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タカル者
「ブンブンブンブンブンブンブンブン」
アツイ、アツイ。
暑すぎるんだ。
ぼくは暑さに弱いらしい。
この炎天下に出ただけで頭痛、眩暈、吐き気がひどい。
目の前が黒くなったり白くなったり幾何学もようなサイケデリックになったりだ。
「歳なんだ。。。」
そう、ぼくはもう歳だ、のうのうと40年以上も生きやがった。
一見、屈強そうだが血圧は低いし、血も足りてないらしい。
それなのに汗は大量に放出される。
頭ん中、カラカラなんだ、脳髄がヒンヤリする。
日陰にいれば頭痛は起きないゆえ、自然と日光がトラウマになる。
こんなカンカン照りん中外になんか出たかねーんだ。
幸い今日は仕事はお休みなので家の中で静かに座ってみる。
ブンブンブンブンブンブンブンブン。。。
うっせーなぁ!
ハエだ。
ハエはカンカン照りが大好きなんだ、ぼくと違ってな。
よく気持ちよさそうに日向ぼっこする彼らを見かける。
そうして、ハエどもは大量発生していやがる。
昨日コンポストをほじくり返したのも悪かったのか。
庭を見て回るが外に奴らが屯っているのは見られない。
奴らはしきりに家の中に入りたがる、網戸の前でいきりたってブンブン「入れろ」って言ってやがる。
何だってそんなにこっちにきたがるのか。
ユクスキュルのように奴らのウムベルトを見れるかな。
奴ら、ハエの感覚器官は人間様とはちょっと違う。
奴らは全身で「味覚」を感じれるらしい。
ゆえに「オイシイ、オイシイ」ってこっちにくるとか?
彼らの好きなオイシイモノはウンコ、オシッコ、汗、生ゴミ、獣毛。
甘いものと、酸っぱいものが大好物なんだ。
ほら、ぼくの周りにブンブンきては汗の浮いたアンモニア臭い腕に止まったり、油染みた頭に止まったりしやがる、ヤメテ、来ナイデ。
お昼寝しているリルの闇色の獣毛に奴らが着陸するたびリルはビクッと目を覚ます。
ポオくんさあ、見てばっかいないで獲ってくれよ。
床を這いつくばり奴らを瓶に捕獲しようと試みる。
こう見えてもぼくはハエトリ名人なのだ。
5、6匹ブンブン飛び回る奴らのひとりに狙いをつけ追い回す、しつこく追跡し疲れさせる、休んでいるところにソッと瓶を被せる。
これぞ、持久性追跡力を磨き上げた人類の特技なのだ。
ほら、捕まえた!
外に逃す。
なんで殺さないかって?
もちろん優しいからじゃない、潰すのが嫌なのだ。
外を飛んでりゃカエルかトリどもが喰ってくれるだろうよ。
病原菌を運ぶって?
そんくらいの菌に晒された方が健康的ってもんだ、現にインドの人はガンジス川で病気にならないし、文明化されてない人々は寄生虫の2、3といつも共生してるおかげでアレルギーもない。
この地味で意味のなさそうな行為を何度もくり返し、全てのハエを締め出すことに成功した!
なぜか奴らは床にたかっていたもんだが、床を這いつくばっているとニオウ、そう、奴らの「オイシイ」臭いが臭うのだ。
どうもこれはドッグフードだ、子供らが食い散らかした残骸が至るところで臭っているのだ、ハエどもはこれを「味わって」いたのだ。
ぼくは微生物洗剤で雑巾掛けをする。
「雑巾掛け」。
ニッポン男女なら子供の頃経験したであろうあれだ。
寺の小坊主さんのようにブレイバウのようなポーズで床の上を手を使って走るあれだ。
これさ、大人になってからやったことある?
すげえつらいぜ?
うさぎとび?そういう辛さ。
子供の頃の体の軽さ、柔軟性を無くし重量の増した老いさらばえた体で行う動作としては非常に難易度が高いのだ。
けれど、幸か不幸かぼくの部屋は狭いのですぐに済む。
ほら、微生物の分解のおかげで臭いも消えたのではないか?
暑いし、頭は痛いし、吐き気もする。
けれど、ハエどもを一掃した清々しい部屋でぼんやりするのは幸せだ。