タリバンが暫定政権樹立を発表
9月7日付のBBCウェブ版は、アフガニスタンのタリバンが33人からなる暫定政権樹立を発表したとその陣容などについて報じています。タリバンの今後における動向を注視していたG7首脳はその内容が余りにも旧態依然としていること及び要職に就いたメンバーがテロ組織と関連を有していることに落胆したに違いありません。
1 タリバンが発表した暫定政権の概要(33ポストのうち主なもの)
(首相代行) ムッラー・ムハンマド・ハサン・アーホンド
(副首相代行) ムッラー・アブドゥルガニー・バラーダル:創設メンバー
(副首相代行) モウラヴィー・アブドゥルサラーム・ハナフィー:ウズベク人
(国防相代行) モウラヴィー・ムハンマド・ヤクーブ: 副指導者兼軍事委員長; ウマル師の息子
(内相代行) ムッラー・シラージュッディン・ハッカーニー: 副指導者;ハッカーニー・ネットワーク指導者
(外相代行) モウラヴィー・アミールハーン・モッタキー 元情報大臣
高等教育相代行 モウラヴィー・アブドゥルバーキー・ハッカーニー
通信相代行 モウラヴィー・ナジーブッラー・ハッカーニー
難民相代行 ハリールルラフマーン・ハッカーニー:ハッカーニー・ネットワーク幹部;カーブル治安担当 ※(一社)中東調査会の資料から引用
2 上記暫定政権の陣容から分かったこと
◉ 国名をIslamic Emirateに変更したこと
◉ 女性の登用がないこと、ハザラ人(全人口の約15%、イスラム教シーア派)を排除するなど挙国一致体制ではないこと
◉ 内務省、高等教育省、難民省など治安や教育に関する重要ポストにはハッカーニー・グループ(詳細については後述)の幹部らを登用していること
◉ カルザイ元大統領、アブドッラー国家和解高等評議会議長、及び、ヘクマティヤール・イスラーム党指導者ら、有力政治家は今次の暫定内閣には入らなかったこと(恐らく調整に失敗?)
3 ハッカーニー・グループについて
ハッカーニー・グループ(HQN)は、米国から2012年9月19日に国際テロ組織として指定されており資金凍結、その他各種の国際テロ対策の対象となっています。創設者であるジャラルディン・ハッカーニーはUBL(Osama Bin Ladin)との親交があり1995年にタリバンに参入。2001年には米国とのアフガン戦争を逃れてパキスタンに潜伏。同人の息子で今回内務大臣代行に指名されたシラージュッディン・ハッカーニーは2015年7月にタリバンの次席として指名されています。
このシラージュッディン・ハッカーニーは、2008年1月のカブール市内におけるホテル襲撃事件とカルザイ元大統領の殺害未遂事件の計画に大きく関与したとみられており、米国FBIから重要参考人として指名手配されています。
HQNがターゲットとしている対象は、米国権益、同盟国、アフガン政府及び一般市民。勢力は、約3000−5000人、活動地はアフガニスタンおよびパキスタン。主な資金源としては、一般商業活動、恐喝、密輸、タリバンからの資金援助、パキスタンや湾岸諸国からのカンパ。(※ 米国務省のHPから抜粋)
4 今回のタリバン暫定政権の評価・演繹
8月24日のテレビ会合で今後のタリバンの動向に関して期待半分で注視するとしていたG7の首脳及び加盟国の政府は今回のタリバンによる暫定政権人事に対して落胆しているものとみられます。
今回の暫定政権人事については、タリバンが独自に考え編成したと見ることができるのでしょうか?8月31日に米国及びNATO軍の撤退後初めて自らの主導で国際社会に対して初めて発信し、今後のアフガニスタンを占う重要なポスト公表ですから、恐らく周辺国(パキスタン)或いは大国(中国)が大きく関与したものと考えられます。
一部情報では、中国が全力を傾注している「一帯一路」政策にタリバンが自ら関与を望み、その代償として半ば中国の「言いなり」にさえなっているというのではないかと言われています。
そういう意味においては、今回の暫定政権発表はタリバンが西側諸国に訣別を告げ、親中国家としての道を歩み始めた兆候として捉えることができるかと思います。
いずれにしても、今後のアフガニスタン情勢がパキスタン、イラン、中国などの周辺諸国は言うに及ばず、日本を含むG7各国、そして東南アジア諸国や中東アフリカなど言ってみれば全世界に少なからず影響を与えることは否定できず、以後の動向が注目されます。
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