の同僚とコミュニケーションを取る

- 職場外の看護師仲間とのつながりも大切にする

3. 専門的サポートを求める

 病院内の相談窓口や産業医への相談

- 看護協会や労働組合のサポート活用

- 心理的ケアのための専門家への相談

成功事例 - ある看護師の逆転劇

小児科で10年のキャリアを持つ山田さん(仮名・30代)は、二面性を持つモラハラ上司との関係を見事に逆転させました。

山田さんは言います。
「私が取った戦略は『可視化』でした。上司が他のスタッフの前では良い顔をするなら、コミュニケーションの場を常に『公の場』にすることを徹底したんです」

具体的には、

- 一対一での会話を避け、必ず他のスタッフがいる場所で話す

- 指示や連絡事項は必ずメールやメッセージで送ってもらう

- 重要な話は「確認のため」と録音する(相手に伝えた上で)

山田さん:「最初は戸惑われましたが、『記録をしっかり残したいので』と説明し続けました。次第に上司の態度が変わり始め、モラハラ行為は徐々に減っていきました」

組織としての対策

個人の努力だけでなく、看護組織全体としてこの問題に取り組むことも重要です:

- 定期的な匿名アンケートの実施

- 看護スタッフの定期的なローテーション

- 透明性の高い評価システムの導入

- ハラスメント研修の義務化

おわりに

「あの人がそんなことするはずがない」

この言葉が、どれほど多くの被害者の声を封じてきたでしょうか。外面を取り繕い、保身に長けた自己愛性モラハラ者の存在は、看護という崇高な職業においても例外ではありません。

大切なのは、被害者の声に耳を傾け、「見えないモラハラ」の存在を認識することです。そして何より、自分自身の感覚を信じること。「おかしい」と感じたら、それは単なる思い込みではなく、あなたの正常な感覚かもしれないのです。

看護という、人の命と尊厳を守る職業だからこそ、この問題に向き合う勇気が必要なのではないでしょうか。

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