第011話 ドロピとの出会い
新しい挑戦を始めることにしたオレ達は、S.S.さんの言うVTuberに重点を置いて活動を始めた。
「アバターを貰ってから二か月経ったけど、S.S.さんから連絡がないのはやっぱりまだまだっていうことだよね。なんか不安は拭いきれないな……。もっとS.S.さんとコンタクトが取れたらいいのに……」
「そうですね……。このままでいいのか。とか、どうやっていったらG社の野望を阻止できるのかって知りたいですね……」
すぐに見えない結果にオレ達は少なからず焦っていた。
しばらく沈黙が続いた後、瑛斗先輩が重い口を開ける。
「……だけどやるしかないんだよね。S.S.さんに言われたからじゃなくてさ、これは僕たちが始めたことだから」
瑛斗先輩の笑顔はまだ曇ってはいたけど、オレは自分を奮い立たせるためにも大きな声で返事をした。
「そうですよ! せっかく新しい挑戦も決まったわけですし! でももう少し頑張るとしたら、認知を広げるために色々な媒体で露出していくとかですかね。やっぱ、いつも同じ時間だと新規さんを獲得するのは難しいですから」
「22時台は激戦だもんね。じゃあさ、僕が朝とか深夜に配信してみようか? それにキャスッターっていう配信サービスにも興味あるからさ、それもやってみようかなって」
「マジですか? 先輩も仕事や動画の編集で忙しいのに……」
「いいよいいよ。やれる人がやればいいしさ」
「せんぱ~~~~い!! オレ、今度先輩のためにありがとうの歌、歌います!!」
「なんでだよ!! いいよ!!」
そう言って先輩は笑ってくれた。
オレは、先輩にもリスナーさんいも恵まれているな~。
「あっ!! そうだ、先輩!! いつもオレたちのために頑張ってくれているリスナーさんたちのために何か出来ないですかね? もちろん配信とかで楽しませるっていうのは当たり前なんですが、何かちょっと変わったことがしたいっていうか……」
「そうだね~。何が出来るんだろう。変わったことか……」
二人でうんうん唸りながら思いついたのは掲示板だった。
「ここら辺にイラストを飾れたら良くないですか?」
ハピバ島に入って右側の浜辺に立ち、両手を広げる。
「いいとは思うけど、どうやって作るの?」
「それはほら、あそこの木を使ったらいいじゃないですか」
オレが指し示す方向を見た先輩が顔をしかめた。
「ヤシの木を使うの? 勝手に切ってS.S.さんに怒られない?」
「何も言われてないし、いいんじゃないですかね。怒られたら怒られたですよ。あれから連絡がないので、むしろコンタクトを取るきっかけになるかもしれませんよ。ということで、先輩、設計図描いてください」
「え、僕が? 設計図なんて描いたことないけど」
とか言いながらも描いてくれるのが瑛斗先輩のいいところだ。描いてくれている間、オレはとりあえず木を切り倒すことにして、自分でモデリングしたチェーンソーを持ち込んだ。実際に切れるか不安だったけど、切れてる切れてる。
あっ……。
「先輩そっちに倒れますっ!!」
「えっ!? わあああああああ!!」
先輩のいる方向にヤシの木が勢いよく倒れた。
「八広っ!! そっちから切ったらこっちに倒れるって分かるだろ!!」
「あははははは。で、設計図はできました?」
寸前で避けた瑛斗先輩が怒っている。当たってもどうせアバターだし、怪我することはないからさらっと流した。呆れ顔の瑛斗先輩を無視して、設計図を覗き込む。
「いいじゃないですか。これなら沢山飾れそう! 目標は俺たちの連続配信100日記念にお披露目にしましょう!!」
こうしてオレたちは掲示板づくりに精を出した。
◇
2019年5月30日、連続配信100日記念当日。
「実はね、僕たちが夜な夜なね」
「いや~、やっとね、見せれる時が来ました」
「木をね伐採して……」
ハピバ島に入る手前のエントランスで、オレたちはリスナーさんたちに向けてもったいぶってみた。
『伐採!?』
『え? 何、見たい!』
ざわざわとしたコメントが流れて、オレ達はニヤニヤする。
「本当に見たい? じゃ、行きますか?」
