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私たちの食べ物の選択が世界を変える。

公益財団法人 みやぎ・環境とくらし・ネットワーク(MELON) HPより

先日、エル・ソーラ仙台(AER 28階)で、午前と午後の2回にわたって開催された「食べることは生きること~アリス・ウォータースのおいしい革命~」の上映会&トークは、宮城県名取市のせり農家である三浦隆弘さんが、「上映会をやろう!」と言い出して、準備期間1ヶ月という突貫作業で実現したそうです。三浦さんは、いまや20年以上にもなる仙台せり鍋ムーブメントの立役者としても有名な方ですが、私たちが無料でこの映画を観れるように環境省からの助成金まで取り付けてくださったということで、本当に感謝です。
トークの時間では、鴨志田めぐみさん(アクアイグニス仙台 マルシェ リアン アシスタントマネージャー)、三浦隆弘さん(三浦農園代表/(公財) みやぎ・環境とくらし・ネットワーク理事/TERRA MADRE Salone del Gusto 2024 日本代表団)、斉藤緑里さん(せんだい食農交流ネットワーク代表理事/野菜ソムリエ上級プロ)のお三方から、地元宮城の食に関する興味深いお話をいろいろ伺うことができました。




映画「食べることは生きること~アリス・ウォータースのおいしい革命~」

アリス・ウォータース。半世紀をかけて、世界中の料理人と教育者に影響を与え、「オーガニックの母」「おいしい革命家」と呼ばれるようになった。2023年、アリスの集大成となる書籍『スローフード宣言 ― 食べることは生きること―』(海士の風)の出版1周年を記念して、著者来日ツアーが開催された。アリスが日本各地を訪れ、学校給食を味わい、大地の守り手である生産者、料理人と触れ合っていく。

食べることは生きること ~アリス・ウォータースのおいしい革命~ 公式HPより

 食には、人と人のつながりを深め、人間らしい組織をつくり、窮地にある環境を癒やし、元気にする力があります。しかし同時に、食には、私たちの健康と地球を破壊する力もあります。私たちは、今も目の当たりにしているのです。食を取り巻く産業構造が、人の暮らしと地球環境に不正を働き、劣化させていることを。
 この本でお伝えするのは、食べることが人の暮らしと世界にどのような影響をもたらしてきたか、そして、その道筋を変えるために私たちにできることは何かということです。参考文献を並べた学術的なものではありません。すべて、実体験からお話しします。食べることは、生きること。これが私の人生を導く哲学なのです。

『スローフード宣言 ― 食べることは生きること―』12~13ページより

映画の中で特に印象深く感じたシーンを、いくつかご紹介したいと思います。(^o^)


① 島根県隠岐諸島の海士町

アリスさんが最初に訪れたのは、海士町の学校給食と食育の時間でした。
できる限り海士町産の食材を使って作られた給食を生徒たちと一緒に食べ、教室での「食事に重要なことは何か?」という先生からの質問に、栄養バランスや地産地消などと答える生徒たちに続いて手を挙げ、先生に当てられて「(野菜や果物の)熟度」と答えたアリスさんは、みんなから温かい拍手をもらいます。
この熟度の大切さについては、『スローフード宣言 ― 食べることは生きること―』の「季節を感じること」という章で述べられています。

 「季節を感じること」、つまり旬とは、季節がめぐるリズムで生き、食べることです。
 (中略)
 旬の食べ物を食べれば、それぞれの地域にある芽吹き、育ち、結実、死、腐敗、休眠、再生のサイクルとつながることができます。季節を理解すれば待つ力が身につき、ものごとの本質が見えるようになり、「今ここ」を生きながら自然と共存していくことがわかるようになります。

『スローフード宣言 ― 食べることは生きること―』135ページより

 「季節を感じること」の鍵となるのは、熟していることです。
 (中略)
食べごろは繊細です。何がいつ完熟であるかを知るには鋭い観察力が必要です。注意深く観察して、風味を確かめて、本質を把握する。
 (中略)
味のグラデーションを理解することの学びは深く、ワクワクするプロセスです。

