植木鉢大破!
朝起き抜けにキッチンへ行くと、母が言った。
「大変なことになってるねん」
「おはよう」でもなく、「やっと起きたん?」でもなく、「大変なことになってるねん」? 大変なことになってるという割には、口調は冷静で、むしろ何か含んだような睨みの効いた言い方だ。何が起こったのかと尋ねてみると、ルーズリーフの用紙二枚に渡ってボールペンで走り書きした、手紙のようなものを見せられた。
事情を知って散歩のために外へ出る。書かれていたより酷いことになっていた。プランターの間々に置いている円形の植木鉢が、プランターをキレイに避けて三つ、見事に大破していたのだ。
「昨日植え替えたばっかりやったのに…」
毎年この時期に植えるカンパニュラが、いつも買い求めるホームセンターになかなか出ず、やっと見つけて3つ手に入れて来た矢先であった。他所から引き取った植木鉢は山のようにあるが、彫りが入ったようなデザインのこの大きさのものはストックがなく、あらら…と呟くしかない。手紙の主は二軒隣の奥さんで、免許取りたてだという娘さんが深夜1時にぶつかって大破させたのだというお詫びが書かれてあった。夜も遅いので綺麗に片付けることは愚か、インターホンを押して事情を説明することも憚ったのだろう。慌てて手紙にしたためポストに投入。したようであった。
植木鉢は必ず同じものをお返しします。改めてお詫びに伺いますと書かれていたように、我々が散歩に出かけた後、先ず娘さんが謝罪に来られたが、出勤前だったようで「改めて伺います」と言い残したと、帰って聞いた。
散歩から戻ったら、丁度母が土を片付けているところで、箒大好き犬がその穂先に噛り付いて、頼んでもいないのに箒のお片付けをお手伝いした。カンパニュラは一般的な何の変哲もない植木鉢らしい植木鉢に植え替えられていた。
「やっぱり鉢が変わると貧相やな…」
「植木鉢置いてなければ、家にぶつかってたやろうな…」
そうなのである。
我が家は角地で、カーブを曲がり損ねたらしい車に、過去、何度も植木鉢を破壊されている。植木鉢は敷地内である外周にぐるりと並べて置いてあるが、それがむしろ、家屋を守ることにもなっている。植木鉢だけでなく、自宅の車にぶつけて去っていく車も少なくない。朝起きたら後ろのバンパーが凹んでいたことが何度もある。角地で日当たり良好だが、住宅内でマナーの悪い当て逃げが起きているのも事実で、うちはその最たる被害家庭とも言えた。
夕方、二軒先のお隣さんが、宣言通りお詫びに見えたようだ。何故か母親プラス娘二人の三人体制。もしかして怖がられていたのだろうか…。
新しい植木鉢は残念ながら同じものがなかったようである。まぁそりゃ仕方ない。
「可愛い花があったから…」と、花の苗をふたつ、更に菓子折りまで持参の超低姿勢で、むしろ母の方が恐縮したようだ。
しかし何とも、見事にプランターだけ避けて飛び石状態のカンパニュラだけ大破させるとは、初心者にしては逆に器用である。何故あんなことになったのか、説明された母から更に説明を受けたが、何度聞いたところで私にはさっぱり理解出来なかった。