見出し画像

散歩好きのお宝マップ。

初めて訪れる街で、入手できると嬉しいのはガイドマップです。

この前、夜8時半ごろに到着した街で夕飯を食べようと思ったものの、あたりは暗くてどこに何があるやら分からず。そんな時、宿のカウンターに「お得なクーポン付き夜の飲食店MAP」が置いてあり、「お一人さま大歓迎。女性の方もお気軽に」「平均予算3,000〜4,000円」などの情報があったりしてとても便利でした。
その冊子、イラストはすべて「いらすとやさん」のもので、エクセルか何かで作成した100%広告で構成された(読み物要素ゼロ)ものだったため持ち帰らなかったけれど、旅先の夜道を照らしてもらえた情報と地図に感謝しています。

味気ない地図でもそうなので、「大事に取っておきたくなるマップ」は散歩好きにとって宝の地図というか、宝そのものだと言えるかもしれません。
一人で歩くだけでは気づけない、一本向こうの通りや信号二つ先の界隈のことなど、鳥や衛星の目線?で知ることができて、さらに描き手(編集者)の実感がこもった地域愛を感じることができると、そのエリアが特別なものになるような気がして。
そんなわけで、今回は世の中にある様々なガイドマップへの感謝と敬意を込めて、(と言っても熱心なコレクターというわけでもないけど)2019年〜最近入手した中から画像を載せてみます。後半では近年自分が携わるようになった奈良のガイドマップについて少しご紹介をします。

1.ガイドマップコレクション2019〜2024 

まず、ここで挙げるガイドマップは、基本的にフリーペーパーや無料で分けていただいたものか、有料でも50円までに限ります。
世の中に出回っているマップ類の形式はバラバラで、そのうち今回紹介するものはこんな感じですが、世間で見かけるだいたいのマップはこの中のどれかに当てはまるのではないかと思います。

サイズはA4一枚ものからA3あたりが多い印象。同じサイズでも折りたたみ方は様々。我が家にある最大のマップはA0サイズを折りたたんだもの。折りたたむとA3をたたんだものと同じサイズに。

①『カキモリのある町』は折り目のない大きな(B3)一枚ものの地図。蔵前と田原町と浅草あたりまで広く掲載されていて、それぞれ別の機会に訪れることはあっても広範囲で俯瞰することはなかったので「へぇ、こんな位置関係だったのか」と分かって新鮮です。
地図が印刷されているのは、裏面がツルツルの製図用紙(ハトロン紙)。この紙は昔、手描き100%で寝具カバーなどの図案(デザイン)を制作していた頃、下書きの絵を鉄筆でケント紙にトレース(紙に凸凹の跡をつける)するのによく使っていました。触るとシャリ、パリッと音がする質感がいい。
公式サイトも素敵なのでよかったらぜひ。

カキモリインクスタンドで入手できる(無料)。シンプルな線と色使いが良くて、方位記号がインクを扱うお店ならではでかわいい。画像は部分の切り抜きです。イラスト©️溝川なつ美

②続いては、どこか懐かしい孔版印刷の2種類。
左は『新代田〜下北沢 本屋お散歩MAP』(A3サイズ、50円)で、迷路みたいな通りの形自体が面白く、そのあちこちに本屋さんが存在するのが嬉しい。
右は文学フリマで安達茉莉子さんの冊子を買った時にいただいたもの。横長の地図の上下のスペースに楽しいイラスト付き情報がぎっしりの『尾道YOUR MAP』。友人からの手紙に添えられた絵と文のようで、眺めているとワクワクします。

左:制作Books&Something BOOK LOVER'S HOLIDAY、右:制作:尾道アートビオトープ 絵・デザイン©️安達茉莉子、企画©️ゆきたまこ

③お次は『文京区プラプラマップ』(A4)。家族や友人が暮らしている(いた)関係で一時期よく歩いたので、親しみと懐かしさを覚えるエリアです。
優しいイラストと穏やかな色合いのマップはplateaubooksさんのサイトで全体像を見られるのでよかったらぜひ。
右は初めて歌舞伎を観に新橋演舞場へ出かけた時に近くのビルで入手したマップ。裏面には地図上にあるお店情報が写真と共に紹介されていて見やすく、銀座でよく迷子になるのでこうした限定地域の地図ってとてもありがたいです。イラストの建物の描き方がカッコいい。

