第012話 始まり
「もって一年でしょう……」
「そんな! この子はまだ八つなのよ! お願いします! なんでもしますからっ!!」
――……ママ? ……ママ!
「ママッ!」
いつの間に寝てしまっていたのだろう。私はパソコンの前で飛び起きた。横を見ると怒った顔をした息子……アキトがいる。
「ごめんね。お母さん、またここで寝ちゃってたわね。ご飯、今用意するから」
私は笑顔を作り、アキトの頭を撫でた。満足したのかお腹減ったと一言残してリビングへ走っていく。私も立ち上がり伸びをしてリビングへ向かった。
「おはよう、フィリップ。あなたもこっちに来ていたのね」
夫であるフィリップがダイニングテーブルの上でパソコンを触っていた手を止め、私に笑みを向ける。隣にはアキトが座り、フィリップのパソコンの画面を覗き込んでいた。
「おはよう、サキ。勿論、アキトのいるここが一番だからね。そのための世界。そうだろう?」
「……そうね。今、朝食を用意するから待ってて」
平和な日常。幸福な家庭。
私は少し前までこの生活に満足していた。
「ママ、僕も手伝うよ。目玉焼きくらいなら出来るから」
「そうね。お願いするわね」
アキトは来月で10歳になる。アキトが亡くなってから1年経ったのだ。
じゃあ、この子は誰?
この子は私が作ったアキトのクローン。アキトの意志を引き継ぎ、ここネオガイアで暮らしている。
アキトであってアキトじゃない。
だけどアキトなのだ。
全てのデータをこのアキトが引き継いだのだから……。
でも……死んだあの子はどうなるの?
あの子がいなかったことになってしまうような気がして、私はこの現実が分からなくなってしまった。
フィリップは喜んでくれている。亡くなったアキトと同じように、ここで目玉焼きを作っているアキトも愛してくれた。これでいいのかもしれないとも思った。
だけどフィリップは、アキトのためにもう一つのネオガイアを作ろうとしている。何故なら
今のネオガイアは現実と仮想世界を行き来している人たちだから。もしも、アキトが自分の存在に気が付いてしまったら?
それは考えただけでも恐ろしい。
アキトはここでしか生きられない。ならば現実と同じような世界を作ってあげればいい。
現実世界をコピーした並行世界。
私たちが求める理想のクローン。
クローンデータなので本物ではない。だけど本物と同じように意志がある。生きているのと等しいのだ。違うと言えば、私たちに操作されるということだろう……。
私はとても恐ろしくなってしまった。これはきっと自然の摂理に反している。
それなのに私は見て見ぬふりをして、フィリップと共に着々とその計画を進めていた。それは私もアキトを愛しているから。アキトには幸せになってほしい。アキトのためならなんでもしてあげたかった。
「わぁ、殻入っちゃった。どうしたらいい?」
「そういう場合は、箸を使って取ったらいいのよ」
「え~、箸は使いにくい。スプーンじゃだめ?」
「そうやって使うことを諦めるからいつまでたっても使えないのよ。ほら、前より使えるようになってるじゃない。上手上手」
アキトは日に日に成長している。
だって彼はここ(ネオガイア)で生きているのだから。
もう一つの真のネオガイア。私たちはネオガイアZEROと呼んでいる。
ネオガイアZEROを完成させるためにはクローンデータが多く必要だ。そのデータを取得するためには……。
「ママ? 頭痛いの?」
「ううん、大丈夫よ。さ、ご飯にしましょう」
私はいつもの日常をいつものように過ごす。
だけど、心の中はいつも靄がかかったままだ。
フィリップとアキトを見送り、私はパソコンの前に座りプログラムを打ち続けた。これは私に残っている唯一の人間の心。それに私は全てを委ねることにしたのだ。
とあるシステムを作った私は、二通のメールを送信した。
始めまして。
私はG社の研究員です。
そうですね、S.S.と書いてエスツーと呼んでください。
エピト様とハチピ様に同内容のメールをお送りしております。
アバターとワールドデータを添付いたしました。
以下のURLよりダウンロードしてください。
daf;lskajg;airutiae
このデータで、G社の計画を阻止してほしいのです。
まずはお送りしたアバターを使い、用意されたワールドに行って下さい。
そこで次の指令を送ります。
では、宜しくお願い致します。
お願い。
私たちを止めて……。
サウンドノベル sound novel
後日追加予定
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