毎日一分で読める民法基本問題44
★今日の問題★
被保佐人である権利者が保佐人の同意を得られないため訴えを提起できない場合は、その権利についての消滅時効の進行が停止する。
胡桃「10秒で答えてね。よーいどん!」
建太郎「おう」
1秒
2秒
3秒
4秒
5秒
6秒
7秒
8秒
9秒……
胡桃「10秒経過。どうかしら? 」
建太郎「ええっと……。これはどう考えたらいいんだ? 」
胡桃「この問題を解くためには、次の条文の知識が必要だわね」
民法
(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)抜粋
第百四十七条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 裁判上の請求
胡桃「まず、債務と言うのは、債権者から請求を受けない状態が5年、あるいは10年続けば、時効によって消滅するとされているわけね。次の規定よ」
民法
(債権等の消滅時効)抜粋
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
建太郎「うん。何度も見る条文だな」
胡桃「ただ、債権者が、この債権に関して、裁判を提起している間は、この5年、あるいは10年の時効期間が進行しないという意味なのね」
建太郎「裁判を起こしている間に時間切れになったら、意味ないもんな」
胡桃「そして、被保佐人が裁判を起こすには、保佐人の同意は必要だったかしら? 」
建太郎「必要だね」
民法
(保佐人の同意を要する行為等)抜粋
第十三条 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
四 訴訟行為をすること。
胡桃「じゃあ、保佐人がこの同意をしないために、被保佐人が裁判を起こせなくて、消滅時効がどんどん過ぎていく。この場合、消滅時効の進行を停止することができるのかと言う問題ね」
建太郎「うーん。それは、そういう制度があるかどうかを知っているかどうかの問題? 」
胡桃「結論から言うと、そんな制度はないわ」
建太郎「じゃあ、こういう場合、どうしたらいいんだ? 」
胡桃「そんなときのために、こういう制度があるでしょ」
民法
(保佐人の同意を要する行為等)抜粋
第十三条
3 保佐人の同意を得なければならない行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。
建太郎「あっ。そうか。家庭裁判所から保佐人の同意に代わる許可をもらえばいいのか」
胡桃「そうよ。こういう制度があるんだから、消滅時効の進行が停止する。という特例を設けなくてもいいということね」
建太郎「なるほどな」
胡桃「ちなみに、これは判例の問題なのよ。判例の考え方を参考までに載せておくわよ」
旧法時代の判例であるが、「準禁治産者である上告人が本件訴を提起するにつき保佐人の同意を得られなかつたとしても、そのことによつては、本件損害賠償債権の消滅時効の進行は妨げられない」とされている。
この解釈は現行法でも変わらない。
その理由は次のとおり。
消滅時効は、権利者において権利を行使することができる時から進行するのであるが、消滅時効の制度の趣旨が、一定期間継続した権利不行使の状態という客観的な事実に基づいて権利を消滅させ、もつて法律関係の安定を図るにあることに鑑みると、右の権利を行使することができるとは、権利を行使し得る期限の未到来とか、条件の未成就のような権利行使についての法律上の障碍がない状態をさすものと解すべきである。ところで、準禁治産者が訴を提起するにつき保佐人の同意を得られなかつたとの事実は、権利行使についての単なる事実上の障碍にすぎず、これを法律上の障碍ということはできない。(最判昭和49年12月20日)
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