生理的ニ無理ナ者
「あの人、生理的にムリ」
ぼくはこの言葉の意味も意図するところもよくわからない。
けれど女子たちはいつだって吐瀉物みたいに吐き出している。
いったいどういう意味なのか?
ぼくは言う、
「これってさ、女子に限った言い草だと思うんだ」
隣人は言う、
「そんなことないよ、ぼくだって思ったことあるからね」
えーーーーーーーーッ!!
なんでも隣人は子供の頃、クラスメイトや芸能人などにそのようなことを思ったと言う。
こう言ったらなんだけど、ぼくは他人に対して「生理的にムリ」などと思った記憶がない、そもそも他人にそれほど興味もないし、近づかないからだ。
「嫌い」なら何人かいる。
しかし、「生理的に無理」は「嫌い」とは違うと感じるのだ。
なんというか、圧倒的上から目線というか、相手の存在否定というか。
この言葉を放つ者に対してぼくはいつも「お前はどうなのか?」と思う。
「お前は生理的に無理な存在になり得ないのか?」
と。
ぼくなんかは自分でも自分を「キモい」と感じるゆえ、今さら他人にそう思われても致し方ないとすら思うけれど。
しかしながら、こう言っちゃなんだけど、ぼくからしたら「人間存在」が生理的に無理と言っても過言ではないので今さらわざわざ個人を上げることもないと思うのだ。
女子はどういうわけかこの手の話が好きで、おじさんなどは格好の的になる。彼女らが話すのを聞きながら、「お前さんには言われたくない」と思いながらも、なんだってわざわざ公言するのか不思議でしょうがない。
キモいと思い関わりたくないのなら放っておけばいいじゃないか、なぜ賛同を得ようと目論むのか。
しかもだ、「生理的に」といいながら、ほとんどが見た目だけで判断しているようにしか思えないところも気になる。
「生理的に無理」な者の人柄をよく知っているとも思えないし、圧倒的におじさんやデブやブサイクが標的になるからだ。
ぼくは無論このセリフを吐く女子を軽蔑している、「教養がない」と思うからだ。
なぜか自分のことは棚に上げて他人を評価するその動機が「よくわからない理由」という無責任さ。
本能的に受け付けないは結構だが、黙っていたらいいじゃないか、相手だってお前さんには交尾を望んでいないようだし。
そうして「よくわからない理由」で他人を貶し、辱める行為をぼくは「邪悪」だと感じるのだ。
しかし「本能的な嫌悪感」というのは気になるじゃないか?
ぼくらはいつもの通り、夕暮れの川沿いを散歩している。
すると何かを発見したポオがガードレールの下に頭を突っ込む。
と、それはそれはブサイクな茶色の25kgほどの犬を左手に、右手になぜか鎌を持った、今起きたばかりといったなんともだらしのない格好のおばさんがサンダルをペタペタ言わせながら小走りで近づいてきた。
と、そのブサイク犬が、頭をガードレールの下に入れたままで尻しか見えないポオに向かって猛烈に吠えかかった。
突如背後から襲われた形のポオはびっくり仰天し、悲痛なキャンキャン声で飛び跳ね、そのブサイクに向かって突込む。
ぼくは咄嗟にポオを羽交い締めにしたけれど、驚きと恐怖で怒り狂ったポオはなおも甲高い声で「ファッキューーーーーーッ!!!」と喚き続ける、その間にブサイク犬はなぜかニヤつくおばさんと共に小走りで去っていった。
そこでぼくは思った。
「生理的に無理だ」と。
彼らを一目見て嫌悪感を感じたし、関わり合いたくないのはもちろん、二度とお目にかかリたくない強烈に思ったからだ。
そのことを隣人に話すと、「それは違う」と切り捨てられた。
隣人曰く、ぼくがその人とその犬を不快に思うのは嫌なことをされたという理由があるからだ、と。
そうなの?
「生理的に無理」じゃないの?
一瞬でこんなに激しく嫌っているのに!?
近づくのはおろか、視界に入るのもごめんだってのに!?
意味がわからない。。。