「行きましょう」
オレが先陣を切ってハピバ島に入った。
三本の木を立て、黄色く塗った板五枚を並べた大きな掲示板。その脇には残骸が落ちているけど、それは頑張ったアピールということで。
『すごいっ』
『そこに飾られるの?』
反応は上々。このハピバ島にみんなのイラストが飾られることによって、絆がもっと深まるような気がした。この島は、みんなとの思い出でいっぱいにしたい。
先輩がどうやったら飾られるのかを説明を始めている時だった。
掲示板の前に黒い物体が通り過ぎる。
『何か通った!』
『今、カブトムシが飛んでた』
「カブトムシ? 気のせいじゃ……」
「えっ、なになになに? 怖い怖い怖い」
先輩が突然起きた出来事に怯え始めた。ここは招待しなければオレ達以外入れない。怯えるのは当然の出来事だった。
『怖いんだけど』
『知らないの?』
オレ達の不安も伝染してしまったのか、リスナーさん達からも不安の声が漏れる。
何だろう? よく見ると、黒いドローンのような物体がウロウロと飛んでいた。オレはなんとなくS.S.さんから贈られてきた何かのような気がして手を伸ばす。
「よーしよしよし」
「こら、手なずけようとするな! ナニコレ? いや、本当ナニコレ!」
撫でると喜んでいるようにも見えた。
「カメラ付いていますね」
「これ、どうしたらいい?」
「んー、わからないです。S.S.さんとかじゃないんですかね~?」
「……でもまぁ、とりあえず名前つけよ。よく分からないからつけよ」
あんなに怖がっていたのに、瑛斗先輩が突然そんなことを言い出した。怖さが頂点に達しておかしくなった? 黒ドローンも名前を付けてほしいのかぴょんぴょんと飛び跳ねるように動いている。攻撃してくるとかないし、害はなさそうだ。
「おお、動くと付いてくる! 可愛い~」
やっぱりこのドローンはS.S.さんが贈ってきたものに違いない。それだったら、ここのワールドにいてもおかしくないし。
「ずっとここにいるの?」
瑛斗先輩の質問にもぴょんと飛び跳ねて答える。意志疎通も出来るようだ。
一体何のために来たのか分からないけど、必ず意味はあるはず。
「じゃー、さっき先輩が言ったように名前決めますか」
いくつかリスナーさんに名前を挙げてもらい、投票で決めることにした。そうして「ドロピ」という名前に決まった。ドロピもこの名前が気に入ったようで飛び跳ねて喜びを表現している。
うーん、可愛い。
アニメとかにあるようなマスコットキャラみたい。
でも一応、他のワールドでもこういった事例があるのか、ドローン自体存在するのか調べてみるか……。
不安を抱えたまま配信を終え、瑛斗先輩とドロピと顔を突き合わせた。
「ドロピがなんでここにいるのか分からないけど、ずっといるっていうんだから、仲良くなるのが一番じゃないかなぁ」
「確かに、追い出す方法も分かりませんしね。オレなりに調べますが、その間は様子見するしかないですね。もしかしたらそのうちドロピを経由してS.S.さんから指示があるかもしれませんし」
「うん。今はまだよくわからないけど、やっとS.S.さんとのコンタクトが取れた気がして、僕嬉しいんだ」
そう言いながらドロピを撫でる瑛斗先輩は、凄く楽しそうに笑っていた。
ドロピはこの日を境に毎日ハピバ島にいた。だけど、ただいるだけで何かが変わったわけじゃないし、S.S.さんからの指令もない。アニメやゲームによくある、「何か条件を満たさないと指令が受け取れない」とかなのかもしれない。
一応ネオガイアやドローンについて調べたけど、情報は何もない。G社が作ったネオガイア。きっとG社の野望はここに関係するとは思うけど、世界はいたって平和だ。今のところ、世の中全体がVRの世界に移行しつつあるのは感じてはいるけど、それが関係しているのかな?
G社の野望っていったい何だろう?
進展があったようで何もない現状にオレは密かに不満が募っていた。
サウンドノベル sound novel
後日追加予定!
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