左:制作・配布plateau books(白山)©️Eri Segawa、右:制作HIGASHI GINZA×Hanako

④ガイドマップの枠からは少しズレるかもですが、2018年から毎年8月に発行されているという『だいたから』という冊子の表紙や中に収録された地図も好きです。
2013年に小田急線の東北沢駅~下北沢駅~世田谷代田駅の区間の約2.2kmが地下化されたことで線路跡地が再開発されて、その関連で世田谷代田(ダイタ:その地名は伝説の巨人「ダイダラボッチ」に由来するという)の歴史や文化、街の隠れた魅力などを紹介するために有志やサポーター(マップ掲載店)によって作られているのだとか。
創刊号だけ300円で、その後はまさかのフリーペーパーとして配布されているこちら。地図や冊子の詳細は「ふくもの堂」さんのHPで紹介されています。

企画編集:だいたから編集部、ロゴデザイン:熊谷理緒、本文デザイン:micro fish、
マップイラスト:©️島田涼子

⑤冊子といえば、地下鉄構内で色々もらってくるフリーペーパーの中で読み応えあるなぁと思ったのが、スターツ出版が発行している【メトロミニッツ ローカリズム10月号】(no.250)でした。こんな風に「音楽」というくくりで街を紹介してくれると、そのエリアの雰囲気がよく分かってありがたいです。「森ビル」とか「アークヒルズ」とか何となく耳にはしていたけれど、そうか、こういうエリアだったのかと。

発行:スターツ出版株式会社 発行人:菊池修一 編集人:古川誠
ARK HILLS MUSIC WEEK2023のページはp.06~07、
イラスト©️STOMACHACHE テキスト: SHINKO KAWASAKI

⑥ではここで、我が家にある一番大きなガイドマップをご紹介します。
これは世田谷を網羅して、読み物なども充実させるためにはこうせざるを得なかったのかもしれませんが…大き過ぎて広げるの大変。でも情報がたっぷりなので大切に取っておきたくなる作りです。大きさを伝えるためマッチ箱を並べてみました。

『歴史とアートに親しむ せたがや文化マップvol.3』発行:世田谷区生活文化部文化・芸術振興課、世田谷区教育委員会事務局生涯学習・地域学校連携課、マップのイラスト作者不明(素敵です!)

【2024年10月追記】
A1の大きなマップを入手しました。表紙からびっしり情報と愛が詰まっています。これはすごい。歩いて散策するための地図ではないけど、広大で3エリア(浜通り、仲通、会津)別に発信され、認識されることの多い福島県全体の今を知るためにゆっくり眺めたいです。全体はこちら(福島県ホームページ)で確認できます。

福島県広報課発行(2024)、監修箭内道彦さん絵&デザイン寄藤文平さん

⑦次はお店の商品案内を兼ねたマップ。父(数年前に他界)のお友達が、関西を離れた私を気遣って時々送ってくださるのが京都・大徳寺近くに本店を構える「大こう」さんのお漬物で、その包みに添えられているのが京都観光案内地図付きのリーフレットです。地図を眺めて送り主のお住まいはこの辺だから今度伺おうとか、地名ごとの思い出に浸ったり、なんだか京都の中心部を神目線で独り占めするような気分になれるのがよくて。

京漬物 大こう本店の京都観光案内地図付き商品案内。

少し横道へそれますが、京都で育った私はフリーペーパーの『K-ITELAND』(カイトランド)が大好きでした。今も出先でいろんな紙ものを持ち帰る癖や、自分でフリーペーパーを作る趣味にどこかでつながっているかもしれません。

K-ITE LAND のサイトのスクリーンショット。画像からサイトへ飛べます。

公式サイトの紹介文がとてもいい感じなので、引用してみます。

(前略)
編集は京都の大学生がボランティアで取材や記事、版下まで手がけ、毎月完成すると喫茶店から美容院まで、京都のいろんな所に置きました。インターネットがない時代、なにか欲しい情報がある場合は「あそこにカイトランド置いてたな」とか「どこかでカイトランド探そう」という感じで、まずはカイトランドを見つけるところからはじまりました。B5をタテに2つ折したタテナガ、ハエやゴキブリを退治するのには便利なサイズ、いまのスマホのようなモバイルなメディアだったのです。

