宅建士試験で40点取って合格するための最も簡単な方法はこのライトノベル小説を読むことです 第一章 権利関係編1-1

「二人を消したか?」
「へい。崖から車ごと落としました。少なく見積もっても十メートルの高さがありましたから、まず助かりますまい」
「そうか。よくやった……」
 グレーの和服をまとった角刈りの老人がねぎらいの言葉をかけると、フランケンシュタインといった風情の黒服姿の巨漢が畳に額をこすりつけて平伏した。
 老人は高級葉巻を口から離して手に持つと、掃き出し窓の向こうに広がる和風庭園を眺めた。大きな仕事を終えて、ほっと一息ついているという風情である。既に日は落ち、庭は闇に包まれている。灯篭がぼんやりとした赤い輝きを放っている。血のような赤。あの不動産王と呼ばれた強欲ジジイも血まみれになったんだろうなと老人はほくそ笑んだ。
「古鉄若頭」
 不意に別の男が口を開いた。この十八畳の和室には、今、三人の男しかいない。老人と巨漢。それから、如何にも女形という風情の細身の体つきをした若者だ。
 今言葉を発したのは、この若者である。若頭という言葉からも分かるようにこの三人は、堅気の人間ではない。
 古鉄若頭と呼ばれた巨漢――成金組若頭古鉄裕也が、
「侠元先生。何でしょう? 」
 と、改まった様子で若者に体を向ける。若頭と言えば、ヤクザ組織では第二位の序列。組長以外の人間に気を使う必要などないはずなのに、古鉄若頭は、一回りも年下の若者に腰を低くして応じている。
「二人とも同時に死んだのだろうな? 」
「同時に死んだというのは? 」
「まず、宅本健一が死亡した後、時間を置いて妻である宅本春子が死んだというような経過を辿っていないかということだよ」
 侠元先生と呼ばれた若者は、古鉄若頭をじろりと睨み付ける。
「へえ……。それは、多分、大丈夫と思いますが……」
 古鉄若頭は、頭を掻きながら目線を下げる。今、古鉄若頭の目は、侠元先生のスーツの左衿を捉えていた。金色に輝く丸いバッチ――弁護士バッチがそこにある。
 そう侠元先生こと侠元保志は、暴力団成金組の顧問弁護士を務めているのだ。成金組は組長である成金譲治を頂点に十人程度の少数精鋭で回している小さな組織である。それでいて、不動産関係のシノギをメインに手掛け、他人の名義を使うなどして、いくつもの不動産を所有している。年間の収益は数十億にも達するとされており、小さいながらもかなりの資金力を有する組織である。
「多分とはなんだ。多分とは」
「へえ……? 」
 古鉄若頭が巨体を縮めて、丸刈りの頭を掻きながら、上目遣いに侠元先生を見る。まるで教師に叱られている中学生のようである。
「古鉄」
 老人――成金組組長成金譲治が紫煙を上に吐きながら、口を開く。
「はっ。なんでしょう」
 古鉄若頭が成金組長に体を向けて、さらに畏まる。
「ちゃんと説明しろ。重要なことだぞ」
「重要なことですか? 」
「バカ野郎! 分からねえのか? 」
 成金組長の雷声に、古鉄若頭が首をすくめる。
「すいません……。法律のことはどうも疎くて……」
「それでよく、成金組の若頭をやっていられるものだな。宅建の勉強くらいしろ」
「へい。今、勉強しているところで……」
「それなら、権利関係、相続の分野を勉強しただろう? 」
「へえ……。まだうろ覚えで……」
 古鉄若頭が慌てて、スーツの内ポケットから電子書籍リーダーを取り出した。普段はヤクザのシノギの合間に、宅建の電子書籍で勉強しているのだ。
「相続は、何によって開始されるんだ? 」
「へい……。相続は……」

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