あかんたれにいちゃん10
鋼の借金術
きっと皆さん不思議に思っていることでしょう。どうして私が兄にそんなにお金を貸すことができたのか。私は決めていたことがあります。共倒れだけは避けなければいけないと。その一線だけは超えないと。だから、私の家族のためのお金(貯金)には一切、手をつけないと。
最初は融資が下りるまでの期間をつなぐことだけを考えていたため、2~3ヶ月持ちこたえればいいと思っていた。そこで、私は生まれてはじめて消費者金融からお金を借りることにした。正直、いろんな噂も聞いていたのでやりたくなかったがそれしか手段がなかった。では、高い金利を支払う覚悟をしていたのかというとそうではなく消費者金融借り入れリレーをやろうと思ったのだ。
当時、1ヶ月無利息というキャンペーンの宣伝がテレビで頻繁に流れていたので片っ端から審査の申し込みをした。消費者金融は信用情報機関に加盟しており
誰がいくらどこからお金を借りているという情報を把握している。それが、審査や借入限度額に影響するらしい。そのため、最後はある大手スーパー関連の金融会社の50万円限度のローン審査にも落ちてしまったことがある。
審査そのものは必要書類を提出し、審査結果を待つだけだが、ある会社はカードを無人店舗に作りにいかなければならなかった。雑居ビルの2Fにあった無人店舗に人目を気にしながら、おそるおそる入室する。個室に入ると目の前のモニターに画像が映し出される。そこで、遠隔から私を見ている担当者が、「免許証をどこどこにかざしてください」などと指示をしてくる。私は、どこから見ているのかキョロキョロしながら指示通りに手続きをすると最後にカードが発行された。そのカードがあれば提携されているATM(例えばセブン銀行やローソン銀行ATMなど)で気楽に借りることができる。
初めてキャッシングした時、自分の口座でもないのに現金が出てくると、自分がもっていた現金のような錯覚に陥った。振込の場合も同じだ。手続きすると瞬時に自分の口座の現金が増える。これももともとあったような錯覚に陥る。
それぐらい手続きがスムーズで、借りるという心理的抵抗感をなくしているのであろう。だから、ついつい借り癖がついてしまい、返済ができなくなるという悪循環にハマっていく人が多いのだと思う。
私は怖がりなので、カレンダーの1日前を無利息の返済日と記載し(もちろん家族にはわからないようなマークで)早め早めに対処していた。対処といってもリレー的に、無利息期間を利用して、借り換えをしていったのである。
そして、最初は思い通り借り換えリレーがうまく進んでいったようにも思えた。
しかし、数ヶ月と金額次第ではなんとかなったかもしれないが、期間も金額も想定以上のものであり、限界がくることはうすうす気がついていたのだが、その限界がこないことをひたすら祈るしか術がなかった・・・・。
お客さんもうすぐ終点ですよ!
約半年いやもう少し粘ったかもしれない。不思議なことがあった、ある会社のカードを作るために無人店舗を訪れた時、その店舗がたまたま点検中だった。
しかたなく、近隣の店舗を訪れようとした時、上司から呼び出されて会社に戻らざるを得なくなった。結局その日はカード作成はあきらめたのだが、次の日、ふと違う会社が頭に浮かび、審査を申し込んでみると、昨日カード作成できなかった会社よりも借入金額が高く設定されたのだ。私は、昨日は急な呼び出しに腹を立てていたにもかかわらず「ラッキー!昨日上司が呼び出してくれたおかげだ!」と喜んでいた。人間というのは、なんと都合のいい生き物なのだろう。
それともう一つ、助かったのは、ある会社が無利息期間中に全額返済してくれた方を対象に、2ヶ月無利息期間をプレゼントすると連絡してきたのだ。私にとっては超ラッキーだったが、よく考えてみると、もう一度、利息付で借りてもらうための施策であったのだろう。おかげで重宝したが、あの消費者金融にしてみれば期待外れの顧客だったと思う。(あの時はありがとうございました)
そんなこんなで、ラッキーなこともあり途中までは、ほぼ自己負担なくやれたのだが、まあそんなうまい話は続かず、ついにリレーの終了が訪れることになった。さて、どうしたものか。私は考えた。家の貯金には手を出さないで、お金を借り続ける方法を。そうだ!あれがあった!そう、何を隠そう、私は元保険会社の人間で、自爆(ノルマをこなすために自らや家族を被保険者にして保険に加入すること)で保険に何本も加入していたのである。
掛け捨てではない保険は通常、解約返戻金の所定の割合を低金利で借り入れすることができる。会社によって異なるが、解約返戻金の70%~80%ぐらいだろうか。保険会社にしてみれば、解約されると一時金として支払う必要があり、運用にとってはデメリットになるため、それを防ぐ手段として契約者貸付という制度を用意しているのだ。その契約者貸付をフル活用したのだ。
保険会社時代は、なんでこんなに保険に入らなきゃならないのかと文句を言っていたが、今から考えると、若いうちは保険や積立などの毎月の支払いが決まっているものに加入しておくのも手だと思う。知らぬ間にちゃんと貯められていて、イザという時に役に立つ。自分で資産管理できる人なら問題ないが、あればあるだけ使っちゃうような性格の人(昔の私)には貯蓄性の金融商品をオススメする。
話を戻すが、生命保険の活用も将来の貯金や家族のための保障目的だったという点では、私はついに一線を超えてしまったという結果になったのだ。
結局、ボーナスの一部を充当せざるを得なかった時もあった。
家族には、本当に申し訳ない気持ちで一杯だった・・・・・。
「お客さん、もうすぐ終点ですよ!降りる準備しておいてくださいね!」と
声をかけられていたにもかかわらず、寝ているふりをして聞こえないふりをしていたのだろう。もう降りなきゃ、降りなきゃと思いながらも、降りれなかったのだ。結局、強制的に降ろされることになってしまうのだが・・・・。
お金さんが泣いている。
私はわかっていた。お金さんは兄のことに使われることを嫌がっていることを。お金さんは、人の幸せのために使われることを好むという説を私は信じている。だから、人の幸せのためにお金を使う人のところにお金は集まるという。
兄に貸すお金は死金になる。だから、いつもお金を貸すとき、私はお金さんに
「ごめんね。」と謝っていた。すごく嫌がっていたのをなんとなく感じた。
(私はお金と会話ができる特殊能力をもっているわけではありませんw)
ある時、電車でうとうとしていると、夢にお金さんたちが出てきたことがある。戦士のような格好をしていて、傷だらけでボロボロだった。
リーダのようなお金さんが「今、おまえのために戦ってるから。必ずおまえの元に帰るから。まっててくれ!」そう言って、戦中にお金さんたちが突っ込んでいったのだ。私は涙が止まらなかった。電車の中だったが人目もはばからず涙を流した。ひたすら「ごめんね。ごめんね。ありがとう。まってるよ」と心の中でつぶやいていた。
それっきり、お金さんたちが私の夢に出てくることはなかった。
そして、お金さんたちが私の元にもどってくることも・・・・・。
つづく