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深夜のフィナンシェ

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書いてみた短編小説と、小説っぽいもののまとめマガジンです。
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#創作大賞2023

ろくでもないサイコロ

「だいじょうぶだよ」と言う。 目の前のおとこは、やさしく笑う。 にんげんの、人生の、一体何パーセントが”大丈夫”なのだろう。 「大丈夫な人」と「大丈夫じゃない人」がいるわけじゃない。 「大丈夫な状態」と「だいじょばない状態」があるだけで、それは等しくなくとも皆に訪れる。 このおとこは、「だいじょうぶだ」と言いすぎている気がする。 言わせすぎているのは、わたしだ。 もう、「やむを得ない」のか、ただ甘えているだけなのか、わからない。 勤務時間がぐっと減って、家にばかりいるわた

サンドイッチの儀式

(おいおいマジかよ、うそだろォ……) ベッドにもたれながら、コーヒーを飲む。 ベッドと、本棚のあいだに置かれた”しまむら”のクッションは、お気に入りだけれど、少し薄い。 でも、本棚の隙間にコーヒー置き場を作って、まくらを抱えて座る。ここは、わたしのお気に入りだった。 4月12日 休日、晴れ。 信じられないほど晴れていた。 Tシャツの下に着ていたヒートテックを脱ぎ、ミッキーのTシャツ(正確には、キングダムハーツの”王様ミッキー”なので、ずいぶんと勇敢な気持ちだった)に、チノパ

コーヒーと百の物語

「今日は、スターバックスに寄って帰ろうと思うの」 雪だし、リモートワーク推奨だし、 今日はもう帰るね。 スタバの新作があーだこーだと少し話してから、「お疲れさまです」と言ってオフィスをあとにした。 スターバックスは満席だった。 いつもより帰りの時間はずいぶんと早く、雪の日だというのに。 ドトールも満席だった。 なんていうか、今日はそういう日なのだと思う。 外出したなら、コーヒーのひとつでも飲んで帰りたいよね。 わかるわかる。 わたしも、そう。 でも今日は寒いし、満席だし

ブリオッシュなんてなくても

コーヒーを飲もうとしただけなんだ。 信じて欲しい。 外でコーヒーを飲むということは、手帳を開くということで 手帳を開くということは、わたしにとってとても大切なことだった。 とても大切なのに、家では手帳をうまく開けない。 なぜだろう。 エッセイを書くこと、手紙を書くこと、ピアノを弾くこと 家では面倒だと思っていた大半を乗り越えられたわたしなのに、手帳ばかりはカフェで開くのがお約束となっていた。 だから信じて欲しい。 コーヒーを飲もうと思った。 コーヒーを飲んだら、手持ち無