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深夜のフィナンシェ

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書いてみた短編小説と、小説っぽいもののまとめマガジンです。
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#恋人

【掌編】 極上の孤独

ひとりを愛している 美術展も 公園も 水族館も 喫茶店もひとりで行く。 それは、他人を愛していない。ということではない。 予定を立てたり、約束をしたりすることは確かに面倒に感じるかもしれない。 でも、ただそれだけだった。 あなたを、友達を愛している。 ただ、それと同じくらいーーーそれ以上にひとりを愛している。 その触手は、食事にまで及んできている。 いままでは、「食事だけは誰かと」「ひとりならば家で」と思っていたが、ある日の午後、吸い込まれるように引き寄せられた洋食屋の

【小説】燃え上がるような恋じゃなくても

身体が、泥のように重い。 それは、恵那の意識とは遠いところで確かに存在している感覚で、無視することができなかった。 もう、起きていることすらできない。眠らなくてはならない。 這うようにソファーから抜け出し、「今日は寝るね」とミキオに声を掛けた。 「もう寝るの?」という問い掛けに、「うん」と答えたつもりだったけれど、果たして声になっていたのだろうか。 確認することもできずに、恵那はベッドに倒れ込んだ。 「布団を掛けてあげよう」 ミキオの声が聞こえる。 声に含まれる音色を、恵那は

【小説】アイスコーヒーのアイシテル

「あっつーーー」 3人の声が、気持ちよくハモって響いた。 2限の講義を終えて、外に出たところだった。 ついこのあいだまで梅雨の、曇模様の空だったのが嘘みたい。 今年はほんとに夏がくるのかなあ、なんて笑っていたのも、嘘みたい。 誰が招き入れたわけでもないのに、今年の夏もきちんとやってきた。 ついさきほどまでの講義は、全員必修の科目だったので、講堂で行われていた。 広い講堂を冷やすため、寒いくらいの風が膝を撫でていたというのに。 この寒暖差は、苦しいくらいだ。 「人間は、こん