『スローフード宣言 ― 食べることは生きること―』138ページより

 変化を受け入れることは、ものすごく大切です。すべてのものは移ろいます。いつも同じであってほしいと望むことは、流れる川に逆らって泳ぐようなもの。旬は、溺れそうな私たちを救い、変化を抱きしめることができるよう支えてくれる案内役です。季節を受け入れると、一瞬一瞬の儚さを感じ、つかの間の生命の尊さに感じ入ることができるようになるのです。

『スローフード宣言 ― 食べることは生きること―』148ページより

旬の熟した食べ物に心を寄せるということは、「つかの間の生命の尊さに感じ入ること」なのですね。まさしく、人生で最も大切にすべきこの感動的な体験を、私たちは見過ごしてしまっていないでしょうか。


② 徳島県神山町

ここには、アリスさんがカリフォルニアのバークレーに52年前にオープンしたレストラン〈シェ・パニース〉でヘッドシェフを務めたジェローム・ワーグさんが住んでいます。

アリスさんは、神山まるごと高専の「日本一、地産地食な給食」を味わい、オルタナティブスクール「森の学校みっけ」を訪ねて子どもたちが作った焼き芋を試食した後、フードハブ・プロジェクトとジェロームさんが主催したファーマーズ・ミーティングで、全国から集まった農家さんたちと語り合います。
「ファーマーズ・ファースト」という言葉を繰り返すアリスさん。
それは、
「農家さんたちは、美しい仕事をすべて引き受けてくれています」
「気候変動を止め、みんなの健康を守ってくれる人」
「土地を大切にする人から食べ物を買うことは、国の未来を守ること」
という信念に基づいています。

 私たちは皆、他者や自然と「生かしあうつながり」の中に生きています。一度そこに気づくことができたら、自分の中である種の力が解き放たれます。日々の暮らしに、お互いに、そして世界に対して、責任を感じることができるようになるのです。

『スローフード宣言 ― 食べることは生きること―』192ページより

農家さんとの「生かしあうつながり」を作る3つの具体的な方法を、アリスさんは『スローフード宣言 ― 食べることは生きること―』の中で説明しています。

 ファーマーズマーケットは農家や酪農家にとって、仲介業者を挟まずに直接対価を受け取ることができる素晴らしい場です。私たち食べ手にとっても、農園を訪れなくても農家のことを学ぶことができる場です。食べ物をマーケットで買うようになると、旬のこと、地域のことを経験から理解できるようになります。ほとんど自動的に吸収できると言ってもいいかもしれません。ファーマーズマーケットに行くだけで、「生かしあうつながり」がわかるようになるのです。

『スローフード宣言 ― 食べることは生きること―』198ページより

 地域支援型農業(CSA、Community Supported Agriculture)も、地域と農家を結ぶ素晴らしい成功モデルです。CSAでは、農家がこれから育てる野菜に対して前払いをします。そうすることで、農家にはあらかじめ収入が保証され、購入者には毎週または隔週などで、農園でそのときに旬な食材が箱いっぱいに届きます。
 (中略)
CSAが根付く地域には、頼もしいローカル経済圏が築かれていきます。農家は直接支援され、地域も栄養で育まれる。つまり、共生する関係性ができるのです。

『スローフード宣言 ― 食べることは生きること―』198ページより

 CSAで前払いを受けることで農家が食材を育てるのを支えることができるのと同じように、学校も信頼できる安定購入者になることができます。地域の農家や酪農家は、食べ物の本当の値段を仲介業者なしに直接、前持って受け取ることができるようになるのです。
 (中略)
大学を含むすべての学校が、例外なく地域の生産者から食材を購入するようになるとき、本当の変化が起こります。環境再生型農業、地域社会、学校がウィンウィンの関係になるのです。子どもたちには、学校の食堂に足を踏み入れるだけでスローフード的価値観が浸透していくことでしょう。

