専門家目線になる漢方薬の使い分け⑨ 〜『桂枝湯』と『桂麻各半湯』
春休みも終わり、新年度の始まりですね。
今回は、前回ご紹介した麻黄湯に続いて、風邪の時に使える漢方薬についてご紹介いたします。
桂枝湯
桂枝湯は、多くの漢方薬のベースとなっている漢方薬です。
例えば次のような漢方薬は桂枝湯に何らかの生薬を加えて作られました。
●葛根湯
●桂枝加竜骨牡蛎湯
●柴胡桂枝湯
●桂枝加芍薬湯
●小建中湯
●桂枝茯苓丸
桂枝湯の適応
桂枝湯は、風邪は風邪でも虚弱者の風邪に適した漢方薬です。
適応:悪寒発熱や頭痛を感じ、汗ばむ感冒症状を訴える人に
葛根湯や麻黄湯と違って、体力がなく病邪と戦う力があまりないために、汗をかきやすかったり、熱は出てもそれほど高熱は出ずに、ずっと寝ていたい、動く気力もない・・というような状態に使われます。
具体的には、高齢の方や普段から体力がなくすぐに疲れてしまいあまり食べられないような少食の方が風邪をひいたときに一番におすすめできる漢方薬です。
桂枝湯の構成生薬
桂皮:温中補陽 散寒止痛 温経通脈 発汗解肌 通陽(からだを内側から温めて邪を除き、痛みをとる)
芍薬:補血斂陰 調経 緩急止痛 柔肝平肝(血を補い緊張をほぐし痛みをとる)
甘草:補中益気 生津 緩急止痛 調和(気を補い、痛みを和らげる)
生姜:発表散寒 化痰燥湿 温中止嘔 解毒(胃を温めて余分な湿をさる)
大棗:補脾健脾 養営安神 緩和薬性(気血を補い、栄養を補う)
桂枝湯を構成する生薬は、普段から食材としても使われるような生姜・なつめ・シナモン・甘草などからなり、マイルドな漢方薬であることが想像できますね。
桂麻各半湯(けいまかくはんとう)
桂麻各半湯は、その名前の通り、桂枝湯と麻黄湯が半分ずつ配合された
漢方薬です。
麻黄湯ほどの体力がないけれど、風邪の症状が比較的強い(咳き込みや頭痛・悪寒など)場合に、使いやすい漢方薬です。
麻黄湯は、発汗作用も強く風邪の初期に短期間飲むのは適していますが、長引く風邪には適しません。
咳や風邪症状が長引いていて、続けて飲みたいという時にも良いでしょう。
まだ寒い時期(2月終わり〜3月初め)の咳の症状がひどい花粉症に使う
と良い場合もあります。
桂麻各半湯の適応
比較的体力虚弱で、頭痛・悪寒・発熱・咳・皮膚のかゆみなどを訴える感冒に
皮膚の痒みというのが適応にあるので、花粉症の症状で咳などの他、皮膚のかゆみもある場合にも良いですね。
桂麻各半湯の構成生薬
*桂皮と甘草は、麻黄湯と重なるので除かれています
●桂皮
●芍薬
●生姜
●大棗
●甘草
(ここまでは桂枝湯の構成生薬)
●麻黄:発汗解表 平喘止咳 利水消腫 去風湿 散寒(咳をとめて体を温めて汗を出し邪を除く)
●杏仁:止咳平喘 化痰 潤腸通便(咳やたんをとる)
桂枝湯をベースに、麻黄と杏仁が配合されているため咳にも効果があることがわかりますね。
桂枝湯なのに『桂皮』が使われているのはなぜ?
日本で販売されている漢方薬は『桂枝』とつくのに生薬を見ると『桂皮』が使われていることがほとんどです。
中医学では、桂枝と桂皮は薬効が明確に分かれていて、
桂枝は、桂の若い枝が利用され、軽い発汗作用をもち、体内外の気血を温めてめぐらせるとされてます。
桂皮は、桂の皮が使用されており、桂枝より温める作用が強く、もっと体の奥から温める役割を持っています。
桂枝湯でいえば、内側に冷えがあるというよりは風寒の邪により体表面の冷えとめぐりが悪いために風邪の症状が出ているので、『桂枝湯』が掲載されている傷寒論(桂枝湯が最初に紹介された中国の医学書)には、『桂枝』が構成生薬として挙げられています。
日本では、桂皮と桂枝を区別せずに多くの漢方薬で『桂皮』が使われているのです。