音楽は音符でつづられた”詩(うた)”だった
木に見立てた柱が何本も壁を覆う森を模したホール。
紅い市松模様がすみずみまで広がる客席。
ベルが鳴り、波がひくように静まり返る。
舞台上には私が生まれる遥か前よりクラシック音楽界の最前線で活躍してきたレジェンドたちが、この世のもとは思えない美しい音を紡ぎだしている。
私は激しく後悔していた。
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いい感想を書くには下調べが5割です
先日開催されたnoteフェスで岸田さんが話していた。
いい感想を書くには事前の下調べが大切、どんな立場で何を聴きに行くか、自分のスタンスを明確にしておく必要があると。
日経ミューズサロン第500回記念ガラ·コンサートの会場で、何の下調べもせずこの場に来てしまったことに私は激しい後悔の念にかられていた。
1971年以来、半世紀にわたり国内外の一流アーティストを迎え、日経ホールで毎月開催している室内楽コンサート・シリーズ「日経ミューズサロン」。来年の50周年を前に、第500回開催を記念して、日経ミューズサロンの礎を築いた、日本クラシック音楽界を代表するレジェンドらによる夢のガラ·コンサートが実現。マリンバ界から安倍圭子、ハープ界から井上久美子、フルート界から工藤重典、ギター界から荘村清志、ヴァイオリン界から徳永二男、ピアノ界から室井摩耶子、司会はアナウンサーの朝岡聡の各氏による1日限りの夢の饗宴は見逃せない。
ーー日経ミューズサロン第500回記念ガラ・コンサートHPより
元々このコンサートに行こうと思ったのは、99歳の現役最高齢ピアニスト室井摩耶子先生が出演されるからだった。
7年前、室井先生の著書とたまたま出会いその音楽に対する姿勢に感動し、いつかその音を聴いてみたいと思っていたのだ。
室井先生の音が聴ける、それにかまけてそのほかの出演者の皆さまの下調べを怠っていたのだ。もう全方向にむかって土下座するくらいの勢いで大後悔!!
レジェンドの皆さまの演奏は本当にもう素晴らしかった!!!!!!
語彙がなくなるくらい素晴らしかった!!!!!!!!!
もう、最初の一音からすごかった!!!なんなら音出す前からすごかった!!!!!
取り乱しました。
マリンバやハープ、クラシックギターの演奏を生で観たのはこれが初めてだし、皆様お歳を召してるのにそんな現実全く全然何も感じない。え?80歳越えてるのにこの動き?なんて音が繰り出されてるの?え?ここは天国?天上の音楽じゃない?みたいな感じでした(何も伝わらない)
とにかく、久しぶりに浴びた極上の音のシャワーはふかーく私の心に刻まれました。
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そして最後にお出ましになったのが室井先生。
付き添いの方に人に手をひかれての登場。
曲目は“エリーゼのために”
エリーゼのためにって言うとね、皆さん簡単な曲とお思いになるんですよ。でもね、ベートーヴェンが素晴らしいお話をこの曲でしているんでね、それを皆さんにお伝えしたくてこの曲を選んだんですね。
なんと先生の解説つきでの演奏!なんて贅沢!!
この半音がね…となにげなく弾き出したその瞬間、涙が出ました。
その音は宇宙のような音でした。どこまでも深くて、どこまでも果てなく広がってゆく音でした。
その音は虹の七色が全部つめこまれたような音でした。真っ白と真っ黒が同時に存在している、そんな音でした。
その音は、一瞬でもあり、永遠でした。
私の言葉では表せない音だけど、先生がピアノと向き合ってきた90年を感じ、涙が止まりませんでした。
先生の音で聴くエリーゼのためには、なによりも素敵なお話でした。
本当にこの場にこれてよかったです。
かっこうつけて感想文を書こうとしたけど無理でした。
音楽は、音符で書かれた“詩(うた)”であり、“戯曲”であり、“小説”である。
小さいころから憧れた“エリーゼのために”は
とても素敵な“詩”でした。