2022年 お気に入り音楽を振り返る②
第二弾としては①ほどではないが、これまた2022年のお気に入りアルバムになったものたちである。
とはいえ、聴き直してみて、①に匹敵するモノが多いなあと改めて感じている。
■ Alexander Hawkins Mirror Canon - Break A Vase [2022][intakt]
イギリス・リーズ在住のピアニストAlexander Hawkinsはリリース重ねるに毎にステージ上げるだけでなく幅も拡げていく。現代音楽寄りな即興や音使いはいつも吸い寄せられてしまう。本作ではUK現代ジャズ人気者Shabaka Hutchingsも参加。
■ Andre B. Silva - Mt. Meru [2022][clean feed]
自然と宇宙と哲学と。そして「山」。一曲一曲が物語りとして完結しているのに全体バランスと流れがいい。6章立ての短編映画を観てるかのごとく曲が続いていく。即興のようなフレーズが短いスパンで方向転換しまくってるのに構造というかメロディが立ってるからとてもドラマチック。改めて再聴して、コレ、抜群に良くない??ってなってる。
■ Brandon Seabrook With Cooper-Moore And Gerald Cleaver - In The Swarm [2022][Astral Spirits]
1曲目の高速バンジョーでパンチを喰らった。ポストパンクが登場したころの高揚感に似てるというか、予測不可能な音編集や繋ぎ合わせが登場し妙にワクワクさせられる。彼らはこのジャンルを「ドゥームボサノバ」と言うらしい(笑)、でも確かにジャンル名に異論なし。
■ Dave Gisler Trio With Jaimie Branch And David Murray - See You Out There [2022][Intakt Records]
攻めのアヴァンギャルドとべったりなブルースと剥き出しのパンク、これらが見事に共存。Murrayの豊富なバリエーションと溢れ出る才能、Branchの感性の素晴らしさがとてもよく出てる素晴らしい作品。
■ Gustafsson, Lugo - Vertical [2022][SUPERPANG]
肺活量全快なGustafssonという色は大人しく、崩壊したマシンが狂い咲きした腐食ノイズで終始溢れ返ってる。「AIツールとアルゴリズム」という解説を見てわかったようなわからないような微妙な感覚ではあるが、AIを機能させるためのサウンドデータベースはなんだかすごいことになってそうだなと想像できる。
■ Jacob Garchik - Assembly [2022][Yestereve]
アルバムの中にスイングジャズのような直球な(に感じさせる)曲もあったりするものの、大部分は2つ以上のレイヤーに分けて異なるモノ(リズムだったりメロだったり)をオーバーダビングしたユニークな構造な曲が詰まっている。流れが異なる2種のフレーズを交差させ切り替えて1曲にしたり面白い曲作りしてるなあと感心しながら拝聴。
■ Louis Sclavis - Les Cadences Du Monde [2022, JMS.]
いつもながら艶っぽいクラシック的なジャズである。高齢ながらクラリネットのすべりが良く名演奏、2人のチェロと打楽器を上手いこと繋げるものだ。SclavisといえばECMの人と思ってたので他レーベルリリースは驚いたが、Manfred Eicherがいつまで経ってもリリースしてくれず棚に放置してたのを見て、自分でリリースしたというエピソードが好き。
■ Mali Obomsawin - Sweet Tooth [2022][Out Of Your Head Records]
カナダ・オダナクのワバナキ先住民であるMali Obomsawin。ワバナキ過去/スピリチュアル/現在 の3部構成。フラットなベースにサックスとギターが切り替わりながら交差しフリーにドライブするスリリングさ、聖歌〜聖歌演奏〜フリーインプロの流れ、ワバナキの語り(恐らく)のサンプリングに乗せるジャズ奏。最後はジャズロック的な展開で締める。素晴らしい。
■ Mario Salvador, Marcos Morales, Yasel Munoz - MASINTIN [2022][577 Records]
トレスというキューバの弦楽器(絵的にギター)を軸にしたトリオ。アルバム通して平たい展開が続くのだが、スチール弦ダイレクトなアコースティックと電子処理加えたエレクトロアコースティックの絡めかたが面白いし、実は主役はフルートじゃないかと思わせる管楽の良き仕事っぷりは楽しめた。
■ Patricia Brennan – More Touch [2022, Pyroclastic Records]
メキシコ出身NY拠点に活動するPatricia Brennanの作品、今年もお気に入りになりました。比較的平坦なヴィブラフォンの音をピッチベンド、エフェクト、サンプリングの使いまくり抽象化しつつもリズム隊とのインタープレイで具体的な軸を表出させる面白い曲構成。
■ Qasim Naqvi, Wadada Leo Smith, Andrew Cyrille – Two Centuries [2022, Red Hook Ltd.]
ジャズ meets 電子音響という作品はこれまで存在し定着してるカップリング。その中でこのアルバムの面白さは音響とアコースティックを分けそれぞれが「楽器」として定義されてることかな。人の演奏に余計な加工をしない、チョッカイ出さない。全てNaqvi作曲とか、師弟関係にあるCyrilleとNaqviが初共演とか、背景も面白い。
■ Simon Nabatov - No Kharms Done [2022][Leo Records]
ロシアのピアニストSimon Nabatov、リリースされるアルバムは毎度(個人的に)傑作が多い。こちらはソ連/ロシアで革命的な作家陣をテーマにした作品。その作家陣、誰一人存じ上げないがすべて反体制派な人ばかり。戯曲?芝居小屋?サーカス?寸劇か三文芝居を軍楽隊によるフリージャズ+Phil Mintonのヴォイスとともに繰り広げられている。作家に対するリスペクトと体制に対する皮肉の両方が存在する快作である。
■ Tony Malaby, Angelica Sanchez, Tom Rainey – Huapango [2022, Rogueart]
誰がリードするわけでもフォローするわけでもなく息つくタイミングが分かり合えるからできるんだ、というような当人たちのコメントを見て、私の苦手な「皆が好き勝手にやるドンチャン即興か?」と警戒したが、曲の長短は様々で10曲とも誰が止める音頭とりもなくキチンと収まる、まるで計画・計算されたかのような内容だ。彼らは本当のことを言っていたんだ、と。
■ Víkingur Ólafsson – From Afar [2022, Deutsche Grammophon]
正直クラシックスは詳しくない。しかしアイスランド出身ピアニスト Víkingur Ólafssonは面白い。通常は1作曲家を取り上げ再解釈したアルバムを作る。本作はハンガリー作曲家Kurtág Györgyに宛てた手紙として選曲し演奏する。言葉を綴って文章にするプロセスと同様に曲を繋ぎ「言葉では言い表せない、言葉にできない」思いを届けたということ。もう一つユニークなのが、この2枚組のアルバム、1枚目はグランドピアノ、2枚目はアップライトにより全く同じ演奏をしてること。アップライトピアノ、別名フェルトピアノ、構造違えば音の出し方も違うので全く異なる曲に聞こえる。ピアノ曲でフェルト部の擦れ音まで取りこぼさず残し作品とするとは。
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