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台風に影響をもたらす「亜熱帯モード水」とは?今後さらに台風“激甚化”の恐れ 最新研究でわかった“海の中の温暖化”の深刻な影響

先週、東日本を襲った台風13号。家屋の被害は約3000棟、人的被害は22人にのぼっています。8月には、沖縄県で大規模な停電を引き起こした台風6号、和歌山に上陸し西日本に甚大な被害をもたらした台風7号が相次いで日本を襲いました。年々激しさを増す台風の被害。今後、ますます激甚化する恐れがあるとする研究結果を、東大などの研究チームが発表しました。その原因は、海の中に存在する温度が一定の水の層「モード水」と、海中で進みつつある温暖化にあるといいます。どういうことなのでしょうか?

TBS NEWSより

 

台風の勢力に影響 海中深くにある「モード水」とは?

東京大学・大気海洋研究所 岡英太郎准教授らの研究チームが発表したのは、海中深くにある「亜熱帯モード水」という水の層の影響で、台風がより発達しやすい環境になるとする研究結果です。

台風に影響をもたらす「亜熱帯モード水」とは一体なんなのでしょうか。

一般的に海水温は海面近くが1番高く、深さ1kmほどまでは深さと共にどんどん水温が低くなっています。しかし日本の南には、深さ数百mにわたって水温がほとんど変わらない層が存在します。これが「亜熱帯モード水」です。

日本の南には黒潮などの海流があり、南から暖かい水を運んできています。冬になるとここに冷たい北西の季節風が吹きつけて海水を一気にかき混ぜ、海面から500m以上深くまで水温が同じになることで「亜熱帯モード水」が作られます。春以降「亜熱帯モード水」は徐々に沈みながら南側に広がっていき、夏には台風の勢力に影響をもたらすというのです。

モード水」は減少傾向 海面水温が高くなり台風強化へ

海中に沈んだ「亜熱帯モード水」。どのようにして遥か上空の台風に影響を及ぼすのでしょうか?

東京大学 大気海洋研究所 岡英太郎准教授:

「海面水温が台風の勢力に影響するということはこれまでもわかっていましたが、今回、その海面水温に亜熱帯モード水が影響しているということがわかりました」

「亜熱帯モード水」の厚さは年ごとに変化します。厚くなると、「亜熱帯モード水」から海面までの距離が近くなります。比較的冷たい「亜熱帯モード水」が近づいてくることで海面水温を下げるのです。逆に薄くなれば、冷たい「モード水」が遠ざかることで海面水温が高くなります。海面水温が高くなると、大量の水蒸気が発生して台風の勢力が強まりやすくなります。つまり「亜熱帯モード水」が薄い年ほど、台風が発達しやすくなるといいます。

「亜熱帯モード水」の厚さは、直近では2015年にピークを迎えた後大きく減少していて、2021年までの間に約100mも減少しています。それに伴って、台風はますます発達しやすい環境となっています。この厚さは10年ほどの周期で増減を繰り返しているものの、長期的にみると減少傾向にあり、過去60年間では6%減少しています。研究チームは、温暖化の影響でこの傾向は今後も続くと予測します。

温暖化が進んで大気から加わる熱が増えると、海面近くの水はより高温になります。暖かい水は軽く、冷たい水は重いので、風などでかき混ぜようとしても軽い水はすぐに浮かんでしまい、混ざりづらくなります。すると「モード水」自体が作られづらい環境になり、厚さが減少することでさらに海面水温を高めるという相乗効果が生まれます。結果として、今後ますます台風が発達しやすくなるというのです。

影響は台風以外にも 深刻な影響もたらす“海の温暖化”

今回示された、ますます台風が強まるおそれがあるという研究結果。少しでも被害を軽減するために、より一層の備えをすることが大切です。

しかし、その影響は台風だけにとどまらないと岡准教授は指摘します。

東京大学 大気海洋研究所 岡英太郎准教授:

「モード水の減少によって海面水温が上がれば、影響が出るのは台風だけではありません。海の水が混ざりづらくなれば、深海にある栄養豊富な水が上がってこなくなり、海洋生物が減少します。当然、漁業にも影響が出ます」

岡准教授によると、地球の7割を覆う海は、豪雨や猛暑などの大気現象と密接な関係があります。さまざまな気象の解明には海に関する観測が不可欠ですが、実は海洋観測は発展途上だといいます。

東京大学 岡英太郎准教授:

「従来は海洋観測は船によるものがほとんどだったので、それほど頻繁に多地点で行えるわけではありませんでした。現在は観測ロボットも導入され、よりデータを集めやすくなりました。日本は気象庁が50年以上続けている観測があるので今回のような研究を行うことができましたが、大気現象の研究するには、さらに海の観測を進め、長期的なデータを取り続けていくことが欠かせません」

大気の観測に比べ、歴史が浅いという海の観測。大々的に行なわれるようになったのは戦後になってからでした。岡准教授は「さらに海の観測を進めることで“異常気象”などが発生する原因に迫り、長期的な目線でこれからの気候がどう変化していくのかを調べていきたい」としています。

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