「多文化化するデンマークの社会統合:生涯学習が果たす役割とその可能性」を読んで
はじめに
週末を前に、待望の書籍が日本から届いた。坂口先生、ありがとうございました。
PostNordが出発点から定期的に情報提供してくれるので、少しずつ少しづつ…、期待が高まる。
気がつけば社会統合当事者
デンマークに住み、早くも20年ほどが過ぎようとしている。日本で生まれ育った私は、20年前には、移民として日本以外の場所に住む、住み続けるということの意味をきちんと考えたことはなかったし、母国ではない場所で暮らすことで見えてくる世界を、取り立てて意識的に認識したり外在化しようとはしてこなかった。20年経った今、紆余曲折を経て、毎日の外国での生活体験から感じる疑問や、よくできている仕組みの背景について改めて、理解する機会を得た。
今回、坂口 緑さん著の「多文化化するデンマークの社会統合:生涯学習が果たす役割とその可能性」を読んで、私が最も得難い喜びを感じたのは、その点だった気がする。
本書籍の多くの読者にとって、日本との比較で、より彩りを持って知るであろうデンマークに関する事項は、私にとって体験からくるモヤモヤして言語化されていなかったモノが言葉を通して明確化された事柄である。実際のところ、私の個人的と思っていた体験が、きちんと意味持って進められていた政策であったり、多くの人の努力の末に達成されたものだと知ったのは、想定外の驚きと喜びだった。もちろん、用語やさまざまな思想が私にとっては複雑で理解できている気がしないので、そのように言ってしまって良いか心許ないのだけれども、それでも、言語化を通じて、デンマークへの理解や国の中で行われていた模索への理解がより深まった気がする。
特に、第3部「現代デンマーク社会におけるボランタリーセクターの機能」は、最も興味深かった。私がイノベーションの文脈で大きな関心を持っているアソシエーションForeningに関する背景が丁寧に解きほぐされていて、お気に入りの章である。アソシエーションに関しては、歴史も知らなければ、系統立てて学んでいたわけではなかったのが、実はとても深い意味がある民主主義的仕組みであることをつい最近(「実践の民主主義読書会」参考)知り、より自分の理解を深めることができた。
イノベーションの視点からアソシエーションを見ると
アソシエーションForeningは、市民の参加を促す仕組みである。何かをやりたいと思った人が、たとえ小さなリソースしか持っていなかったとしても、立ち上がることができるようにしてくれる仕組みである。このアソシエーションは、デンマークにおいて「結社の自由」として民主主義の根幹を織りなす一つの柱であり、もちろん、イノベーションの文脈で出てきた仕組みではない。
なぜ、社会統合において、アソシエーションが重要なのか。坂口先生は次のように解く。
アソシエーションは、市民としての役割を果たす民主主義的ツールとして、パブリックセクターの手が届かない場所を補完するためのツールである。主体的に考えることで、何かできることが見つかったのであれば、誰でもが行動を起こせるようにするツールである。私が知っている例でいえば、高齢者団体(Ældre Sagen)なんかは、きめ細かい全国ネットワークを活用し、デジタル庁と協力して、全国津々浦々、高齢者たちにデジタルの手解きをして、デジタル社会の恩恵を届けている。
繰り返しになるが、アソシエーションを設立することは、国民の権利である。そして、イノベーションのためにアソシエーションがあるわけではない。ただ、私からしてみれば、結社のハードルが低いために発生した特徴がイノベーションを底支えしているように見える。
まさに、このような機動力が、イノベーションと親和性が高いのだと思う。デンマークでは、近年ではサステナビリティやサーキュラーエコノミなどのアソシエーションが増加している。国の動きが遅かったとしても、社会のうねりとして新しい動きや懸念が、リアルタイムに顕在化されるのであれば、これこそ、素晴らしいイノベーションの仕組みだと言えるのではないか。
そのうち、本書、そして第3部にまつわる坂口先生の講義を聞いてみる機会があれば良いなと思うし、坂口先生と、アソシエーションがデンマークのイノベーションに果たす役割なんかを紐解いてみたい。
そして、そのうちに、他のチャプタに関しても、生活者の視点として、もう少し感想を書けたらと思うのだが・・・。本日はここまで。