気持ち悪い頭
夜寝る前、翌朝のパンの予約をしようと、ホームベーカリーをぴこぴこいじっていたら、突然言われた。
「気持ち悪い頭してんなぁ…」
突然、何を言うのだと思ったが、無視した。
普段から、極力口を利かないようにしている。言葉の受け取り方が180度ほど違うので、些細なことでぶつかり、不愉快な思いをする経験を積み重ねたせいだ。今更話すこともなく、相手はしょっちゅう機嫌を悪くしていつ爆発するのかも読めないので、ひたすら見えないフリをし、溜息や舌打ちが気に障っても、知らん顔をしていた。
「気持ち悪い頭してんなぁ…」は、口調のニュアンスから、喧嘩を売ろうとしているわけではないのだと取れたが、「気持ち悪い頭」の意味が解らず、突然前触れもなく言われたことで、私の頭にはクエスチョンマーク以外、浮かばなかったのだ。
パンの予約操作が完了したので、髪を梳かし、ひとまとめにして寝ようと、洗面所の前に立った。私の髪は、欧陽菲菲も真っ青になるほど、大爆発していた。
欧陽菲菲の画像をネット検索してみても、決して髪は爆発していない。しかし幼少の頃、テレビで見た彼女の髪型は、衝撃的な爆発ヘアだった。以来私の中で爆発ヘアとは、欧陽菲菲そのものなのである。
私は生まれつき癖毛で、大人になった今も変わらない。ドライヤーを当てると更に爆発するので、長い間髪を乾かさずにタオルでぐるぐる巻きにしたまま寝ていた。しかしそれが本来、髪に良くないのだと、最近になって知ったのだ。
湿ったままタオルぐるぐる…にしておくと、爆発は免れていた。しかし癖は残り、軽くパーマを当てたようになる。それを逆手にとって、いつもヘアアレンジをしていたが、濡れ髪放置が冷えの原因になっていたことに気付き、寒い季節はドライヤーで乾かして寝るようになった。爆発するより冷えが体に障ることの方が、年々深刻になっていたからだ。しかし夏場は、ドライヤーの熱で、入浴の意味がないくらい汗だくになる。夏は自然乾燥か、タオルぐるぐるに再び戻るのだった。
しかし最近、ヘアアレンジの方法をYouTubeで見るようになり、若い美容師さんがとても分かりやすく、「髪を乾かさないで寝てしまうのは絶対にダメ!」と力説しているのを見た。そして自分が、いかにヤバいことをしていたのかを知ったのである。以降、濡れ髪就寝は0になった。
しかし夏場のドライヤーはやっぱり無理。これも良くないとか別に大丈夫とか、賛否両論あるが、妥協策として、“扇風機で完全に乾かす”ということを徹底するようにしていた。
タオルドライと兼用で、扇風機を強風にして四方八方から風を当てる。ドライヤーとの時間差を測ったことは無いのでわからないが、それほど大きく時間がかかっている自覚はない。乾かしている間、両手を使えるので、スマホを見たり本を読んだり有意義に過ごしているからかも知れない。
その時の私は、扇風機乾燥直後の髪が、どえらいことになっていた。鏡を見た途端噴き出したのは、欧陽菲菲顔負けの爆発ヘアだったからだけではない。そんなものは普段から見慣れている。正しくは、欧陽菲菲顔負けの爆発ヘアが、見た人にとって「気持ち悪い頭」と形容されると知ったからだ。
私は自分の爆発を見ても、「気持ち悪い」とは思わなかった。唯、相当に「おもろい」とは思っただけだ。