K-ITE LAND  ABOUT(80年代の京都 カイトランド|kiteland since1981)より

私は30代から関東を転々としながら暮らすようになり、40代で京都に戻ったり奈良に引っ越したり、今はまた関東にいるのですが、その間ずっとフリーペーパーは好きで。ただ、ガイドマップをここまでありがたく思うようになったのは、数年前の奈良暮らしがきっかけです。
観光地ということもあって、いろんな場所で興味深いガイドマップを見つけたり、人から分けていただいたり、ある時自分でもマップ作りを思い立ったりもしたので、さらに地図集めが加速したような…
様々な方からいただいたマップの中には残り部数の少ない、または発行からかなり年月が経過した貴重なもの、読み応えのあるものもあって、今も大切に保管しています。下の画像はそのうちの一部で、よく眺めているお気に入りたち。

左「てくてくまっぷ」企画・発行:近畿日本鉄道(株)、制作・印刷:(株)アド近鉄イラストマップ:トシ・アトリエ©️瀬川俊朗(A3両面印刷)、中上「きょうばて見どころMAP」制作:きょうばて見どころ会、絵地図制作:©️5*SEASON(アトリエ五想庵)中下「伝統行事&お祭りBOOK 奈良町」制作・発行:奈良市(観光経済部 奈良町にぎわい課)右「石仏・茶湯・古城のふる里 奈良きたまち散策MAP」制作・発行:奈良街道まちづくり研究会

そんな奈良時代、クラウドファンディングで印刷費を集め、地元の人から様々な情報や資料を分けていただいたり知恵をお借りして自作したのが『奈良きたまちお散歩ガイドブック』(2020)でした(画像からデジタル版へ飛べます)。

「奈良きたまちお散歩ガイドブック」企画・制作ハニホ堂©️kum2020~2021配布

その過程で交流するようになったお一人が「BURARIならきたまち」(通称ブラキタ)という地元のガイドマップづくりをされている方、Hさんでした。イラストやコラム、情報提供など各パートは分業制ではあるものの、掲載店や設置箇所との交渉から原稿制作〜入稿、配布までの作業の大半をHさんはたった一人で長年担っておられることを知り、尊敬の念と親近感を抱いたのです。
そんなマップ仲間的なご縁もあって、2023年からイラスト担当の方が編集部を離れたそうで私に声をかけていただき、イラストとデザインの一部で参加することになりました。
下の画像は、昨年のブラキタ春夏号と秋冬号(公式サイトで地図全体をご覧いただけます)。春夏と秋冬でそれぞれ桜や紅葉の情報を載せたり、その年ごとの行事やイベント日程が紹介されていたり、裏面にはコラムもあったりして情報ぎっしり。

『BURARIならきたまち』左:2023春夏号、右:2023年秋冬号、
制作・発行:BURARIならきたまち編集部、協賛:旧鍋屋交番と奈良きたまちの会

2.ガイドマップ「BURARIならきたまち」の話

いつも出先で面白いマップを見つけると、「これはどなたが思い立って、どういう人たちがどんな目的で作っておられるのだろう」などと興味を持つものの、地図情報がメインの限られた紙面からは詳細は分からず謎めいた存在のガイドマップが多くて、その神秘性も含めて魅力なのですが、昨年から奈良のマップづくりに少し参加することになり、成り立ちや経緯などを伺うことができたので、ここからは『BURARIならきたまち』(ブラキタ)の歴史を少しご紹介します。

私、元々はこのマップに自分のお店の広告を載せてもらっていました。
2019年秋。奈良の「きたまち」と呼ばれるエリアで小さなお店を始めた頃、近所のカフェでこのマップ(下の画像の左から2番目のvol.26、2019秋冬号)を見つけて「私の店も載せてもらいたいなぁ」と編集部にメールをしたのが始まりで、
それから約2年、マップに「ハニホ堂」を載せていただきました。当時の掲載料はたしか500〜600円だったかと。なんて良心的な。

左から『BURARIならきたまち』Vol.3、Vol.26,Vol29,Vol.31

お店を始めた翌年から世の中には大きな変化が起こりました。感染症の蔓延で、人々が外出や他者との接触を避けるようになったのです。上の画像の右から2つ目、2021年春夏号では他の号の表紙にいつも載っている「社寺伝統行事&イベントご案内」が消えました。
ほぼ全てのイベントが中止になってスペースが空いたので、そこを埋めるために私が少し前に完成させた『お散歩ガイドブック』のウェブ版の広告的なものを(無料で)載せさせてもらえないかとお話をいただいて、データを送ったりして。

