地方自治体でリビングラボ:石川県小松市
「未来型図書館づくり」のプロジェクトを市民と共に進めていくためにリビングラボを活用したい。そんな連絡を受けたのは、今年の5月ごろだったと記憶している。メールを交換し、オンラインでお話しし、なんだか惹かれるものがあって、今回の現地訪問に繋がった。今まで複数の自治体のリビングラボに関わってきているが、小松市は、リビングラボ実践の地の一つとして、今後も関わっていきたい興味深い自治体の一つになった。なにが注目要因になっているのかを改めて考えてみたい。
①自律した市民
元々、住んでいる人たちが地域活動に活発なエリアなのかもしれない、歴史的に社会の自治の仕組みが整えられているのかも知れない。『なぜか』は、この短い訪問では知る由もないが、市民が緩やかなコミュニティを作り、自治体と密に連携し実施されている活動が、なぜかたくさんあるようだ。そしてその活動は、公民館や祭りや学区や図書館を軸に、リビングラボ的な学びと実験と実践を展開している。
市に寄贈された書籍が、記念図書館の設置に繋がり、その寄贈本の保存会(?)があるという。図書館の司書と保存会が協力し、イベントを実施したり、外部講師を招聘して勉強会を実施している。
②明確なビジョン
現市長が公約として掲げていた「未来図書館」。なぜ、図書館を軸に街づくりをしようとしているのかを尋ねたら、「公約」という言葉が出てきた。そもそもの公約がどのように形作られたのか、深掘りする必要があるが、首長のビジョンがあり、ビジョンに基づいた3ヶ年施策がつくられ、調査、分析、実施が確実に積み上げられている。
1年目の2021年は、現状の調査や話し合いを12団体と実施。子供に関心を持ってもらうために絵画を募集して、博物館内にある市民ギャラリーで作品展を実施したり、図書館に関しては専門家を招聘して講演会をしたという。2022年は、基本構想を作成した。市民団体、専門、エリアの有識者と一緒に作り上げる。市民ワークショップ実施し、街歩きを行ったり、公立小松大学と協力してアイディア出しをしたり。さらに、岐阜市の「みんなの森ぎふメディアコスモス」で7年ほど実施されている子ども司書養成講座を参考に人材育成の講座を開設した。
そして3年目は、官民連携手法の調査・検討をし、リビングラボに辿り着いたのだという。定期的なワークショップを青山の野末先生(図書館情報学、図書館におけるDX)と実施し、同時に企業との連携で市の行政サービスとして市民講座を実施する富山市「未来共創拠点施設Sketch Lab」を参考にするなど、インプットも継続的に行っている。
3ヶ年計画で感心したのは、初期に調査や研究をきちんと実施し(拡散思考、ブレスト)、報告書にまとめるだけではなく、実践に繋げていること。調査して良いと思った試みを、次々に展開しているところだ。勉強をする人たちはたくさんいる。だが、次の一歩が見えないことが非常に多い。
③優秀な熱意ある人たち
想いを持った人がおり、その想いを持った人が動ける環境にある印象を受けた。滞在期間は限られているので、良い部分のみを見た可能性は大いにある(笑)とはいえ、お会いした方達全てから、同じような熱量と、オープンに、実直に取り組む姿勢を感じた。
市長の力。若ければ良いというわけではないだろうか若いことは確実にポジティブに働いている。前述のようにビジョンが確固としていることで、プロジェクトの推進にも、DX促進にも大きな影響を与えている。市長は、ダイアログにも関心を持っていると伺ったのだが、これはリビングラボ(参加型デザイン)を実施する際の基盤である。
行政職員が自律的で、考えをまとめて物おじせずに進めて、実施する力とガッツがある。そして、年次などで制約されず、フラットに意見が言えている(印象)。
今回は、お話で、多くの市民主導の団体の活動についての話を聞いた。それは市民が自律的に、主体的に活動をしている(印象)ことを示していると考えている。
最後に
石川県小松市は、10万人都市。wikiによると、「小松市は、建設機械メーカーのコマツの企業鵜城下町であり、関連企業や工場も多い。そのため重工業が発達しており、北陸国業地域の一翼を担っている。」産業がある自治体は強い。高齢化は進んでいるものの、人口規模は今のところ維持しているのだそうだ。コマツでは、海外からの研修も行っており、人の移動も多いという。
小松市で出会った行政の方々は、ほぼ石川県小松出身だった。自分の地元が好きで誇りを持っていることも各所から伝わってきて、この郷土愛(civic pride)が良い循環をもたらしているように思えた。