『スローフード宣言 ― 食べることは生きること―』199ページより

すべて実践できたなら、どんなに豊かな社会が実現することでしょう。
そんな素敵な夢を抱きながら、少しずつでもできることを始めていきたいですね。


③ 京都市左京区 日本料理店「草喰(そうじき)なかひがし」

草喰なかひがしは、サステナブルなレストランの最高峰『ミシュラングリーンスター』を受賞しています。
そのオーナーシェフである中東久雄さんは、京都テロワールの体現者と目される方です。
「食材には、走り、旬、名残りがあり、それぞれの味を利く、食の景色を感じ取ることが大事」と語り、美味しい物だけをつまみ喰いせず、食べられる物はすべて食べ尽くすということに全身全霊を傾けていらっしゃいます。

中東さんは、「あんたら料理人は、ええもんだけ持って帰ったら、ええもんができるに決まってる。でき足らんかったり、曲がったり、割れたりしてるものを、どう使うかと考えるのが料理人の役目とちゃうか? 」と農家さんに言われ、毎日山や畑に行くようになったそうです。
「毎日、野菜の表情が変わっていきます。お客さんにそれを説明しながら、草はこうして生えてる、野菜はこんな感じで採ってきました、作り手さんからこんな話を聞いてきましたという話をしながら、召し上がる。そうすると五臓六腑に染み渡るわけです。」
「山に氣がいっぱいあります。料理を食べるだけじゃなくて、少しでもその氣を味わっていただくことで、元気になっていただこうという想いで毎日(野山に)行ってます。」
「日本特有の食事の前に『いただきます』。何をいただくか? 命をいただく。『ご馳走様でした』。走り回って、いろんな人たりの努力であったり、そういうものを経てこのお膳に並べられる。」
(「Dive into the Chef Hisao NAKAHIGASHI and his "herbivorous cuisine"」より)

今回の映画の中でも、中東さんは、「SDGsには、命をいただくことや食べ物を作ってくれる人々への『感謝』というのがない」と、苦言を呈していました。日本人ならではの重要な視点ですよね。


宮城の食に関わる3人のトークセッション

左から、斉藤緑里さん、三浦隆弘さん、鴨志田めぐみさん

まずは、それぞれの方の自己紹介からということで。

三浦隆弘さん(三浦農園代表/(公財)みやぎ・環境とくらし・ネットワーク理事/TERRA MADRE Salone del Gusto 2024 日本代表団)

三浦隆弘さん

三浦さん
1998年に「環境保全米ネットワーク」が設立された時から関わっていて、大地と風と空と水に根ざした過去と未来をつなぐ在来作物を伝えていく農家です。

在来作物プロジェクト展ちらし より
在来作物プロジェクト展ちらし より


鴨志田めぐみさん(アクアイグニス仙台 マルシェ リアン アシスタントマネージャー)

鴨志田めぐみさん

鴨志田さん
東京の調理師学校でフランス料理を教えていましたが、渡仏後に研修を受けていたレストランでは、その料理の一皿に合う庭のハーブを取りに行かされたり、週末はマルシェに出かけたり、アリスさんが感銘を受けたフランスを、私もそのまま体験してきたと思います。
富谷市で地元の食材を使ったフランス料理店をやっていたこともあります。
アクアイグニス仙台が作られた若林区藤塚は、東日本大震災で甚大な被害を受けたところです。住民移転後の敷地の利活用にあたって、生産者と消費者が繋がれるマルシェ リアンという産直市場も設けられ、そこのアシスタントマネージャーをしています。

アクアイグニス仙台マルシェリアンのちらし より


斉藤緑里さん(せんだい食農交流ネットワーク代表理事/野菜ソムリエ上級プロ)

斉藤緑里さん

斉藤さん
作り手と買い手が共に理解し合い学び合う場である「せんだい食農交流ネットワーク」の代表理事をしていて、野菜ソムリエ上級プロです。
私の食との関わりは、もともとマスコミにいたので、生産者を取材することから始めたのですが、春に色麻町の和田ともこさんの畑に行って、雨が降った直後に水滴のついたアスパラガスがニョキニョキと伸びてきたのを目撃して、「ああ、野菜って、こんなふうに育つんだ」と感動して、その場でアスパラガスを茹でてもらって、ものすごく美味しくいただいたのが原点です。


