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北欧のデジタル・トランスフォーメーション

DX: Digital Transformation

昨今、デジタルトランスフォーメーション(DX)をどのように進めるかという課題は、多くの民間・公共機関の課題になっている。日本では、経済産業省が2018年にDXレポートを公開し、その中で経営者が押さえるべきポイントをまとめたDX推進ガイドラインも公開されている。しかしながら、組織において、そして広く社会において、デジタル化は遅々として進んでいないというのが、一般的な肌感覚ではないだろうか。

2000年より社会における電子化が進められてきたデンマークにおいても表面的には状況は変わらず、世界中のどの地域とも同じように、DXの課題が日夜議論されている。しかしながら、比較で考えると、デンマークではデジタル化の恩恵は端々に感じられる。デジタルインフラが整っている社会であるゆえに、アプリケーションレイヤーで既に多くの試みがされ、成功事例も蓄積されつつある。

もちろん、日本においてもDXで先行する民間企業は多々あるし、北欧の全てが良いというわけではない。だが、一般的な社会のIT化、デジタル化という文脈においては、日本社会は、DXで遅れをとっているともいえ、ゆえに、成功事例や失敗から学ぶ経験値も限られ、日本語の文献も限られるのが現状である。

私たちの社会は、デジタルやAIがない世界に戻ることはないだろうし、よっぽどの偏屈者であったり、世捨て人であったり、皆が合わせてくれる稀有な才能を持った人でない限り、デジタルを無視して生活することはできないだろう。そう考えると、いかに効率的にDXを進めるか、いかに負担を感じないデジタルを導入するかなど、過去の失敗や先行事例から学ぶことは多いに意味のあることだろうと思うのだ。

最近、ビジネスの領域で日本の人たちと会話をしていると、デンマークでは常識となっているDXの考え方グローバルな事例研究で蓄積されてきた知見や理論がもしかしたら役に立つのかもしれないと感じるようになってきた。そんな、知識のかけらの中には、とても単純だけれどもあまり外在化されていなかったり、認知されていないこともあれば、ガチな理論や視点にすぎないけれども、物事を理解するレンズになる場合もある。そんな、「これ知っておいたらDXに役立つんじゃないか?」と思われるようなことを、気が向いた時にということになるだろうけれども、紹介していきたいと考えた。

80/20の法則

まず何よりも一般的に見逃されがちで、かつ日本では特に議論が見られないけれども、かなり重要な意識すべきことから始めたい。

これを読んでいる人は、タイトルになっている80/20が何を示しているか、想像できますか?

この数値は、DXの肝を示している。20%はデジタル導入、80%の組織や人に関わる変革であるという認識である。つまり、デジタルの導入部分のエフォートはわずか20%にすぎず、導入前後の組織の変革や人の成熟度の向上に、よりエフォートが求められるということである。

もちろん、このシンプルなコンセプトは、どこにでも明記されているというものではない。しかしながら、情報システムの研究やケーススターディを見ていると、いかにシステムを導入するかという議論に必ず組織や人の課題に言及されていることがわかる。

デジタルの活用は企業にとって大きな機会となるが、同時に生き残りをかけた脅威でもある。多くのDX研究は、いかにDXを成功裡に導入し、管理し、維持するか、いかに組織のビジネスモデルの変革に貢献するか、いかにサービスを提供し、組織構造を変革し、文化を変えていくかについての示唆を示しているけれども、多くの場合、とても曖昧で、多くの想定が適切に分析されているとは言い難い。

そんな曖昧な研究が中心となる中、Carroll, N.ら(2023)は、そのようなDigital Transformationの研究分野において、一般的に期待されていること、想定されている事項を10個挙げ、そんなシンプルなわけないでしょう!?と、現実に即した見方を提示している。Carrollの議論においても、人が関係する要素(Human Factor)として、DXに関わる人たちの成熟度スキルセットに目を向ける必要性や、トップダウンのみでなくボトムアップのアクションが不可欠であることなどに言及しているのだ。

鍵は、人や組織について理解すること。そんなシンプルだけれども忘れられがちなことをもう一度振り返って見ることが重要だ。


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