リビングラボ101
リビングラボって何?オープンイノベーションにどうやって活用するの(What Is a Living Lab and How Can It Be Used for Open Innovation?)と題されたエッセイがとても読みやすく、リビングラボの導入資料 として役立ちそうだったので紹介したいと思います。
エッセイは、ダイムラークライスラーからのスピンオフ・イノベーションマネージメントソフト企業HYPEに勤めるOana-Maria Popさんの手によるもので、リビングラボをリビングラボの著名論文や歴史的な経緯を引用し、様々な観点から読み解いています。
はじめに衝撃を受けたのが、リビングラボという言葉は、イノベーションネットワーク、コミュニティネットワーク、エコシステムなどと同等の意味合いで使われていることが多いが結局はニュアンスの問題だと思う。と言いきっているところ。例として「非公式のネットワークを作るのと政府の鳴り物入りで役割が明確にされているエコシステムを作るのと全く違うスキルがいるよね〜、違う?」と呼びかけている点。意識的なイノベーションのためのエコシステムという点は、個人的にも大切にしているので、膝を打ちたくなった気分です。他にも、Facility(物理的な場所や箱)はそれほど重要じゃない、ということなど頷かされることが多くありました。
リビングラボの定義
このエッセイでは、リビングラボを次のように定義しています。
リビングラボ=オープンイノベーションという哲学に基づいた、ユーザが他の参加者と同党の立ち位置にいるイノベーションネットワーク。
Living Labs = innovation networks based on the philosophy of open innovation where users become equivalent to other participants.
リビングラボの特徴
多くの興味深い定義や観点が紹介されていたのですが、中からいくつか抜粋します。
1. 論文:Actor roles and role patterns influencing innovation in living labs
フィンランドのリビングラボ研究グループの手による論文 Actor roles and role patterns influencing innovation in living labs は、リビングラボはそもそもICT主導のイノベーションネットワークから始まっていることなどの歴史を紹介し、さらに特徴として次の違いをあげています。
従来型のラボやイノベーションエコシステム:専門家によって、ユーザーは観察され、インサイトが抽出され、解釈される (...in traditional innovation networks or labs, users are observed and their insights are captured and interpreted by experts.)
リビングラボ:ユーザが毎日の環境の中でイノベーションを形作る(Users shape the innovation in their daily real-life environments)
多くのリビングラボが、従来型に留まっているのは新しいコンセプトを広めていきたいリビングラボ研究者の身としては、忸怩たる思いです。
2. Bill Mitchell氏のリビングラボコンセプト
もう一点、MIT School of Architecture and PlanningのBill Mitchell教授は、スマートシティのコンセプトを創り出し、リビングラボという言葉をはじめに使ったと言われる人の一人(下の引用参照)で、スマートシティの設計において「技術と人間がどうインタラクションするかを観察する場所(spaces built to observe how technology and humans interacted)」としてリビングラボを定義していたそうです。
“He likened tomorrow's cities to living organisms or very-large-scale robots, with nervous systems that enable them to sense changes in the needs of their inhabitants and external conditions, and respond to these needs.”
最後に
エッセイを読みながら、私だったら、リビングラボをどう紹介するだろうかと考えていました。個人的には、もう少し「人間」の視点が入ったリビングラボの定義や理解が必要だと考えるので、定義に次の項目を入れたいと思います。
リビングラボ=参加する人たちの考えが変わる場所、新しい考えを創り出す場所
リビングラボにおいて、ユーザードリブンやイノベーションの視点は重要だし、社会変革といった目的意識も重要なのですが、モノ側に注目するだけではなく、その場に集うヒト側、ユーザの変化の視点も忘れてはならないと考えています。ユーザがいかに理解し利用し、身につけていくかという技術受容やその技術利用の成熟度の観点、マインドの転換や、技術に不慣れでこぼれ落ちる可能性のある人たちをどう救っていくかのヒトを見る視点は、リビングラボの実施に際して必要不可欠と思うからです。
新しい技術が日常生活に導入される、社会イノベーションが起こることによって何が起こるかを考えてみると自明のことです。技術がちょこっとくわわくることで、人の生活が変わるんです。初めはドキドキしながら使っていても、次第に、毎日のルーチーン・プロセスが変わり、考え方が変わり、それがいつの間にか生活に溶け込みます。社会や日常生活にイノベーション、そして新技術が導入されるということは、ユーザの日常生活がもしかしたら気がつかない間に変化することになるからです。
今日もお疲れ様でした。
写真:私の好きなフードイノベーション