きっかけなんて、別に
会話が終わらない。
去年の冬から今年の秋、今に至るまで。彼もわたしもおしゃべりなので、slackに積み上がるやり取りの数がスコスコ増えていく。
2020年12月、元同僚の山本さんとエッセイを書くプロジェクトを始めた。寄り道や息切れも多くてひそひそとしつつも、一応は途切れず続いていると言っていいと思う。slackを使い始めたのもこのプロジェクトのためだった。
彼との間におけるきっかけと言えば、覚えているのがインスタントの味噌汁。
ある時、わたしが17時に仕事を終えて会社を出ようとしたら、彼はウォーターサーバーの前でインスタントの味噌汁にお湯を入れようとしていた。
それがおやつなのか夜ごはんなのか知らないが、わたしはなんとなく、彼が昼ごはんをスキップしてて、それを食べてそこからさらに6時間働くぞ的な雰囲気を感じた。
それで、咄嗟に「そんなん食べてたら、死にますよ」と言った。気安い感じの同僚っぽく、気安い感じに声をかけたのだ。
食事ならもっとちゃんと食え、こんな時間にエネルギー補給してあとどんだけ働く気なんだ、の意を込めて。
彼は何て答えたんだったか。
「死なないから!」だったか「そういうこと言っちゃダメ」だったか、いずれにせよ笑っていた覚えがある。ろくに返事も聞かず、ピ、と勤怠を切ってわたしは帰った。
そして、山本さんってこういうことを言っていい人なんだな、と思ったのだ。失礼な物言いに怒らなかったから。
言うなればこれが、彼に対する認識がちょっと更新されたきっかけ。
あまりにも些細な会話だったし、そこから何かが劇的に変わったわけでもない。それに、そもそも気安い言葉をかけようとするには、それより以前に本質的なきっかけがあったはずだ。そっちの方は全然覚えていないのに、味噌汁のことはなぜか覚えている。
なんでもない日の夕方、どうでもいい会話。
きっかけなんて、関係の線上にある単なる一点でしかない。確かに存在するとしても、大切にするほどのものでもないとわたしは思っている。何か決定的な衝撃を求めるよりも、小さな点を連続させていく方がいい。
でもたぶん、きっかけなんて別に…とか思っているから、slackの会話が終わらないんだよな、ということにも、うすうす気づいている。
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