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キレル者



「五万円で安心が買えるなら安いもんじゃないか?」



ぼくはお買い物をしている。

普段は決して「お買い物」などに出かけないぼくは食料を買いにスーパーに行くこともしない。
便利な人間様の文明生活では「お買い物」は全てアマゾンくんが家まで届けてくださる、食料さえもだ、ゆえにぼくはわざわざ人々がごった返すところに行く必要もない。

そんな「お買い物」嫌いのぼくだけれどホームセンターは好きだ。月に一度は訪れるほどお熱なんだ。

そんな人もまばらなホームセンターにてどでかいカートをキックボードよろしくザーザー転がし木材をガンガン放り込んでいる。
隣人が「五万円出資する」と宣ったのだ。
そう、ホワイトカラーの彼が出資し、ブルーカラーのぼくが労働するってわけだ。

事の起こりはポオの奴のジャンプ力が半端じゃないことだった。
ビョンビョン跳躍する彼を見て隣人は「そのうち柵を乗り越えるやもしれない」と不安発作に見舞われっぱなしで仕事も手につかない、と宣う。

そんじゃ、肉体労働者が出動しますよってもんだ。
グルリと柵をグレードアップとドゥイットユアセルフよ。こうしてぼくは開店とともに杭を買い占め、今、鉄ハンマーを振るっているさ。

前置きが長くなったが本題はそこから生じたぼくという人間動物の行動の話だ。

ぼくという人間動物は器が狭く余裕にかけるゆえキレやすい、キレるというのはパニック状態でもある、とっ散らかって正常な判断で行動できない状態だ。

「『今日中』に柵をあらから完成させねばならない」

このプレッシャーがぼくをパニックに陥れる。

ぼくは暇そうにブラブラしているパパを捕まえ、テキトーな指示で作業させる、パパは要領が飲み込めず自分の考えで行動する、ぼくの要求と合わない、罵倒するぼく、パパはしょんぼりする。
イッショウケンメイヤッタノニ…

ぼくはインパクトドライバーでねじ止めしている、ポオがやってきてネジの箱を咥えて走り去る、鬼の形相で追いかけるぼく、ポオは箱を落としネジを散乱させ無駄な仕事を増やす、罵倒するぼく、ポオはしょんぼりする。
アソンデホシカッタダケナノニ…

見よ!
このチンケな怒りっぽいサルを!

人は余裕がなくなるとすぐに激怒する。
そしてもともとセコセコした人格な上に自分を制御できない無能さ。
好かれない者の見本のようだ。

ぼくは己の器のお粗末さを知る。

うまくいかないとき、悪いのはもちろん自分なのだ。何かのせいにするのはサルらしい狡さなのだ。
全てのことは自分の行動に起因する結果でしかない。パパが間違えたのはぼくの説明が一方的でとっ散らかっていたからであり、ポオがイタズラしたのは長時間彼を暇にさせ彼の気を引くようなものを置きっぱなしにしたせいだ、そしてそうしたのは誰でもない、ぼくなのだ。

ぼくは見苦しく罵倒した自分を恥じた。
ぼくら人間動物はチンケな存在だ、決して独りではやっていけない、動物や植物、虫や微生物、全ての他者の上に生かしてもらっている。
他者を排除し「人間だけ」になったら数秒も生きれないのだ。
もっと謙虚にならねばならぬ。
人間動物がもっと「反省」を活かせるのなら、世界は変わったのやもしれない。今もなお破壊を続けるせいで破滅に向かうこの世界で、独裁者人間様は何を思うのか。

ぼくというチンケなサルの正体は大して変わらない、きっとまた同じ過ちを繰り返すだろう、ただ、そうならないように気をつけるのは「変わる可能性」を生むだろう。
小さなことでキレて破壊し続けるより、小さな変化で可能性をつなげるほうが他者にも自分にも良いだろう。

「間違えちゃった」と反省してさ、もっと大きな視点で物事を見なくちゃいけないね、この世界の神としてではなく、この世界の単なる一部として。