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価値を伝えきれないのは『二重過程理論』不足かもしれない、というお話


こんにちは、はっぱ太郎です。
今日は、「がんばって作ったのに、なかなか良さが伝わらない」理由を掘り下げ、解決に導くための「考え方」を皆さんにご紹介します。


■ブランディングの現場から

デザイナーとして、僕はさまざまな企業やサービスの成長をサポートし、デザインを通じてブランディングの強化に取り組んでいます。特に、まだ世の中に十分に認知されていない新興企業と関わる中で、切実な声に何度も出会ってきました。

「このサービスがあれば、もっと多くの人に地元の魅力を知ってもらえるはずなのに...」
そう悔しさをにじませながら、あるスタートアップ企業の社長が僕に相談を持ちかけてきたときの表情が、今でも鮮明に残っています。

システムエンジニアとして大手IT企業で10年以上働いてきた彼が開発したのは、過疎化に悩む地方の観光情報を効果的かつ安価につなげて、観光客に提供できる革新的な技術でした。

その技術を初めて見せてもらったとき、僕も「こんなの初めて見た!すごくいい!僕の故郷にもあったら良いんじゃないの!?」
と感激したものでした。

しかし、その会社には、そのように、地域の人々の想いや歴史、文化を、観光客に伝える技術があったにもかかわらず、なかなか広がっていかない現実に直面していました。

「どうして素晴らしい技術なのに、それが伝わらないんだろう」
「なぜ、価値が理解されないんだろう」

熱い思いと確かな技術を持っているのに、それが世の中に広がっていかない。そんなもどかしさを抱える起業家たちと向き合う中で、ある共通点が見えてきました。

それは『二重過程理論』の不足です。

ノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマンは、人間の思考プロセスには「感覚・感性で判断する面」「論理的に考える面」という2つの側面があることを『二重過程理論』として提唱しました。

この理論は、私たちがどのように物事を判断し、決定を下しているのかを紐解く重要な手がかりを与えてくれます。


カーネマンは著書『ファスト&スロー』で、感覚・感性で判断する面を「システム1」論理的に考える面を「システム2」と呼び、それぞれの異なる性質と相互作用の重要性を解説しています。

少し脱線しますが、人の思考プロセスの根本に迫るこの研究は、メンタリストの人達の間でもバイブルとしても広く知られているのだそうです。


話を戻しますと、なかなか広がらないサービスやブランドの多くは、この「感覚」と「理論」の2つの面のバランスが上手く取れていないか、どちらかの面が欠けているケースが多いのです。

たとえば
「論理的な説明は完璧なのに、なんだか魅力が伝わってこない」
とか、逆に
「なんとなく素敵な感じはするけど、具体的に何がいいのかわからない」

といった状況です。

これがまさに、二重過程理論で説明できる現象なのです。

カーネマンによって広く知られることになった「バットとボールの価格問題」というのがあるのですが、これはこの人間の認知機能のズレをチェックする問題として有名です。
「MEGUMIが間違えたノートと鉛筆の金額のアノ問題」の元ネタは、実はこのダニエル・カーネマンです。

「バットとボールの価格問題」

■なぜその価値は広がらないのか

「多くの人に知ってもらいたい、認知してもらい、広がってもらいたいが、広がらない」

その原因の一つとして考えられるのが、アピールの際の「システム1(感情)」と「システム2(論理)」のバランスと、それらの適材適所な配置の問題です。

論理的な説明に重点を置きすぎて感性的な魅力が薄れてしまったり、逆に感性的なアピールばかりで具体的なメリットが伝わりにくくなってしまったり。このバランスが悪いアピールは、人間の自然な思考プロセスにマッチしていないため、効果的に人々の認知にアクセスできていないのです。


■二重過程理論から見える解決のヒント

カーネマンの二重過程理論は、この問題に対する重要な示唆を与えてくれます。以下で、それぞれのシステムの特徴を詳しく見ていきましょう。

システム1:感情・直感の力

システム1は、常にアクティブで、瞬時の判断を可能にする直感的なシステムです。

「このブランドの雰囲気が好き」
「このロゴに惹かれる」

といった感覚的な判断は、このシステム1によるものです。
直感は過去の経験に基づいて迅速な判断を可能にしますが、

「そんな話、聞いたことないよ」
「自分の知ってる限りじゃ、それはあり得ないよ」

といった反応をしてしまうことはありませんか?判断が直感システム側に偏り過ぎている可能性があります。
特に知識や経験が豊富な人は直感を効果的に活用できる傾向がありますが、この直感にはバイアスが伴うことがあり、特定の状況下では誤った判断を導くこともあります。したがって、直感を信じる際には、その背景にある経験や知識をしっかりと分析することが重要です。

システム2:論理の力

システム2は、意識的な思考を担当し、複雑な分析や判断を行います。

「このサービスのコストパフォーマンスは?」
「実際の使用価値は?」

といった論理的な検討は、このシステムの働きによるものです。
このシステムは通常はスリープ状態にあり、必要に応じて起動します。時間と努力を要するため日常的な判断にはあまり使われませんが、重要な決定を下す際には不可欠な存在です。


■バランスの取れたブランディングで価値を広げる

これらの知見を活かすと、効果的なブランディング戦略が見えてきます。
重要なのは、システム1とシステム2の両方にバランス良く働きかけるアプローチです。
例えば、新しいサービスを展開する際には:

  1. システム1向けのアプローチ

    • 魅力的なビジュアルデザイン

    • 感情に訴えかけるストーリーテリング

    • 直感的に理解できるUIやUX

  2. システム2向けのアプローチ

    • 具体的な数値やデータによる裏付け

    • 明確な機能説明

    • 論理的な価値提案

このように両面からのアプローチを意識することで、より多くの人々の心に響くブランディングが可能になります。
つまり、感情と論理のバランスによって信頼を積み上げ、論理によって顧客の理解を深め、即時決定してもらいたいタイミングで感情を活用する。
この出し入れが重要です。
サービスやブランドの発展に行き詰まりを感じたとき、それは「二重過程理論」の観点からの見直しが必要なサインかもしれません。

■価値を届けるブランディングへ


優れた技術やサービスが、十分に理解されないまま埋もれてしまうのは、本当に惜しいことです。
しかし、人を動かすのは、優れた技術や論理的な説明だけではありません。感性に訴える魅力と、理性を納得させる論理。
この2つのバランスが、本当の意味での「伝わる」ブランディングには必要なのです。
あなたのサービスやブランドにも、きっと素晴らしい価値があるはずです。その価値を、感性と理性の両面から見つめ直してみませんか?
二重過程理論の視点を取り入れることで、より多くの人々の心と頭に響き、「なんとなく惹かれる」という感覚的な興味から始まり、商品やブランドへの理解と共感を深め、「これなら購入してみたい」という具体的な購買意欲が自然と芽生えていきます。

この感情と理性の両面に働きかけるアプローチにより、一時的な関心だけでなく、実際の購入へとつながる確かな行動変容を促すことができます。

是非実践してみてください!🌿

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