4月5日

 ずっと考えていたことがある。求人票によく書かれている、年齢制限についての記述だ。【長期勤続によるキャリア育成のため】と書かれていることが、とても多い。キャリア育成が年齢制限である謎が生まれたのは、私がそこに該当する年齢を越しているせいだ。
 調べてみていくつか思ったことがある。
 そもそも求人には、年齢制限は原則禁止とされている。年齢だけでなく、性別差別なども禁止で、虚偽の内容や誇大表現の禁止なんてものは、そんなん当たり前やん!と思ってしまう。嘘で人を集めて、人を騙して、どうする気やねん!と…。
 雇用対策法の第10条では「事業主は、労働者がその有する能力を有効に発揮するために必要であると認められるときとして厚生労働省令で定めるときは、労働者の募集及び採用について、厚生労働省令で定めるところにより、その年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならない」とされており、元々なかったというこのルールは、中高年の再就職を妨げないようにするための配慮として、2007年に付加された。既に15年も前に追加された事項であるのに、現状として求人に、年齢制限は“ある”。
 それが認められている理由が、前述した【長期勤続によるキャリア育成のため】なのだが、イコール、【若者に長期間働いてもらうことで、時間をかけてキャリアを形成すること】を目的としており、【将来的に事業所の中核を担う人材や管理者・幹部となる人材を育てていきたい】という事業所の考えが根底にあるそうだ。
 言いたいことはわかる。なんとなく。
 しかし実際、若者が採用されて、彼らが長期間働き、将来的に事業所の中核を担ったり、管理者・幹部となる人材になると、何故わかるのだろう?
 逆に、年齢制限を超えた我々のような就職氷河期世代が、将来的に事業所の中核を担ったり、管理者・幹部となる人材として育てていきたいと思われない理由は、何処にあるのか?
 労働意欲が若年層に負けないくらいあって、長期雇用で実績を上げたいという気持ちを持っている氷河期世代を、人材育成という枠組みから排除せんとするのは、その価値に対し、平等な見方で土俵に上げることに抵抗があるからではないのだろうか?
 確かに、年長者が年若な人間に指導的立場で接するのと、ある程度年齢や経験を経ている人間に対して接するのでは、“やりやすさ”といった意味で、印象が変わってくるのであろうことは想像がつく。権力主義、経験主義がピラミッドの頂点であれば尚更なことで、底辺を支える人材が、指導者の年齢層に近く、逆に年が上だったりしたら、やりにくくって仕方がないと考える人も、いないよりはいる方だろう。しかしそれを理由だとするなら【長期勤続によるキャリア育成のため】、という特記事項が正しいとは必ずしも言えない。現に、新卒採用された人材が、3年以内に離職する確率は、3人に1人というデータがある。“時間をかけてキャリアを形成することが目的”と言うならば、その“時間”とは、どのくらいの時間を言うのか?
 今後転職せずに職務を全うしたとして、就職氷河期世代がひとつの職場で残りの職業人生を定年まで働くとすれば、15年から20年はある。それでも“長期育成に値しない”とされるのであれば、一体何年働けば、育成されるに値するのか知りたい。それ以前に、雇用対策法施行規則第一条の3、第1項に該当する6項目とやらが、適正に機能しているとするなら、その審査がどのような経緯で行われているのかを知りたい。
 直近で応募した事業所の求人には、【年齢】について“不問”と書かれてあった。応募の問い合わせをしたところ、求人票にはそのように記してあるが、実際は、一定年齢未満の人材を求めているのだと言われた。誕生日を前にしていた私は、数日でその制限を超すことになっていたが、応募書類は受け付けてくれると言うので送ったものの、早い段階で返戻されてきた。求める人材の年齢を越していたから…とは思いたくない。一旦は受け付けてくれたので、そこには感謝すべきだと思っている。しかし、求人票に示している内容と、実際求めている人材とは明らかに相違があったということは理解できた。
 法に触れないよう、表向きは順守した装いで募集している求人は、実は少なくないのではないかと思っている。この件に関しては、【年齢制限の原則禁止】のみならず、【虚偽の内容や誇大表現の禁止】にも該当するように思われる。法で定められていても、然るべき処罰をされないのであれば、このような求人は無くならない。
 国の労働環境がクリーンにならなければ、病む人も雇用問題に苦しむ人も減らない。
 働きやすい職場、就職氷河期世代が活躍できる職場、この世に無いのなら創ればいい…と、最近思うようになった。実現させるだけの力があれば、とっくにそうしているが、現段階で私には、微塵もない。
 言うだけなら、就職氷河期世代救済を謳う行政と、何も変わらない。それはわかっている。但し私は、有言実行の人として死んでいきたいから、何の力もプランもない今いる場所から、大口を叩いておくことにする。

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