占いに行った part2 ②

 私は今日、良心の欠片もないインチキ占い師のために、貴重な三千五百円をドブに捨てた。お金を捨てて、得たのは呪いの言葉だけだ。天職を繰り返し失うのも、仕事が見つかっても上手くいかないのも、悪い予言でしかない。千円の予定で診てもらえたのは、仕事が今後どうなるか…ではなく、〝現状の運は悪くない〟の一言だけだし、三千五百円にプランを上げてわかったのは、〝仕事が見つかるかどうか〟の一点だけだ。ぼったくりって、こういうことを言うのだろう。良い勉強になった。もう二度と行かない。
 しかし腹が立って仕方がない。悪い予言を回避するためにどうすれば良いのか…ということを尋ねれば、更に値を吊り上げられたのだろうと想像する。そうしてひとつひとつ賽子を振るのだ。悪徳商法でないのなら、他に何と呼べば良いのだろう。
 帰って改めて口コミを調べまくるが、僅かな口コミ自体、何だか怪しいと気付く。商品レビューのようにリアルタイムで蓄積されていくタイプのものではなく、ネットニュースの広告に入って来るような、褒めるばかりの得体の知れないレビューが二件、テンプレートのように張り付いているだけなのだ。
 あぁ私は、自分で自分を不安に陥れたばっかりに、何の根拠がなくても「大丈夫!」と直に言ってくれる生身の人間を求めて、失敗したのだなぁ…と思った。
 五行易は当たるらしい。しかし当たってたまるか!と思っている。私のこれからが、一般論を逸脱するような何かを成し遂げる可能性など限りなく低いのだとしても、相手を不安に陥れ、まともなアドバイス一つしない悪徳占い師になんか、人生を左右されたくない。
 話している間、彼女の顔を何度か見た。誰かに似ている…とずっと思っていたが、十代後半か二十代前半の頃、キャッチセールスに引っかかりかけた時に会った女の人にそっくりだということに気付いた。
 友人と観劇後、どこかでお茶でもしようと駅地下のショッピング街をうろついていた時、とても綺麗なお姉さんに声を掛けられた。
「ネイルのカタログ配ってるんやけど、持って帰らない?」
 誘われるまま連れていかれた店で、その後何時間も拘束された。ネイルのカタログなど出て来ず、ひたすらエステの勧誘をされる。さっきの綺麗なお姉さんと入れ替わりにやって来たのは、「戦争を知っている」という四十代後半ぐらいにしか見えない、これまた綺麗なおばさんだった。戦時中の話を始めるので、若輩な私は戦中育ちの人にしては若々しすぎる!と思いっきり信じてしまったが、どう考えてもおかしいと今ならわかる。人を疑うことを知らない年頃だから、カモにされたのだろう。
 疲れ果ててうっかり、数十万もする契約を結びそうになったが、一緒にいた年上の友人が「私は無理」と通したおかげで、当時一人で何かをするということがとても苦手だった私も、契約せずに逃げ果せたのだった。
 同じように捕まり、契約書を書かされてようやく解放された女の子も何人かいた。当時は〝キャッチセールス〟という言葉も知らず、一人だったら危なかったと思うが、逆に、一人だったら声はかけられなかったかも知れない。他に連れて来られていたのも、皆二人連れだった。
「戦争を知っている」と言ってエステの契約をさせようとした親玉に、この日の占い師はとてもよく似ていた。それなりに年はとっていたし、それをカバーするように異色な身なりをしていたが、実は同一人物だよと言われても、疑わないかも知れない。
 口コミを…書けるところがあるなら書きたかった。しかしないのは、やはりそれほど信頼のおける商売をしているわけではないからだと思う。
 占いは…やはり上手に使わなければ危険だ。
 一般論では通用しない生き方をしようとしている私は、上手に持ち上げ背中を押して、良心的な仕事をしてくれる、前回のような占い師との縁を大切にした方が良いかも知れない。また、気分を上げてくれる無料のネット占いに頼っても良いから、何より自分という人間を信じるべきかも知れない。
 看板犬と言う名のトイ・プードルは、終始自分のベッドで大人しくしていた。賢いなぁ…と思ったが、犬に好かれる質でありながら、彼は一切こちらへ寄っては来なかった。ちゃんとしつけされていると言えなくもないのだろうが、緊張をほぐす役割が、自分にあるとは思っていないのだろう。一期一会の客の一人が、ここまで求めるのも過度なのかも知れないが、では看板犬ってなんなのだ?着ている服は綺麗とは言えないし、近寄らなくても目脂が付いたままなのが気になる。本当に犬を大事にしている人は、もっと自分の犬に気を配るはずだ。占いって客商売ではないのか?
 自分の犬にちゃんと気を配れない人の言うことを、私が信用する必要はない。犬が大事な私には、合わなかっただけだと思う。
 サイトには、占いが当たらなかったり満足できなかった場合は、返金保証システムがあると書いてあった。私は満足できなかったが、それに気づいていながらこの文言を、本人の口から聞くことはなかった。こちらが勝手にサイトのこの一文で信用したのも事実だが、当たらなかった、満足できなかったところにわざわざ出向いて、「返金してほしい」という客がいるだろうか?私なら腹は立っても、二度と行きたくないと思うが、返金してもらった…という情報は何処にも出ていないし、当たって信用できたからまた行った…という情報もない。しかし、【当たる占い師】という地域情報サイトではあちこちに掲載されており、地元民や旅行者なら、気になって足を運ぶことも在り得るだろう。現に私がそうである。
 当たる当たらないは別として、良心的か否か…という点においては、今回の私の体験上、完全に×である。イライラ解消のために書き連ねたくせに、未だに腹が立って仕方がない。
本当に為になって信用できた人がいるなら、是非情報が欲しい。このままでは、悪評を求めて、益々時間を無駄にしそうである。

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