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ひとりは、迷子にならないから

ひとりで出掛けるのが好きだと思う。

それは、誰かと出掛けるのが嫌い、ということではなくて。
わたしは、自分の機嫌がいちばん大事だから
「いま、行きたい」と思ったときに、誰も待たずに家を出たいんだと思う。

基本的にはおうちがいちばん好きだから。
いま、行かないと
きっと、ずっと行かないから。
一瞬のときめきを捕まえて、わたしは家を出る。

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このあいだは、横浜のほうにひとりで行ってきた。
興味のある展示会の最終日。
わたしはなんとなく、「行ったことある場所」とか「知らないところに行く」ことが、すごくすこやかで正しいことのように思っている。
別に、何を知らずに生きてたっていいのだけれど、「その駅、降りたことあるよ」とか、「それ、行ったことあるよ」と言えると、ちょっと安心する。
きちんと、生きている気がする。
もともとは、「初めての場所」が苦手だったからだと思うんだけど…
少しずつ、ささやかなことでも、経験を積み重ねていくことが”きちんとしたおとな”の、証のような気がしている。
きちんとしたおとなになる必要はない、と思いながら
わたしは、きちんとしたおとなに、憧れている。

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パシフィコ横浜って、すごく聞いたことがあるけど、行ったことがなかった。
横浜っていう土地は、すごく遠いわけじゃないんだけど、あんまり馴染みがなくって。
人生でふたりいた恋人と、1度ずつデートで行っている。
なんとなく、そういう距離だった。

何度か行ったことのある、みなとみらい駅は、一応知っている場所で、安心した。
そうして、パシフィコ横浜は、みなとみらい駅から本当に近いことを知った。
これで、次に行く必要が出たときに、わたしはドヤ顔で「パシフィコ、行ったことあるよ」なーんて、言えるのだ。

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ひとりは、気楽でいい。
今日の目的は達成されたので帰っても良い。
目的と、目的地を失ったわたしは、もう迷子にならない。
ぜんぶが、散歩になる。

わたしは、看板を見ながらぐいぐい歩く。
看板を見るのが好きだ。
わたしは、RPGの主人公になったみたいに、看板を見入る。
この街の近くには、こんなものがあるんだ、とひとりうなずく。
ちょっと広域の地図を見ると「この場所の近くなんだ」と、安心する。

今日は、シーバスという言葉を見つけたので、向かってみることにした。
かつて横浜近郊に住んでいた友達に「気軽に乗れるよ」と言われていたのだけど、
最後まで、この友達とシーバスに乗ることはなかった。
憧れの、シーバス。

出発の時間までまだ少しあったのだけれど、何も案ずることはない。
20分と少し。
わたしは、海辺を散歩することにした。

海って、いつもどきどきする。

わたしの生家は、川の目の前に建っていて、夏の遊びと言えば川だった。
みんなそのへんの川で泳ぐので、海にはほとんど行ったことがなかった。
18歳までの記憶で、海に行ったのは1度きりだ。
おとなになってから、電車に乗って何度か海を見たけれど、海にはずっと馴染めない気持ちでいる。
海とのその距離感が、好きだった。
いつでも、わくわくできる。

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たくさんのひとが行き交うのを、わたしは見る。
夫婦かな、ふたりで歩いている人が多い。
シャボン玉を飛ばす子供もいる。
わたしは歩いたり、座ってミルクティーを飲んだりを繰り返す。
そのあいだもずっと、波は揺れている。律儀に。

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海を知らないわたしは、船に憧れている。

切符を買って(切符、というものもロマンがあって好きだと思う)、「止まっている船に乗ってください」と言われて、また浮かれた。
建物を出ると、ひとつの船が止まっている。
わたしはきちんと、ひとりで浮かれていた。
船内に座れる席もあったけど、わたしは迷わず外の席を選ぶ。
何度も、揺れる波を見る。
止まっている船がぐらぐら揺れると、気持ち悪くなることを知った…

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そうして、船は港を旅立った。

さっきまで近くで見た建物が、ぐんと遠くなってゆく。
わたしは、嬉しくなって写真をたくさん撮る。
写真を撮りすぎると、外の景色をじっくり見れなくなってしまうので、要注意だ。
最初は写真をたくさん撮って、それからは外の景色をたくさん見た。
橋の下を通るたびに、わくわくした。

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10分と少しで、わたしの船旅は終わった。
みなとみらい駅近くの港から、横浜駅へ。
わたしは、海を見ながらハンバーガーを食べて、気持ちを落ち着かせようと思ったのだけど、おなかが空いていたのですぐに食べ終えてしまった。

次は、のんびりと横浜駅を探す。
都会は、親切だから、というのがわたしの持論で
上の方を見ると、しっかり看板で行き先が書いてある。
適当に歩いても、絶対に駅にたどり着ける。自信がある。
だからわたしは、勝手気ままに歩き続けた。

チョコレート屋さんのリンツを見つけたので、同居人にチョコレートを買ってあげた。
同居人は、リンツのチョコレートがいちばん美味しかった、と言っていた。
旅先で家族のことを思い出すのは、なんだかすてきなことなように思える。

良い気分になって、わたしはもう少し歩くことにした。

わたしは決して、「ここにあなたがいればよかったのに」とは思わない。
薄情なのかもしれない。
いつか「あなたと来たい」と思うことはあっても

わたしは、気ままなひとりを、今日も愛している。





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