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中野に住んでいたころのことを、覚えていない。 住んでいた期間も1年と少しくらいだった。 煙草を吸いすぎて、ヤニで本棚のあとがくっきりと残ったことには驚いた。 失恋のアレコレで絶望して、この街に逃げてきた。 引っ越した2ヶ月後には手を怪我して、ピアノを弾けなくなって 一緒に住んでいた男の恋人になってみて 彼が新しいバンドを始めて羽ばたいてゆくのを、呆然と眺めながら わたしは、自分のバンドを休止させた。 そして男がわたしを捨てて出て行った。 それが、この1年と少しのあいだに起こ
それは、ずいぶんとあたためた感傷であり、答えだった。 「女の怒りはスタンプ制。怒りのスタンプが満10個になると、爆発する」 というような例えを見たのは、もう何年も前のことだ。 女の、というのが正しいかどうかはわからないけれど、わたしは激しく同意している。 「べつにいい」「話すほうがめんどくさい」と我慢したもの、 なんならあるときは「たのしい」と思い込んで取り組んでいたことでさえ、どこかのタイミングで「なんでいつもわたしばっかり!??」と爆発する。 不思議だ。9個目のときま
そろそろ買い替えかなあ、とぼんやり思っている。 でも、まだ使えるし、いいや。と思う。 でも、そろそろ。 ほんとうに、いい加減にしたほうがいい。 内側の塗装?が剥げているのは気にしたほうがいい。 外側は、まだしも。 18歳のときに買ってもらったことを、わたしは永遠に忘れない。 従姉が、大学進学祝いで買ってくれたのは、やかんだった。 わたしが頼んだ。 進学とは、イコールして上京であり、ひとり暮らしだった。 人生で初めて与えられた、キッチン用品を自分で揃えられるチャンスに、
歩き始めて数分経ったら、チャイムが聞こえてきた。 平日、夕方5時の音。 この平日は、わたしにとって休日で、「散歩にでも行こうかな」と思っていたら、こんな時間になってしまった。 梅雨の湿気も、夏の暑さも得意ではなく、憎らしいと思ってしまうのに、日が長いのはちょっぴりありがたいと思う。 夕方5時でも、明るい世界。 だらりと過ごしてしまった日中の罪悪感は、かんたんに打ち砕かれてしまう。 夏至は、もうすぐだ。 * チャイムの音が鳴り終わった頃、ジャージ姿の中学生をすれ違った。 背