シン・紫外とゴク・紫外
EUV3部作は、本記事でいったん完結である。
めぐりあい宇宙編だと思って頂きたい。
そのため、ゼータの鼓動やアクシズからの使者の気配を感じることとなるが、それはまたその時に楽しんで頂きたい。
EUV露光装置は、これまで最先端であったエキシマレーザを光源とした露光装置と、内部も大きく異なる。
ナメック星に降り立ち界王拳を発動させた孫悟空と、第二形態のフリーザ様2人分くらいの差があるのだから当然と言えば当然なのだが、その違いを知ることは結構楽しいものだ。
エキシマレーザとEUVという光源の違いは、なによりも波長に表れる。
ArFと呼ばれるフッ化アルゴンを媒質に発振するエキシマレーザの波長は193nmである。
それに対してEUVの波長は13.5nmである。
紫外線の中でも深い(短い)波長だから193nmは「深紫外」と呼ばれ、さらに短い波長のEUVは「極紫外」と呼ばれる。
じゃあ「普通」の紫外の波長はなんぞやと聞かれると回答に困るので、そこは見逃して頂きたい。
193nmと13.5nmの間には大きな壁が存在する。
わずか179.5nmというオレンジ色と青色くらいの色の違いにしかならない波長の間には、黄金聖闘士12人がチカラを合わせ命を賭さないと道を開けないほどの壁のような門が存在するのである。
そして、その門の手前の世界と奥の世界は全く異なるのだ。
ベタ塗りの面積も異なるが、手前の冥界にいる三巨頭など足元にも及ばない神が、奥の世界では待ち受けている。
この壁のような門こそが、ガラスの透過率である。
はねいぬ達人類にとって、ガラスは透明であるが、紫外線にとっては透明ではない。
紫外線にとってガラスがだいたい透明なのは深紫外までで、極紫外のEUVにとっては完全なる吸収体となる。
どんなに曲面が美しいレンズも、ガラス製ではダークマターのようにEUVを根こそぎ吸い取ってしまうのだ。
この壁のような門によって、193nmまで使えていたガラスレンズとミラーで構成された透過と反射を組合せた光学系は、EUVに対しては使えなくなってしまった。
ガラスレンズによる透過という光の特徴の一つを失ったのだ。
まさに冥界に飛び込んだ聖闘士のように。
その結果、EUV露光装置は透過を使えないという、圧倒的不利な戦いを強いられている。
にも関わらず、EUV露光装置が極細の回路を作れているのは、光の反射を神業のようにミラーを駆使しているからである。
極紫外の「極」は「反射」に掛けても良いくらいだ。
ミラーをただ反射に使うのではなく、曲率をつけてEUVを最終的に集光するのである。
言葉では簡単そうだか、最終的な線幅は2nmである。
2nmなんてミラーの自重による歪みだけで(たぶん)余裕で歪むし、(たぶん)固定するだけでその10倍は歪む。
だから(たぶん)ミラー自体を0.1nm単位で意図した形状に歪ませるような機構で制御するだろう。
しかもミラーの数は1つや2つではないから、地獄のようなアライメントを1つ1つするのだろう。
まさに職人が工芸品の完成形を思い描いて、長い工程を1つ1つ粛々と進めるようにだ。
もしかしたら、アライメントはボタン1つで自動で完了するのかもしれないが、ミラーの製造精度とミラーの固定精度はまさに極職人の技に違いない。
露光するための光学系だけでも神が作ったようなレベルなのに、(たぶん)EUV露光装置には超精度露光ステージや超精度測定器も備わっているのだから、レーザ屋さんの酒の肴は尽きないのだ。