映画を見ての意見交換。

鴨志田さん
映画に登場した人々の言葉は、どれも当たり前のことばかりだけど、「当たり前になっていないよね」ということばかりだった。
三浦さん
有機農業やスローフードを巡るわかりにくい言葉や横文字の言葉を、仙台弁に翻訳しなければと20年間考えていて、手を変え品を変えて試行錯誤している。
ウチの田んぼには絶滅危惧種が4種いて、どうやってその環境を守っていくかという時、多種多様なものをたくさん作るのが良い。
生活としての着地には、まずは生産者と消費者との交通整理が必要。
行政の予算は1年単位なので、担当者や首長さん、学校の栄養士さんが変わったら終わりにならないように。
斉藤さん
私は、生産者でも販売者でも料理人でもないので、伝えるという役割を教育の分野からもしていきたい。
色麻町の和田ひろこさん
農薬も化学肥料も使わないで野菜を作っています。私は料理人の人たちとの付き合いがあるので、その声を聞ける幸せな環境にあります。仙台市役所前の市民広場での朝市・夕市ネットワークでも、消費者の声が聞けます。
飲食店で使われる野菜と個人が使う野菜は違ってきます。作物は大きいものも小さいものも出来るので、それぞれに最適のサイズを買ってもらいます。
鴨志田さん
マルシェ リアンでは、ミニ白菜も人気があるけど、松島純二号という大きな在来種も売れます。これは栽培がすごく難しいんですが、「レタスジャパン」という30代のお兄さんたちが頑張って作ってくれています。
レタスジャパン(@retasjapan) • Instagram写真と動画
「とれたて仙台」という行政の応援アカウントや旬の香り市も覗いてみてもらうと、生産者さんのことを知ることが出来ると思います。

三浦さん
人様の口に入るものの生産工程を、消費者に見せられる農家は価値があると思います。
宮城県みやぎ米推進課の佐伯さん
12月8日に秋保の大滝自然農園で、ほ場の見学やにんじん収穫体験ができる「みやぎの環境にやさしい農業を知ろう!消費者交流バスツアー」の参加者を募集しています。

あいコープみやぎの千葉さん
あいコープみやぎは、店舗がなくてカタログ販売なんですが、体験農場など産地との交流活動もしています。

鴨志田さん
(「どうしたら野菜と仲良くなれるんでしょう? 」という質問を受けて)食べ頃の美味しい野菜はピカピカ光っていて、「私を食べて! 」と言っているので、目が合います。(笑)そういうお野菜はシンプルな調理方法でも美味しいです。
三浦さん
お客様カードとかで、いいことも悪いことも言ってほしい。作り手としての一線を守るために、農繁期ほど指導してほしい。「ダメじゃん! 」というのも、「買わない」というのも必要。なあなあになってしまうリスクがあるので、生産者を甘やかすのは良くない。緊張感を持ってクラフトマンシップを持続できると、お互いにいい関係になる。
斉藤さん
映画でも「フォークで投票する」、つまり購買行動で意思を示すというのがありましたが、良くなってほしいので、消費者から前向きな意見を言うのがいいと思います。
「地産地消」と「環境に優しい」ということの関係がわからない人もいますが、グローバルに考えて、ローカルに活動するということで、食べ物は地元のときめくものを買いましょう。
鴨志田さん
最後に、同級生の応援をお願いします。栗原市花山の温湯温泉佐藤旅館で、地域資源であるイワナ料理を作ると、頭や背骨、皮、エラなどが、たくさんあまるので、「骨皮イワナ」という商品を作っています。温泉に行った時にぜひ買ってあげてください。(笑)


地元野菜を買って帰宅。

ということで、イベント終了後、クリスロードのみやぎ・みちのくカイタク市場で、地元の赤カブと仙台せりを購入して帰り、さっそく夕食にいただきました。(^o^)




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