あなたと過ごした810日
点くはずのないマークに、わたしは首を傾げる。
このマークは「頑張ったご褒美」で点くやつだから、ログインしただけでは点かないはず。
通算ログイン810日を達成する
お知らせの内容はこれだった。
30回ログインするだけでもらえるボーナス。
ときどきサボってしまう日とか、時期もあるけれど、だいたい1ヶ月に1度のご褒美。
そうかそうか、今月もそんな時期か。
今回は何がもらえるかな〜とにやにやしてしまう。
*
思い出したのは突然だった。
唐突に気づいた、とも言える。
810日
それは、2年以上の月日がたっぷりと流れたことを意味する。
そしてわたしは覚えている。
このゲームを始める、少し前のこと。
*
友達と、友達の知り合いの3人で食事に行ったときのことだった。
わたしには分不相応なランチをご馳走していただけるとのことで、緊張していた。
友達もたぶん、緊張していた。
順番にお料理が出てくるタイプで、話す時間はたっぷりとあって、気まずいわけじゃないけれど、少しずつ話題を探していた。
そして、友達がやっているゲームの話になった。
知り合いもやっている、と言って、わいわいとおしゃべりをしたことを、今でも覚えている。
話題の、スマホアプリのゲーム。
「いいなあ」とわたしはつぶやいた。
たのしそうで、ずいぶんすこやかで、羨ましかった。
「やってみればいいじゃん」
むしろやろうよ!と友達は言った。
「でもわたし、そういうのやると、ハマりすぎて何も考えられなくなっちゃうからなあ」
怖いんだよ、と小さく笑った。
*
このときの「楽しそうな感じ」は、そのあと長らくわたしの心臓をぎゅっと締めた。
羨ましくて。
わたしの持っているスマホでもできるのに、わたしはなぜだか「できない」と思っていて
わたしには無理だ、と決めつけていた。
ゲームだって、一生懸命やるから楽しいのであって、それには時間も労力も掛かる。
楽しいはずなのに、なんだか紙一重。負けたら悔しいし。
ああでも、やっぱり羨ましいなあ。
やってみようかなあ。
*
よし、やってみるか。
と思って始めたのが、今のゲームだった。
友達がやっているゲームか、同居人がやっているゲームか悩みに悩んで、同居人がやっているゲームに決めた。
元になっているアニメもすごく好きで、わたしはやっぱり、ベルくんと旅をしたかった。
それから、810日と少し。
始めた直後に2周年の特別イベントが始まって、あまりにもすてきな話で泣いた。
3周年も、4周年も泣いた。
わたしはベルくんとたくさん冒険をして、色んなことを教えてもらった。
大きなイベントが始まる前にはわくわくして、カレンダーに日程を書き込んだりもした。
810日のあいだ
わたしは、あまりにもしあわせだった。
*
「ベルくんのことしか考えられない」というときも確かにあったし、
ログインすら面倒になってしまうときも、もちろんあった。
一生懸命頑張っているはずなのに、新規のユーザーにぼろぼろに負けて、本気で泣いたりしもした。
「次の冒険までは生き延びる」
涙を浮かべながら、そう思ったことも忘れない。
感情はずいぶん忙しなく、小さないことでも、わかりきったことでも落ち込んだりしたけれど
次の物語を読み切るまでは死ねない、と何度も思った。
そのことに支えられて、すこやかさを保ってきた。断言できる。
*
810日前のわたし、ありがとう。
「やってみよう」と思ってくれて、ありがとう。
最初はシステムを理解することに苦労して、「めんどくさいな」って思ったこともあったし、
頑張っても全然強くならないじゃないか、と嘆いたこともあったけれど。
あなたが踏ん張ってくれたお蔭で、
わたしはいま、確固たるしあわせを抱えながら、生きているんだよ。
ありがとうダンまち、ありがとうベルくん