寄生サレル仔
「君、お尻からなんか出とるよッ!」
寄生虫。
ぼくは昔からこいつらに何となく惹かれていた。
不可思議な生態、奇妙な行動、そして何やら怪しいその容貌に。
ぼくが初めて寄生虫に興味を持ったのは20代の愉快なフリーター時代のことで、ブラブラ働きながら毎夜飲み散らかしては好きな本を読んでいた。
本屋のバイトから、出版社の契約社員になったぼくは雑用をしながらいつだっていろんな本に出会えた。
藤田紘一郎、愉快な寄生虫博士。
先生の書く、楽しくも勉強にもなる寄生虫エッセイは当時のぼくの心を奪った。ぼくは目黒寄生虫館で楽しみ、アニサキスのキーファルダーも買った。
「ああ、ぼくも広節裂頭条虫を自分の腹で飼ってみたい。。。」
そんな夢を抱いたこともあったさ。
それから数十年、寄生虫のことは気になりつつもこの潔癖ニッポン帝国において関わることはまるでなく、生肉はやばくね?くらいにしか思い出さなくなってた。
ところがだ、見よ!あの子供の尻を!噂に聞いたあのきしめんが見事にぶら下がってるじゃあないか!
哀れな子供は自分の尻のきしめんを追いかけてクルクル回っている。
ぼくはきしめんを掴んで引っ張った!
きしめんはプツと切れた。
藤田先生のように、ぼくも夢野久作のあの怪人を思い出す。
ぼくはそのクリーム色のきしめんを手に巻き付けよくよく見る。
蛇の鱗のような凹凸のある表皮、帯状にいくつも連なる体節。
もっとよく観察すればよかったと後悔すれど後の祭りですでに彼(?)はママに火破りにされていた。
写真も撮って「マンソン裂頭条虫(サナダムシの一種)」で間違いないと思った。
突如、藤田先生のことを思い出す。
「サナダムシはやさしい、体に良い虫だ」
念の為、病院に電話し、その旨伝えよう。
「コレコレシカジカですが、緊急で何かしないといけませんかね?」
「…基本的には害はないです、下痢が続くくらい。他の寄生虫より薬が効きにくいので5倍の量の飲み薬か、注射での投薬になります。それでも70%ほどしか駆除できないこともあります。まあ放し飼いの猫には必ずいるくらいよくある虫ですし、2年が寿命なのでまた話し合って決めたら良いと思いますよ。」
「…」のところで先生は彼の生活史も詳しく教えてくださったが、ケンミジンコとカエルが中間宿主とは恐れ入った。
ぼくはどちらも飼っていたからだ。そうするとぼくは知らず知らずに彼らと長いこと同居していたことになる。
とにかく、「ニンゲンや他の動物に直接うつることはない」らしい。なぜというに彼ら不思議な寄生虫は「中間宿主」を通さねば成虫になれないからだ。カエルやヘビを生で食うか、ケンミジンコが入った水を飲んだら寄生するやもしれないと。
というわけで来週、狂犬病ワクチン注射の際に話し合うことにした。
どうもこのところ仕切りに草を食べては吐いたり、草だけが丸まったウンコが出たり、ウンコに腸粘液が混じっていたけれど、どうも寄生虫を滑り出させるためにしているらしい、そして思惑通り彼(?)は滑り出てきた。
ぼくがもぎ取った彼の体節は15cm〜20cmほどだったからかなり育ったようだ。頭の方はもぎ取られちゃったからもうお亡くなりになったのかもしれない、「裂頭」というだけあって、頭は割れていた。
総じてポオは至極ゴキゲンで、元気いっぱいだ。
ガツガツ喰う、恐ろしく走り回る、死んだように眠る。
寄生虫がお亡くなりになったのか、寄生虫との共生がうまくいっているのかは解らないけど。