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足りないなら育てる。
介護職員が不足しているというニュースは、何年も前からずっと言われ続けており、今後はさらに不足数が増すと推計されています。
年齢別の人口をみれば一目瞭然で、高齢者の数に対し働く世代の人数が少ないのだから当然です。
介護業界だけでなく、全産業において労働力不足が叫ばれています。
介護人材不足を補う方法として、処遇改善加算による介護職員の処遇改善や、外国人労働者の活用、DX化による生産性向上など国主導の施策がたくさん打たれています。
しかし、僕が20年以上この介護業界で従事していて感じるのは、介護現場の管理職人材の不足の深刻さです。
組織とリーダー
一部の居宅介護支援事業所など個人で事業をしているところはありますが、ほとんどすべての事業所が従業員を雇用し、複数人で事業を運営しています。
複数の人が共通の目標に向かって事をなすとき、そこには自然と組織(チーム)が生まれます。組織にはいろいろな形態があり、「組織開発」の研究も盛んです。
組織の形態の中には、リーダーを置かずに全員の協働で組織を運営するという方法もあります。しかし、その方法で安定して長く成長を続けている組織は、まだほとんどありません。
原始の時代から、人は組織を作るときにリーダーというポジションをつくり、組織を運営してきました。
特に産業革命以降は、リーダーに必要なリーダーシップやマネジメントについての研究もずっとなされています。それだけリーダーの存在、役割が重要ということでしょう。
介護職以上に不足しているリーダー・マネジャー
介護職員不足については、はじめに触れました。
ただ僕の感覚では、リーダーやマネジャーといった管理職人材は、介護職以上に不足しています。
介護保険の運営基準によって、管理者の設置が義務付けられており、すべての事業所に管理者は存在します。
しかし、その実態は現場で介助をしている介護職であったり、請求などのバックオフィス業務をしている事務職だったりします。
組織を目的目標に向けて導くリーダーやマネジャーとしての役割を果たしている管理者がどれだけいるでしょうか。
また、介護施設のように組織の規模が多くなれば、介護長などの職種別の機能長、さらに主任やリーダーといった中間管理職ポジションも作られます。
天然リーダーは希少
中間管理職を含めたリーダーの不足は深刻です。
残念ながら、リーダーになりたくてなったという人は、おそらく全体の半数もいないのではないでしょうか。
大半が経営者や上司に”頼まれて”リーダーになっています。
良い介護職と良いリーダーでは求められる役割や能力が全く違います。
専門職としてのスキルと、リーダーとしてチームを導くマネジメントのスキルは全くちがうからです。
専門職からマネジメントへの路線変更は、転職と同じぐらい大きな変化といえます。
したがって、介護職として磨いてきた経験とスキルをもってしても、チームのマネジメントはなかなかうまくいきません。
ときどき、リーダーとして素晴らしい才能を発揮する人がいますが、そういう人は幼いころからの人間関係や学生時代の経験などを通して、自然と身につけた「天然リーダー」です。
しかし、「天然リーダー」の希少性は非常に高く、全体の1割にも満たないと思います。
人数は足し算、マネジメントは掛け算
それでも昔は、職員の数が多かったので、全体の1割の天然リーダーが管理職になれば、それなりに組織はうまく回っていました。
しかし、現代では職員そのものが少ないため、天然リーダーの人数も減っています。結果的に、必要なポジションに対し、天然リーダーの数が不足する事態に陥っています。
天然リーダーは、自ら自然とリーダーシップやマネジメントスキルを身につけ発揮するので、育成の必要がほとんどありません。
天然リーダーの絶対的な数が不足しているにもかかわらず、ポジションに配置しなければならないものだから、結果としてリーダーとしてのスキルを持たないリーダーが多数存在することになりました。
結果、チームのマネジメントが機能せず、メンバーの力が分散(場合によっては組織内での無駄な対立)してしまい、チームの生産性が著しく低下しているケースが多々あります。
マネジメント如何によって、10人の職員で生み出される成果が10になる場合もあれば、5になってしまう場合もあります。場合によっては10人で15・20の結果を生み出すマネジャーもいます。
チームの成果は人数の足し算だけでなく、マネジメントによる掛け算によって決まります。
人数×マネジメント係数=チームの成果
例)10人×1.0=10
10人×0.5=5
10人×2.0=20
リーダーを育成するという発想
先ほども書いたように、天然リーダーだけでは、介護業界全体に必要なリーダー人材の数を賄うことはできません。
そこで必要なのが、「リーダーを育成する」という発想です。
天然リーダーを育てることはほぼ不可能ですが、リーダーシップやマネジメントについては、そのスキルや考え方を学び、経験することで、多くの人が身につけることができます。
介護は製造業と違い、人によって提供サービスで、他の業種と比べても人や組織のマネジメントの善し悪しが、チームの成長・継続に直結します。
その点で、介護事業はリーダー人材を育成することによる効果が高いといえます。
伝承ではなく育成
現任リーダーの多くは、管理職として必要なスキルや考え方を教わることなく仕事をしています。
ではどのようにその仕事をこなしているのかというと、先輩からの口頭伝承もしくは我流です。
その先輩だって教わったわけではないので、根拠は自分の経験のみです。
マネジメントについては、多くの研究がなされ、本やセミナーもたくさんあります。それらを参考にすれば、もっと効率よく、もっと効果的に育成することができるのですが。
リーダーが育つしくみづくり
介護現場でリーダー育成がなされない理由は複数あります。
・育成の仕方が分からない
・育成にかける時間やお金がない
・育成できる人材がいない
リーダー育成は、研修だけでは不可能です。
研修で学んだことを現場で実践し、振り返りをすることで、少しずつ身に付きます。したがって育成には時間がかかる上に、個人差も顕著です。
個人の成長ペースに合わせ伴走する育成担当を配置できる法人は、あまりないでしょう。いま求められるのは、介護事業所の現場管理職に伴走しながら育成する、プロの育成者です。
今後、僕たちは介護現場の管理職育成とともに、管理職育成のプロを養成するプログラムを作成して、介護業界の発展、しあわせに生ききれる超高齢社会の実現に貢献してまいります。
めでたしめでたし
立崎直樹
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