ヒガンバナとリコリス・リコイル~番外編「花の塔の2番の歌詞を考える」
ごきげんよう、はねおかです。
今回は番外編として、ヒガンバナではなく別の植物からリコリス・リコイルを読み解いていきましょう。
「花の塔」は、ご存知、リコリス・リコイルのエンディングテーマ。
第11話「Diamond cut diamond」で、千束のピンチに駆けつけるたきなには男女問わず惚れてしまいますね。
ここから花の塔のイントロが流れて、ピンチから逆転。
千束とたきなが真島と対峙してエンディング。
王道とも言える展開ですが、胸を熱くさせてくれますね。
さて、エンディング曲「花の塔」は、作詞を歌い手のさユり氏が担当しており、この作品のために書き下ろしたそうです。
ということで、リコリス・リコイルという作品と花の塔の歌詞は無関係ではないということになりますね。
さて。
EDアニメでは、たきなの殺風景な部屋が、いろいろなモノで埋め尽くされていく描写があります。
これも当然ですがスタッフさんの指示があってのもので、これについての意図がスタッフインタビューで回答されています。
リコリス・リコイルでは、たきなが千束と触れ合って変わっていく様子というのも、一つストーリーの軸になっていると思います。
そんな花の塔、歌詞を読んでいくと「おや?」と思うことがあります。
一番の歌詞です。
この時点では、「くれた知らない名前のお花」と言っていて、植物というものに一切興味がない様子が分かりますね。
さて、ニ番の歌詞です。
一番の時点で何の植物を持ってきたかは分かりませんが、その時点では「知らない名前のお花」だったものが、今度は明確に植物の名前を挙げています。
それがフウセンカズラです。
さて、アナタはフウセンカズラを知っていますか?
こちらがフウセンカズラです。
フウセンカズラはムクロジ科フウセンカズラ属の植物で、植物というのは一般的には花を鑑賞し楽しむものですが、このフウセンカズラは名前の通り風船のように膨らんだ果実を鑑賞するものです。
その起源は古く、植物学者であり「分類学の父」として知られるカール・フォン・リンネが1753年に記した書物「植物の種(Species Plantarum)」においてフウセンカズラの存在を確認できるそうです。
現在では、壁面緑化に利用される植物として知られていますね。
一応、花は咲くには咲くのですが、あんまり面白みのあるものではないですね。
やはり膨らんだ果実を鑑賞するのがこのフウセンカズラの楽しみ方ですね。
さて、同じく風船状に育つ植物には、キキョウが挙げられます。
キキョウはキキョウ科キキョウ属の植物で、花が開花する前は風船状のつぼみをつけ、英名を「balloon flower」と呼びます。
また、膨らむといえば、ホオズキも挙げられますね。
ホオズキはナス科ホオズキ属の植物で、開花後に萼が果実を包み膨らんでいきます。
花の塔の歌詞では「飛ばす」とありますが、飛ばして遊ぶ植物といえば、コレでしょう。
タンポポの綿毛ですね。
キク科タンポポ属の植物で、植物には興味ないという人でも、さすがにタンポポくらいは知っていると思います。非常に知名度の高い植物です。
なので、「膨らむ植物」といえばキキョウやホオズキが、「飛ばす植物」といえばタンポポなどがあります。
なぜ、それらの植物を差し置いてまで、フウセンカズラを取り上げたのでしょうか?
フウセンカズラの知名度調査、なんてものはないので、世間一般の人がフウセンカズラをどれだけ知っているか分かりませんが、正直マイナーな植物ではないでしょうか。
少なくとも、キキョウやホオズキ、タンポポよりかは認知度でいえば劣ると思います。
さて、先程の足立監督のインタビューでは、EDテーマの歌詞の内容はたきなの心情である、という旨の回答があります。
そして、リコリス・リコイルはたきなの成長物語でもあります。
第1話「Easy does it」では、味方の命を危険に晒しても意に介さないたきなが、フキから鉄拳制裁を喰らっていました。
そんなたきなが、第9話「What's done is done」では、人工心臓が破壊され余命一ヶ月となった千束の話を聞いて狼狽しています。
第12話「Nature versus nurture」では、千束が唯一生存する手段である人工心臓を埋め込んだ(実際には埋め込んでなかったわけですが)吉松を殺してまで人工心臓を手に入れようとします。
「心臓が逃げるッ!」は、もはや狂気さえ感じますが、「他人を殺してまで生き延びたくはない」と千束に諭されます。
それだけ、たきなは千束に「生きていて欲しい」と思っているのです。
なぜ花の塔のニ番の歌詞にフウセンカズラを挙げたのか?
こればっかりは、さユり氏は2024年の9月に亡くなってしまったので、真相はもはや分かりません。
僕が思うには、フウセンカズラの花言葉があったんじゃないかな、と思っています。
フウセンカズラは、その風船状の果実を鑑賞する植物である、と先程言いました。
また、花言葉というのは1819年に、シャルロット・ド・ラトゥールという女性が「Le Langage des Fleurs(フランス語で「花言葉」の意味)」という書籍を発売したことで広まりました。
彼女は花言葉を名付ける際に、2つの面からアプローチしました。
1つはその植物の生態を観察して名付ける方法。
もう1つはその植物の歴史的・文化的背景から名付ける方法です。
前者はブラックベリーを「人目を避けるように生え、口に含むと苦みが残る」として「嫉妬」と名付けました。
後者は聖書の記述からオリーブの花言葉を「平和」と名付けました。
フウセンカズラの花言葉は、その風船状の果実が風に乗っていく様を例えて「一緒に飛びたい」「自由な心」と名付けられています。
これは、自らを「社会秩序の維持のための殺戮兵器」としての存在価値しか見出だせなかったたきなが、自由に生きる千束に影響を受けたことと無関係ではないと思います。
また、フウセンカズラの花言葉に、「永遠にあなたとともに」とあります。
本来余命一ヶ月だった千束は、新たな人工心臓を埋め込まれましたが、喫茶リコリコを抜けた千束は次の目標がありませんでした。
伊良部で千束と会ったたきなは提案します。
「新しいことから始めればいい」と。
こうして、喫茶リコリコは、ハワイで新たな活動を始めて、リコリス・リコイルという作品は幕を閉じます。
自由を手にした千束とたきなと、フウセンカズラの花言葉。
それこそが、花の塔の歌詞の意味だったんじゃないでしょうか。
永遠にあなたとともに。
これが、たきなから千束へのメッセージじゃないかと思う今日この頃です。