その29号のブラキタ表紙で「ぶらきたがはじまって、10年経ちました〜!!」と書かれているのを見て、「へぇ、10年で29号ということは、一年に何号出してたのだろ?」と少し不思議に思ったものでしたが、その謎は最近ようやく解明されました。

・ブラキタのあゆみ


『BURARIならきたまち』(ブラキタ)は、2011年にvol.1が発行されたそうで、現在のような形ではなく、当初は結構大掛かりな読みものだったようです。
上に画像を載せたvol.3はA3両面の白黒印刷で、A3を横半分に折って、それを手作業でW折りにしていたらしく、vol.1はその2倍の量(A3の両面印刷を2枚分)だったとか。

2011年に飲食店を開いたある女性の発案で、商店街の若い店主さんを中心に手描きのフリーペーパーを作る会が結成されて、イラスト担当、編集・デザイン担当、記事を書いたり原稿のチェックをしたり、折ったり配布したりを、それぞれ分担しておられたそうで、ただ当初は年4回発行だったことで店主さんたちの負担が大きくなり、その後A3一枚に変更されて、読みものを減らして表面は地図と表紙のみ、裏面は広告だけという現在のスタイルに近くなったそうです。

そんな様子を見ていたフリーランスのHさん(以前からその街の他の団体や会のHP制作を担っていて、地元で顔が広く温厚な方)が「自分がパソコンでやります」と協力を申し出て、Vol.5からはイラストやコラム、テキスト部分などを担当される方々からの原稿を受け取った後はほぼHさんが一人で制作も配布も行うようになったのだとか。

2015年には冬号をなくして年3回発行になり、2021年(コロナの頃)から夏号をやめて、年2回発行になって今に至ります。
Hさんがブラキタマップに関して大切にしているのは、「継続」だそうです。
長く闘病されていたこともあり、だからこそ生きている間に社会にご自身の能力を還元したいという考えから、とも伺いました。
今回、最新号のvol.35の版下原稿やテキスト情報をやりとりする中で、長年続くマップの話を教えていただけてよかったです。

このブラキタが素晴らしいのは、広告を掲載していないお店の名前も地図に入れて、このマップを手にお散歩する方、何よりはじめて訪れた方のための親切設計になっている点です。
広告を載せている店主さんは、おそらく宣伝のためだけでなく、2011年に商店街の有志が形にしたものをHさんが引き継いで、それから長年ほぼ一人で多くの作業をやり続けている、そのことへの敬意と感謝からこのマップが存続するようにサポートする気持ちもこめて参加されているのかも…と思ったりもします。

数日前に届いた最新号のブラキタvol.35春夏号。せっかくカラー印刷なので春夏で使える目立つ色合いにしました。あと個人的に『光る君へ』という大河ドラマを観ているので、「キタマチコ」さんというキャラを勝手に姫カットにしてみました。

このブラキタだけでなく「奈良きたまち」エリアには他にもたくさん様々な切り口のマップがあり、それぞれ情報豊かで魅力があるのですが、地元の方や学者さんを始め、まちづくりなどに関する様々な活動や調査を続けておられる方々、30年以上前から移住して「きたまち」の魅力を発信しておられる方や、新旧問わずお店の方同士の交流などが充実しているのがそれぞれのマップに滲み出ているかもしれません。案内所などで見かけたら、色々ご覧になってください。

黄色い表紙が目印のブラキタ最新号は、春休み期間限定で近鉄奈良駅改札付近のラックに設置され、その他奈良きたまちエリアの広告掲載店や観光案内所、ホテルなどで配布されます。

先日ブラタモリの「正倉院」回でも登場したエリアですし、静かなお散歩にはぴったりな奈良のきたまちへ、ぶらりしにお出かけください。

******
街(町)は常に変化していて、新店舗がオープンする一方で移転や閉店するお店もあり、街歩きのために配布されるガイドマップは、変化に対応するため年に1〜2度は内容を更新する必要が出てきます。とても大変なことです。
私は一度ガイドブックを作ったきり、更新しなかったので、世の中に今あるガイドマップすべてに尊敬と感謝の気持ちでいっぱいです。
これからもたくさんのマップに出会いたい。そしてまたマップを苦労してでも自作したくなるような、ものすごくお気に入りの街に出会える日が来たらいいなぁ。