警察にお世話になりました ②

 夜、大きめの公園に犬と散歩に出かけた。毎晩十中八九行く。彼が刺激を求めて他の旅路を要求しない限りは…。
 園内に外灯はあるが、殆ど暗闇。時々若者が集って騒いだり、カップルが密会していたりするが、犬と我は気にしない。だって此処は公園。公の園である。税金払ってるんだから利用させていただきますよ。ってな具合で、犬と人間は、夜遊びしている人々を気に掛けない。不審がって近付こうとしないのは我が母親の方で、ある意味気遣いが出来るとも言えるが、無頓着と言うべきか、娘の方が妙に肝が据わって来た今日この頃である。
【乗り入れ禁止】という立て看板はあるが、若者たちは気にせず結構乗り入れている。園内に乗り入れた後、近所の友達だか知り合いだかを訪問しているらしいバイクや自転車…と思っていたら、放置されている自転車もたまにある。
 この日も自転車が一台乗り入れられていた。暗がりでもそこそこ新しいことが伺える。私が持っているものによく似ていた。
 園内に人がいなかったため、ご近所家庭への訪問者が駐輪場代わり置いたのかと思っていたが、それから一週間以上そのままだ。
 園内に留まっているその自転車は、時折移動したり体勢を変えたり、ある時はしっかり倒れていた。可哀想なので立てる。その後、十日ほど経っても自転車は公園内に滞在していた。
 盗難の末、放置されたのではないかと想像する。見ると、防犯登録されていることがわかるシールが貼られていた。
 持ち主が困っているのでは…?
 自身も自転車の盗難被害に遭い、大いに困った過去がある。もう5年も前のことだが、防犯登録をしていたため、警察に届けたものの、今も見つかっていない。再会した折にはいつでも連れて帰られるよう、常に鍵は持ち歩いているが、その期待すら薄れつつある。
(因みに、勝手に連れて帰ってはいけない。先ず、警察を呼んでから…なのですが。)
 モノとはいえ、〝愛車〟などと呼ばれるモノまであるくらい、気軽に買ったり捨てたり出来るモノではなく、人のために大いに役立って働いてくれるモノである。そこそこ大きさもあるだけに、存在自体も小さくない。
 モノだけど、モノも持ち主も可哀想になり、防犯登録のシールを携帯で写真に撮って帰り、警察に連絡した。
 事の次第に加え、シールの色と番号を伝える。公園の場所を理解してもらうのに、大分時間が掛かった。私の説明が悪いのか、担当した警官に土地勘がないだけなのか、いずれにせよ、地域の安全を守る存在でありながら、地域のことに詳しく無いのが予想外だった。
「確認しに行きますが…」と彼は言ったが、追従する。防犯登録されていても、盗難届が出されていなければ、警察とはいえ不用意に触ることが出来ないのだそうだ。ということは、そのまま放置の可能性があるということらしい。
 翌日、期待を持って公園へ行くと、自転車は昨日と同じ形で同じ場所に止まっていた。
 盗難届が出されていないということなのだろうが、本当に見に来てくれたのか疑いたくなるほど、昨日と何も変わっていないように見えた。
 あれから数ヶ月。銀色の自転車は今も公園にある。
 以前、道端に放置されていた自転車が、いつの頃からかタイヤが盗まれ、サドルが盗まれ…して、最後には自転車だったことがわからないような姿に成り果てたのを思い出した。
 公園の自転車は、今も変わらず自転車の姿をしているが、雨ざらしでは錆も来るだろうし、炎天下では劣化が進むだろう。自転車の姿のまま朽ちて行くのと、何処かで誰かの役には立つが、部品を手放しながら、何物だったかわからない見るも無残な行く末を辿るか、モノの幸福について考える。
 肩入れし過ぎだと言われればそれまでだが、貧乏育ちで「物を大事に!」と厳しく言われてきたことを不幸だったとは思っていない。その時点で、一生貧乏決定かも知れないが…。

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