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こんなド田舎やってらんねえよ

これは大都会の東京から、岡山のド田舎にUターンしてきた「私」の奮闘記である。
かなり赤裸々な内容になるため、同郷の人や田舎好きの人で、見たくない人は見ないことをお勧めする。

私の故郷は、岡山県北部の真庭(まにわ)市という人口3万人ほどの、面積は広いがそれに対する人口は少ないというオーストラリアのような場所である。
そして私の実家があるのは、その中でもさらに山奥の蒜山(ひるぜん)の中和(ちゅうか)地区という元人口500人規模の小さな「村」である。
村内に信号は1つのみ、コンビニはない、スーパーもない、かろうじてある小学校は全校14人で廃校ギリギリという消滅寸前の限界集落である。
 
そんな土地に私は高校生まで育った。
もちろん村に高校はないため、家を出て寮に入って近隣の高校に通った。
村に唯一あった中学校は私が中学1年生だった時に閉校した。今は撤去され跡形もない。
 
私自身はなぜか昔から漠然と「ビッグになる」という目標があったため、高校以降地元に残る選択肢は皆無だった。脳内にかすりもしなかった。
「ビッグになる」という目標の元、日本の二大都市を巡って箔を付けようと決心した若かりし高校生の私は、その言葉通り大阪の大学に進学し、就職で上京した。
 
箔を付けてその後の人生はそれほどイメージしていなかったのが短絡的な私らしいのだが、いつまでも街にいるつもりはなかった。いつかは移動しないといけないな、とこれまた漠然と考えていた。
 
そしてその時が来たのである。
ちょうど3年前の2021年、母の末期癌が見つかった。
こう言ってはなんだが、東京に居心地の良さを感じ出るに出られなくなっていた私は家族を看取るという名目でようやく6年間過ごした東京を去ったのである。
 
さて、ここからは地元での新しい人生のスタートだ!
と、最初は息まいていたのだが、徐々にエンジンの回転数は下がっていった。
だって、本当になにもない。
信号もない、店もない、居酒屋もない、病院もない、ビルもない、家もない、何もない。
まず人がいない。
これはゆゆしき問題である。
私だって以前は自然豊かな地元が好きだった。
「自然があって落ち着くな~!リフレッシュするな~!」
と、思っていた。
でもそれは、あくまで「都会に住んでいた場合」である。
街に住んでいると確かに緑が恋しくなる。それは認める。
私も渋谷方面に行った時はよく明治神宮に参拝していた。
人には自然が必要である。それはそうだ。
でもいざ「住む」となったら話は違う。
私は東京都の上野に住んでいたのだが、上野だったらちょっと夜遊びに行きたいナと思ったらマンションから出て15分も歩けば上野公園があり、不忍池があり、いつも人がいて賑わっていた。
そうした人の営みを見るのが好きだった。
でもここはそうじゃない。誰もいない。
歩いていても人に会わない。
人が好きな私にとって、ここは砂漠地帯である。
このままここにいたら喉が渇いて死んでしまう。
 
ああ、上野の私のなじみのバー。サムライ、角屋、金魚。
マスターは元気だろうか。みんな元気にしているだろうか。
7月になったら大輪の蓮の花を咲かす不忍池。
11月の今頃はもう枯葉になって冬支度を始めているだろうか。
冬が近づくとクリスマスのイルミネーションが輝き出す東京駅。
年の瀬が近づき煌めき始めているだろうか。
あの賑わいが、あの刺激が、あの人がいる心地よさが恋しい。
 
では、なぜ戻らないのだろうか?
誰もこの地元にいてくれとは頼んでいない。
親も自由にしなさいと言っている。
東京でも海外でも、どこにでも行ける。
何に抵抗しているのだろうか?
 
それは、地元に可能性を感じているからだと思う。
確かに街は楽しい。飽きることがない。一生過ごすこともできると思う。
でもそれ以上のことがないようにも思う。
お金さえあれば何でも手に入って、真夏になればミストが現れ、その一方で建物からはクーラーの熱風が吹き出す。
アスファルトの道路は高温に熱せされ、靴底のゴムは溶け、犬猫も昼間は歩けない状態だ。
それが人間の自然な姿なのだろうか?
人間らしい生活がしたい。
せっかく日本にいるなら四季を感じられる場所にいたい。
それが私が地元に戻ってきた理由の一つだった。
 
そして私は今地元にパートナーがいる。
多趣味でいつも忙しそうで、でもクリエイティブで面白い、見てて飽きない彼である。
一緒にいて楽しい、日々が豊かになると思ったのが、彼と一緒にいたいと思った決め手である。
彼が地元にいる限り、私はここにいるのだろうと思う。(たぶん)
 
なので、ある程度腹をくくって地元でのコミュニティを作ったり、人が集まるイベントを企画してやりがいを見つけようとしている今である。
正直こんな限界集落を盛り上げようとしても無駄でしょ、どうせ近い将来消えてなくなるよ、みんなで都会に行こうぜと皮肉に思う私もいる。
でも、放っておいたら当然そうなりそうな時代の流れを変えるのも面白そうだなと思ったりもする。
もし人口減少が進むこの時代で、この場所で、そんなことが起こせたら、それは奇跡かもしれない。
 
正直未来は見えない。
このまま日の出を見ずにド田舎で不満たらたらのババアになって死んでいくのか、
やりがいを見つけ、地元に戻ってきて良かったと思うのか。
はたまた別の道があるのか。
やってらんねえよ、と思いながら奮闘を続ける私の人生記はまだ続きそうである。
乞うご期待。
 
【終わり】

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