「はたらく」を考える
就職して二年目、私は大学時代のゼミの先生に宛ててメールを送っていた。
メールの趣旨は「ゼミも就活も終えたゼミの大学生に『はたらくこと』『社会人になるということ』についてちょっとしたお話会を開催したい」というものだった。
何故こんな提案をしたのかというと
私自身、社会人になる前に、社会人になるということにプレッシャーがとても大きく、もはや恐怖といっていいほどに不安感を持っていたことが理由のひとつ。
自分が社会人になる前に、ちょっとだけ先に社会人になった先輩の本音の話が聞ける機会があればよかったのになぁと思っていたからだった。
もう一つは、職場の先輩たちの仕事の能力差があまりにも大きいことを目の当たりにしていたこと。
本当に何を聞いても分かりやすくその仕事の意義と目的と具体的な処理の方法を教えられる先輩がいる一方、何度同じことを教わっても同じ失敗をし、更に失敗から何も学ぼうとしない先輩がいた。
そんな対照的な先輩方の仕事ぶりを見ていて、
自分なりに「はたらく上で必要なこと」というのを日頃からよく考えていた。
実際働いて色々と考え、感じることを年のあまり変わらない後輩たちにも教えて、ぜひ参考にしてもらえたらと思ったのだ。
当日は一対十人ほどの講義形式でのお話会を開催した。
やはり、かつての私と同じように社会に出ることに不安を抱く学生が何人もいた。学生たちに以下のような話をした。
私が考える「はたらく」とは、
よく言われるので聞いたことがある人も多いだろう「傍(はた)を楽にする」ということである。
では「傍を楽にする」とはどういうことだろうか。
私が思うのは「傍を楽にする」=【人に】【価値】を提供する ということである。
そしてこの「傍」や「人」とは誰か。
それは【自分の給料のおおもとの出どころ】であると思う。
私は新卒で学校法人で職員として働いていた。ここには教員、職員さまざまな職種の人たちが働いている。だが職種に関係なく、また雇用形態にも関係なく、ここで働く者たちは皆、学生たちよって納付されるお金がおおもととして給料をもらっている。
つまり私たちは、どんな部署にいようが、どんな内容の仕事をしていようがまず念頭に置くべきは「学生たちを楽にするために働いている」ということだと思うのだ。
だって、学生自ら教員を他校から引き抜いたり、シラバスの改正をしたり、様々な情報を得る電子掲示板のメンテナンスなんかしてられないのだから。学生にはできないけれど学生生活に必要なこと、これらを担うのが私たちだったのだ。
一般の企業においては「お客さん」からのお金が給料となり、お客さんを楽にするために働いている。
働いているうちに「自分はなんのために働いているのだろうか」となんだか分からなくなってしまう人は少なくないのではないだろうか。人によってはその答えは様々であろうが、
「自分は誰から給料をもらっているのか」「この仕事をすることで、最終的に誰の役に立っているのだろうか」と考えることはとても大切なことだと思う。
そして【価値】とはいったい何か。
それは、「自分にできるプラスα」だ。
プラスαは本当になんでもいいと思う。
例えば同じ仕事を複数人でやっていたとする。
この仕事の内容の中で自分じゃなきゃ出来ない事は何なのかを考えてみるのだ。
些細な事でも構わないと思う。
第三者に分かりやすくするためにオリジナルで付箋を付けて目印にした、でもいいし
コールセンタースタッフであればご案内に待ち時間があれば、関連する情報を相手に伝える、でもいい。
私は、工事現場のオッちゃんにこの姿勢を見たことがある。
道路の工事で通り辛くなっている歩道があり、その道を人が通らないように注意喚起していた。
要は人がその道を踏まないようにすれば何だっていいはずだ。別に道の前に突っ立っていたって目的は達成できる。
だが、おっちゃん申し訳なさそうに、だがとても元気よく行き交う人に注意喚起の声かけをしていた。
私はただ道を歩いていただけなのにとても気持ちが良かった。
価値なんていうと大そうに聞こえるが、その時自分にできるプラスαを考え、実践すればいいと思う。
お話会では、この「誰のために働くか、どこから給料がでているのか」「価値を提供する」ことを意識して働いてみてほしいと学生たちに話した。
そうすれば後の仕事の具体的なやり方や進め方、人間関係、そんなものはきっとどうすることもできると思う。