出産・育児のための休業と手当の話
人生の可能性を広げるお金の専門家
ファイナンシャルコーチの佐藤ななみです。
熊本日日新聞社発行の生活情報紙『くまにちすぱいす』で、お金に関する記事の執筆を担当して23年。ここでは、紙面でお答えした家計相談の中で、文字数の都合で説明しきれなかった用語やポイントについて触れていきます。
名付けて『はみ出し☆すぱいす』張り切って参りましょう♪
今回は、9月20日付(第744号)のご相談にちなんで「産前産後の休業と手当」について深掘りっ!
※ご相談者様に了解をいただいて記事をご紹介しています。
1.産休と育休
出産とその後の育児のために取得する休業をまとめて産休・育休と呼ぶことが多いかと思います。
「出産の少し前から子どもが1歳になるまで休暇を取得できる」
との認識が一般的かと思いますが、実は産休と育休は目的や根拠法が異なる制度です。
産休と育休の違い、あなたはご存知ですか?
1.産休とは
産休とは、正確には産前休業と産後休業のことで、労働基準法を根拠としています。
母体の保護を目的とした休業制度ですので、雇用形態を問わず、すべての女性労働者が取得できます。
産前休業は、出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合14週間前)から女性労働者の希望により取得することができます。この間に休業を請求された事業主は、女性労働者を働かせることができません。
逆に…妊婦さん自身が休業を希望しない場合は、出産直前まで働くことも可能です。
産後休業については、出産日の翌日から8週間、女性労働者を休業させるよう決められています。事業主は、この期間を経過していない女性を働かせてはいけません。
ただし、女性労働者本人が希望する場合は、
① 産後6週間を経過していること
② 医師が「支障がない」と認めた場合
に限り就業することが可能です。
つまり、産後6週間までの女性は、なにがなんでも休業しなければならないということになりますね。
2.育休とは
これに対して育休とは、原則1歳未満の子どもを養育するために取得できる休業制度です。正確には育児休業といい、育児・介護休業法を根拠としています。
産休が、女性のみを対象としていることに対して、育休は、男女を問わず取得できます。
そして育休は、正社員に限らず、パートやアルバイト、派遣社員なども取得OK!
ただし、雇用契約の期間に定めがある(有期雇用)場合は、子が1歳6か月までの間に契約が満了する(更新されない)ことが明らかな人については、育休を取得できる人の対象から除かれます。
また、父母が同時に育児休業を取得する場合、一定の要件を満たせば、子が1歳2ヶ月になるまで休業期間を延長できる『パパママ育休プラス』の制度や、1歳を超えても子が保育所に入所できないなどの場合、1歳6ヶ月まで、あるいは2歳になるまで休業期間を延長できる特例も設けられています。
2.産休・育休期間中の手当て
さて、出産・育児のためにお休みが取れることは大きな安心ですが、仕事を休んでいる間は基本的に給与が支給されません。
この間の家計の不安を解消してくれる制度が、出産手当金や育児休業給付金です。
1.出産手当金
出産手当金は、産前産後休業中の所得を保障するもので、出産した女性労働者本人が加入する健康保険から給付されます。
支給額は、
「直近12カ月間の平均標準報酬月額÷30×2/3×休業日数」
の式で計算した金額です。
んー。ナンノコッチャ?
チョッと嚙み砕いて説明してみましょう。
「直近12カ月間の平均標準報酬月額÷30」とは1日当たりの報酬額
つまり日給相当額の2/3の金額を、休んだ日数分支給する
…という意味です。伝わりました?
と、ここで認識しておきたいのは、手当ての金額、つまり休業中の収入額は、それまでの手取り額に対して3分の2まで減額される訳ではないということです。
そもそも毎月の給与からは、税金や社会保険料などがガッツリ天引きされており、手取り額は支給額の80%前後。この休業前の手取り額を基準に考えると、手取額の8割強は確保できると考えてよいでしょう。
ちなみに健康保険からは、このほかに出産育児一時金(一児あたり50万円)も支給されます。出産育児一時金は扶養家族が出産した場合にも給付を受けられるのに対して(家族出産育児一時金)、出産手当金については、扶養家族は対象外です。
理由は、出産育児一時金が出産費用の補助的意味合いで給付されるのに対して、出産手当金は、女性労働者の休業保障の意味合いで給付されるものだから。
言葉が似ていてややこしいですが、給付の意味に着目すると、随分わかりやすくなるかと思います。
2.育児休業給付金
育児休業給付金は、文字通り育児休業中の所得を保障するもので、雇用保険から給付され、支給額は以下の式で計算します。
≪休業開始から180日目まで≫
休業開始時賃金日額×67%×休業日数
≪休業開始から181日目以降≫
休業開始時賃金日額×50%×休業日数
なんか…微妙に言い回しが変わっていますが、
↑↑↑の出産手当金で登場した「1日あたりの報酬額」と、「休業開始時賃金日額」とはほぼ同じ。
また「2/3≒67%」ですから、休業開始から180日目までの1日あたりの金額は、出産手当金の場合とほぼ同じと考えて差し支えないでしょう。
ただし、育児休業給付には上限(下限も)が設けられている点にはご注意ください。
それぞれ
☆180日目まで(給付率67%)支給上限額 315,369円 支給下限額 57,666円
☆181日目以降(給付率50%)支給上限額 235,350円 支給下限額 43,035円
です。
※2025年7月31日までの金額
3.最後に
少子化がますます進む中、出産・育児がしやすい社会を目指して、国もあの手この手のテコ入れを考えているようです。
男性の育休取得の推進もその一つなのでしょう。
このとき、ネックとなるのは休業中の収入減。このお悩みをクリアすべく、2025年4月からは、父母が同時に育休を取得した場合の育児休業給付の金額を手取り額相当(報酬額の8割)まで引き上げる施策も打ち出されています。
制度が進んでいくことを歓迎したい反面、
「はて?」と首をかしげてしまうのは、せっかくの新制度の対象が
「父母が同時に育休を取得した場合のみ」という点です。
あのー。休業中の収入減を悩ましく思っているのは、男性だけではないんですけど。
出産・育児がしやすい社会を目指すなら、単独の休業でも手厚く保障したらいいと思うのは私だけでしょうか?
と、疑問形になってしまいましたが、ご意見お聞かせいただけましたら嬉しいです。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。