焦点深度ハラスメント
「焦点深度」もまた、時間を止めて、その場の空気を止めるワードである。
そして当然ながら刻なんて見えないで、ただただはてなマークだけが見えるだけである。
レーザを扱い始めて自分で焦点だしができるようになった辺りで、新呪文の「焦点深度」を受けることになる。
焦点だしが終わったと報告しに行ったら「焦点深度は?」と、マホカンタの様にカウンターが返ってくるのである。
「あんたが焦点だしをしろというから、焦点だしが完了したと報告しにきたのだ!」と、逆ギレしたいが「焦点深度」の意味を分かっていないがために逆ギレできずに怒りを飲み込んだ者たちのなんと多いことか。
ここではてなマークを全力でアピールしていると、「深度だよ?」と優しさに包まれた切れ味抜群のはがねのつるぎで2度目の斬撃を食らうことになり、もう帰りたい気持ちになる。
「焦点深度」のシンドがどんな漢字なのかも想像できていないタイミングで「焦点」を無くすというのが凶悪である。
だがしかし、先輩たちはハラスメントを楽しむために「焦点深度」がどうだったか尋ねているのではない。
「焦点深度」は加工対象の加工しやすや、量産工程でのレーザ加工の許容範囲、それにレーザや伝送光学系の正常さなどの大事な情報をまとめて確認できるので、自分の不安を解消するために聞いているのだ。
焦点は、焦"点"なので、数値としては1つしか存在しない。
いわゆるジャストフォーカスと呼ばれる数値である。
このジャストフォーカスから少しでも焦点位置がずれたら加工は成立しないのか、もしくはある程度ジャストフォーカスから焦点位置がずれても加工は成立するのかは、量産工程においてとても重要である。
そう、「焦点深度」とは「その加工が成立する焦点の範囲」となる。
そして深度と言うワードからなのか、日本語でも英語でも「焦点深度」は深い/浅いで表現する。
ここで重要なポイントは「焦点深度」は実際の加工や観察に対して、それぞれ決まっていくということであり、実際に加工や観察を繰り返しデータを集めて決めていくということである。
「焦点深度」は理論計算値で求めることができるが、それは集光径のサイズの変化量から決めているだけで、加工結果や測定結果を確約してくれるものではないのだ。
ジャストフォーカスでは最高の製品が作れる加工ができるのにジャストフォーカスから1umでも焦点位置がずれたら加工が成立しないのと、ジャストフォーカスから焦点位置が100umズレても加工が成立するのでは、レーザ加工機の導入可否の判断をも左右する。
加工対象と加工結果はお客様が決めたことなので変えられないので、焦点深度が深い加工方法や伝送光学系を実現することが、レーザ屋さんの腕の見せ所である。